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父親の沸点

友達と遊んで充足感に包まれながら、2時間半ほど電車に揺られ帰路に着いた。

さて昨日は日曜日だ。
外食をするか、家で食べるのなら父親の好みの料理を食卓に並べるか、その二択が私の家の決まりだった。

駅まで迎えに来てくれた両親の車に乗り込み、今日は果たしてどっちかなと思っていると、案の定父が今日のご飯どうする?と母に尋ねた。

父は食に対しての執着が凄く、少しでも自分の気分の食事でなければ不機嫌になる。
不機嫌という言葉で片付けたくないほど、その場の空気を支配してしまう。
それなのに自分で物事を考えるのは億劫なのか、母や私に選択肢を出せとせがんでくる。
母もそれが分かっているので、あんたの好きにしなさいよと半ば突っぱねたように答える。

私は母の返答を聞き、ああ終わったなと思った。
折角友達と遊んで楽しい気分だったのに、と。

母からそれを聞くや否や、「お前らがどうしたいかって聞いてんのに俺に聞くな、俺がわかるわけないだろ、お前らが決めろ」
とまるで自分だけが正常で、周りを異常とでもいうような物言いで捲し立てた。

私の記憶の中での父はいつだってそうだった。
自分に不都合な事があったり、正論であったとしても少しでも自分が責められたと思ったらもう止まらないのだ。
堰を切ったように人を見下した言い方で、半笑いで否定してくる。

こうなったら車内は地獄であり、私はいつも通り空気と化す。
昔から父と母は喧嘩が絶えなかった。
何かと口論をしていたし、幼い頃から布団の中で何度も泣いた記憶がある。
そうして身に付けた私の対処法は、何も喋らず物音を一切立てず、空気になることだった。

さて少し話が脱線してしまったが、父が日曜日に今日はご飯どうする?と聞く時は決まって外食したい時なのだと思う。

父の理想では、私が駅に着く頃に合わせて店の予約をし、待つことなく入店。ビールを飲んで、家に帰って寝るだけを思い描いていたのだろう。
それがどうやら理想通りに進まないぞ、というのが不機嫌の理由なのだと予測した。

理想及び要望を最初から口に出せば済むことなのだが、中々どうもこの中年男性はそれが出来ないらしく、察して欲しいらしい。
まるでメンヘラの相手をしているかのようだ。

私が記憶する限り、日曜日が来る度にこの口論を繰り返している。
元々の性格もあるのだが、近頃はどうも怒りの沸点が低すぎるような気がしてならない。

そこで調べてみて少し気になったことがある。
男性にも更年期というものが存在するらしく、年齢による男性ホルモンの減少でイライラしやすいというのだ。

もしかしたらこれなのかもしれないと、スクロールをしていくと解決法が書かれており、亜鉛を摂取すると良いと書かれていた。
父のことだ、イライラには亜鉛が良いらしいよと言ったところで、俺がイライラしてるって言いたいのかとヒステリックを起こすだろう。

父にご飯どうする?と聞かれたら、今後は亜鉛が豊富な料理をそれとなく提案しようと思う。

結局どうなったかというと、家でご飯を食べることになり、母が父の好物を作り、付けていたテレビにも父が好きな俳優が出てたことで機嫌が直り、ようやく私は友達と遊んだ余韻を楽しめるようになった。

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