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仕事帰りの算数(後編:彼との遭遇)

セブンを検索して地図を見ると、自宅を通り過ぎるか駅の向こう側に行くか、だった。もしかしたらここから3分ほどのイトーヨーカドーでチャージできるかもしれないが、大きな建物の中でATMを探し回るのが面倒くさい。遅番の帰りなのだ。しかも10分1往復分 無駄に歩いている。そしてそのせいか、履きなれた革靴のはずなのに靴擦れができているようだ。左足がかなり痛いことに気付く。この状態でこれ以上歩くと、皮がむけて血が出るか水膨れができるかしそうだ。意外と決断は早く、本日のチャージは諦めることにした。

左足をかばいながら、今度はゆっくりと自宅マンションまで歩いた。
ちょっと残念だったけれど、仕方がない。明日は仕事がお休みだから、明後日 通勤途中のセブンでチャージすればいい。期限があるわけでもないし、とても急いているというわけでもない。

そういえば、最近の私は急がなくなった、というか焦ることが少なくなった。

以前は、やるべきことが時間の中に入りきらず困っていた。トランクからあふれた荷物を、常に両手で抱えている感じ。重たいし自分の身体が思うように動かない。どうにか詰め込もうと、トランクを開けてみるがやっぱり入らず、もうダメだと落ち込む。荷物を減らしてもいいのだが、減らした先からまた別の荷物が届いたりする。
なんで時間の枠に入らないんだろう?

確かに要領のいいタイプではない。効率よく、というよりはゆっくり丁寧にすすめるタイプだ。というと聞こえはいいが、掛け算ができず足し算しかできない、ただの不器用者だ。頭の回転が速い方ではないと自覚している。だからといって、この元来の性格はもう数十年も生きてきて簡単に変えられるものではない。

では、環境が変わったわけでもないのに、なぜ焦らなくなったのか?
荷物が減ったようには思わない。むしろ増えているような気さえする。
「以前は、やるべきことが時間の中に入りきらず困っていた。」のだ。


・・・そうか、
「今は、やりたいことが時間の中に入りきらず、楽しい。」のだ。

そして、荷物は別に自分で持たなくたっていい。足元に置いてもいいしコインロッカーに預けてもいい。トランクを大きくするという手もあるし、なんだったら誰かにあげちゃってもいいのだ。
どうにかなる、と思ったら気持ちが楽になった。荷物があっても重たい思いして自分で持ち続けなくなった。

そんなことを考えながら家に到着、「ただいま」とドアを開けた。

すると先に帰っていた次男が、玄関横の自分の部屋からめずらしく顔を出した。
「どうしたの?大丈夫?」と心配そうに次男。
「えっ 何が?」
「いや、ボーッとして駅の方に戻っていくから、何かあったのかと思って」
「・・・」

あー あの宇宙人の中にいたのか!
やっぱり私の勘は当たっていた。

「なんだ、すれ違ってたの⁈
ちょっとね、コンビニに用があるのを忘れててね、戻ったんだ」
結局、事の次第を全部話すことになった。

私の話を彼は黙って聞いていた。

そして聞き終わると、
クールに「口座から直接使える設定にしちゃえばいいのに」
と一言。

そ、そうなんだけどぉ・・・

・・・やっぱり私は、足し算しかできない不器用者なのだ。


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