「私は彼女の親友だったらしい」第6話

 『親友の高橋あずみちゃんへ

 あなたは私の憧れでした。これからもあずみちゃんのことずっと応援しています。もしも生まれ変わったら、また親友になってくれると嬉しいです。さようなら』

これだけだった。しかし、これは立派な遺書だった。

自分の死を覚悟した、これから確実に死ぬことを望む人間が書いた文。

来世なんてありもしない、あったとしても巡り合える確証もない奇跡に期待する無駄な思考。これだけを読むと彼女は自ら死を望んだように見えるのだが、そうなると報道とは異なる。どういうことか。

黙って読んだ後も私はどうすればいいのか分からなくて、じっと遺書を見つめていた。

初めて見る彼女の文字。女子高生らしく、少し崩れた可愛らしい丸っこい字だ。

「読んでもらったけど、最近の甲斐田さんの様子はどうだったかな? 何か気になることとかなかった? 」

 黙って首を振る。そんなことを聞かれても、普段の彼女を知らない。違ったかも、同じだったかも私にはわからない。

「そっか。じゃあ、このお手紙読んでどうだった? 甲斐田さんが書いたものということはわかってるんだけど、なにか高橋さんにしかわからないこととか書いてないかな? 」

 暗号とかか? と思ったけどこれにも同じ反応をする。

「あの……」

「何かな」

「彼女は自殺なんですか?」

間瀬さんは、聞かれると思っていたのだろう。ゆっくり瞬きをして

「それはまだ調査中なの」

とだけ言った。

「でも、これ遺書ですよね。遺書があるってことは自殺じゃないんですか?」

「……遺書があるからって100%自殺かどうかは分からないのよ」

悲しそうな声だった。

「警察は怪しいことがあれば調べるものなの」

「……私のこと疑ってるんですか?」

「まさか」

間瀬さんはコピーした遺書を折りたたみながら

「甲斐田さんが親友っていうんだからあなたは違うと思っているわ。まあ、急なことで高橋さんもショックだと思うけど、心を強く持ってね。何か思い出したらいつでも連絡して」

と名刺を渡してくれた。

 そこにいた校長先生も宮内先生も一言も発することはなかった。私になんと声をかけていいのかわからなかったのだろう。私自身もなんて声をかけてもらえばいいのか分からない。ただ、違うのは、「私がショックを受けているだろうから気を遣わないといけない」という大人の勝手な私への評価だ。ありがとうございます、とだけ言って名刺を受け取り、私は校長室を出た。

 校長室を出ると、鳴り響く電話の音が聞こえた。先生たちもクラスのこともあるのに大変だなあと思う。時計を見るともう一時間目が始まりそうな時間だった。どうせ遅れてしまうのなら、ゆっくり行こうと歩みを遅くした。すると向こうから人影が近づいてくるのが見えた。

「よう」

やって来たのは達海だった。どうしてこんなところにいるのか。

「何してるの、授業始まるよ」

「一時間目の全校朝会は体育館であるらしいぜ、それを伝えに来たんだ」

「ああ、ありがとう」

「ここからだと教室に戻るより直接行った方が早いだろ?」

「そうだね。一緒に行く? 」

普段の私なら誘うなんてことしないが、今日は少し心細かった。もう他の生徒たちは集合してしまっているだろう。教室に遅れて入るのとは勝手が違う。どうせなら誰かと一緒の方が入りやすい。そう思って言ったのに

「ああ……そうだな」

達海は歯切れ悪く答えると私の前で止まり、じっと私を見た。首をかしげると、

「お願いがあるんだけど」

と言われた。

 聞きたくはないが、聞かないわけにはいかない。今まで数えるくらいしか話したことのない彼からのお願いだからだ。

「何? 」

言いにくそうに口をもごもごさせる。そこまでして言わなくてはいけないのか。こっちには集会に行かなくてはいけないのに。時間がかかるなら後でもいい?と言おうとした時。

「……俺と、付き合わないか? 」

聞き間違いかと目をぱちくりさせた。

「……は? 」

一方彼は、照れくさそうに視線を外す。

その表情を見て、ああこれは聞き間違えではなかったのだと理解した。それでも、はいそうですねと答えるほど、バカではない。

「なんで? 達海は甲斐田さんの彼氏だったんでしょ?」

「そうだよ」

「それで私と付き合おうだなんて、おかしくない?」

「そうか?」

いや、考えたらわかるだろう。いよいよ、頭がおかしくなったのか。

「俺、考えたんだよ」

達海が一歩近づいてくる。思わず一歩後ろに下がった。

「俺たち今、同じ悲しみを味わってるだろ?」

彼女を失った悲しみを。

「……そうね」

違うとは言えないので、同意しておく。

「だから、俺たちわかりあえると思うんだ」

「悲しみは半分こにしようって?」

「まあ、そうだな」

悲しみは半分こ、喜びは二倍に。よく聞く言葉。

馬鹿らしいと鼻で笑う。どうだ? と重ねて尋ねられたので

「ごめん、今そういうこと考える余裕ないから」

と断った。自分でもいい言い訳を思いついたと思う。実際そんな心の余裕はない。

 達海もこれには、そうか、と納得したようで

「でも、考えておいてくれると助かるよ。あ、俺先に行ってるから」

とだけ言って、走って去って行ってしまった。

なんだあれ、一緒に行ってくれればいいのにと思っていると、

「彼ね、だいぶショックうけてるみたいなのよ」

いつの間にか後ろに立っていた間瀬さんが言った。振り返るとまさかの間瀬さんの目には涙が浮かんでいる。ぎょっとして見つめてしまう。

「それもそうよね、付き合っていた彼女が急に亡くなってしまったんだもの。悲しいのは当り前よね」

いやいや、間瀬さん。あの人は今私に付き合わないか?って言ってきたんですよ。

そう言ってやろうかと思ったが

「昨日話聞いた時なんかずっと泣き通しで……見ているこっちもかわいそうになっちゃってね……」

その姿はなんだか母さんに似ていた。もしかしてと思って尋ねる。

「間瀬さん、もしかして子どもいます?」

「いるいる。中一の息子なんだけどね、うちの子もああやって成長していくのかななんて思っちゃうわけよ。素敵な恋をして素敵な相手と結婚して……なんて夢見ちゃうのよね。でも、彼女が亡くなっちゃうなんて、本当かわいそう。ね、彼がなにか間違いを犯さないようにちょっと注意しておいてくれると嬉しいな」

間違い、後追いのことだろうか。

それを私に言うのか、私はショックを受けていないように見えたのか。私は間違いを犯さない人間に見えたのか。いや、実際に犯さないけれども。間瀬さんがうるうるした瞳でずっと見つめてくるので、仕方なく

「わかりました」

と言っておいた。

そもそも、素敵な恋愛をして素敵な結婚をすることが幸せとは限らない。うちがそのいい例だと思う。父親は他に女を作って家を出て行った。母親は私を一人で育てた。幸せな結婚なんて夢のまた夢で、幼いころから苦労している姿を見ていたから、恋愛なんてばからしいと思っている。

つらいこととかあったら何でも連絡していいからね、と何度も念を押されて、ようやく解放された私は一人で体育館へと向かう。

校長室からだと体育館は近いので、結局一時間目には余裕で間に合ってしまった。二年一

組のみんなを見つけて静かに座る。すでに達海も座っていた。全校朝会が始まるまで各々私語をしている。クラスメイト達は私に話しかけたい雰囲気を出していたが、ちょうどその時に「起立」と教頭先生が号令をかけたので、話しかけられずにすんだ。

校長先生はゆっくりと壇上に上がる。さっき会った時とは雰囲気が違って、今から大事な話をするからちゃんと聞きなさいよと目で訴えている。体育館には誰も私語をする人はいなかった。先生はゆっくりと話し出した。

「みなさんも知っていると思いますが、一昨日、この学校の生徒が一人亡くなりました。その生徒は二年三組の甲斐田佳代子さん。甲斐田さんはいつも明るく友達もたくさんいる生徒でした。こんなことになって先生たちは大変悲しいです。もちろん、みなさんもショックを受けていることでしょう」

まるで、甲斐田さんが死んだのは学校に責任はないかのような言い方。明るくたって友達がたくさんいたって、死にたくなることだってあるだろうに。

先生は生徒たち全体を見渡して続ける。

「今回どうして甲斐田さんが亡くなることになってしまったのかは、警察の方含めて調査中です。もしかしたらみなさんに何かお話を聞くこともあるかもしれません。その時は協力していただけると助かります。なお、お葬式はご家族だけで今日行われます。学校からは参加を控えてほしいと言われていますので、お友達も参加することはできません。もう少しご家族の気持ちが落ち着いたら学校からお別れのご挨拶に行きたいと思いますので、それまで甲斐田さんのお家に行ったりしないようにしてください」

葬式に行きたいと話していたクラスメイト達は少しがっかりしたように視線を交わらせた。私は斜め前にいる達海の様子をこっそり伺う。彼氏である達海は誰よりも甲斐田さんとお別れしたいだろうに、微塵も動くことなく校長先生の話を聞いている。さっきの彼の言動を思い出しながら、いったい何を考えているのだろうと思う。

「最後に、今回のことで心にもやもやした気持ちがあったり、眠れないことがあったりと、心にも体にも不調が起きる人がいると思います。そういう時に相談できるように新しい学校カウンセラーの先生が来てくださることになりました。先生、自己紹介をお願いします」

「はい」

澄んだ声が体育館に響いた。校長先生からの紹介でステージに上がってきたのは若い女の先生だった。長い髪を後ろで一つ結びにしたきりっとした顔立ちの美人。カウンセラーというからには優しそうな雰囲気かと思っていたが、担任の先生でもおかしくはない、さばさばした雰囲気を感じた。急に来た新しい先生の存在に、全校生徒はざわざわとし始める。新しい先生は校長先生からマイクを譲り受けると

「初めまして、渡利涼子と言います。保健室の隣にカウンセラールームというのがあるのはご存じですか? 普段は倉庫状態になっていると聞きましたが、私は毎日そこにいます。相談したいことや聞いてほしいことがある人はいつでも尋ねて来てくださいね。扉は中に誰かいる時は閉まっているので、開いているときは中に入ってきていいですからね」

にっこりと笑うと優しそうな顔だった。まあ、私がお世話になることはないだろうなと思いつつ、話を聞いた。

 全校朝会が終わって教室にぞろぞろと向かっていると、クラスメイトから取り囲まれた。

「ねえねえ、さっき校長室で何話してきたの?」

「なんで亡くなったのか分かった?」

「遺書があったって聞いたけど、本当?」

口々に聞かれた。そんなことを答える義理はこちらにはない。

「そんなの、達海に聞いた方が早いんじゃないの?」

言い放つとクラスメイトはさっと顔色を変え、周りに彼がいないかを確認しだす。前田さんがこっそりと近づき

「それが達海くん、警察から何も聞かされていないらしいよ」

囁いて教えてくれた。

「遺書にも達海くんのこと全く書いてなかったんだって」

「彼氏なのに? 」

「そう。彼もすごく落ち込んでるから、いろいろ聞いたら悪いかなって思ってさ」

私だったらいいのか。

「ねえ、本当に何も知らないの?」

 前田さんの野次馬根性は私の中にもある。自分が逆の立場だったら、話を聞きたいと思うのは当然だからだ。それでも、なんだかイライラしてしまって

「知らない」

ぴしゃりと言い放つとそれから誰も話しかけてこなくなった。

奇しくも二時間目の授業は宮内先生の現国だった。昨日の今日なのでみんな宮内先生の噂を気にしている。先生はいつも通りに授業を進めていくが、みんなの反応が悪いことに気が付いたのだろう、開始十分ほどして怪訝な顔をした。

「みんな今日はどうした? 集中力が足りないぞ」

 どう返事をしたらいいものかわからず、お互いの顔を見合わせる。すると

「先生、質問してもいいでしょうか」

 本郷さんが手を挙げた。彼女の正義感からはこの疑問を払拭しないことには安心できないのだろう。それはみんなも同じ気持ちだったので、本郷さんありがとう、と心の中で礼を言う。

「本郷、どうした? 」

「先生は今回のこと、どうお考えなんですか? 」

 先生の顔色が一瞬にして変わった。

「今回のこと……」

「甲斐田さんが亡くなったお話です」

「先生たちから言えることはなにもない。警察の調査待ちだからだ」

「じゃあ、殺人事件だとおっしゃりたいんですね? 」

「いや、そう言うわけでも……」

 まるで事情聴取のようだと思った。しどろもどろな先生はさしずめ被疑者というところか。

「生徒たちの中では、甲斐田さんが亡くなったのは先生のいじめが原因じゃないかって言われてますけど」

「違う! 」

 宮内先生の大きな声が教室に響いた。 

「違う、俺じゃない」

「先生は成績の悪い生徒に対してその生徒を貶めるような言動は全くなかったと言えるんですか?」

「……」

「先生、答えてください」

 宮内先生は遠くからでも分かるくらい真っ青な顔をして肩を震わせた。

「答えてくださらないと、私たち安心して授業を受けることができません」

 本郷さんの言うことは最もだと思う。おそらく保護者からの電話でも同じことをさんざん聞かれているのだろう、先生は何度か深呼吸をすると、ふっと顔をあげた。

「成績の芳しくない生徒に対して指導したことはあったが、それは甲斐田だけではない。何人もいる。それに甲斐田の遺書には俺については何も書いてなかった。これ以上は警察の調査上答えることができない」

 感情のない言葉だった。おそらく何度も同じことを答えているのだろう。本郷さんはそれでも納得できないというように、ふんと鼻を鳴らした。

「俺への不信感がぬぐえないと言うのなら授業を受けてもらわなくても構わない。もとからここは高校だからな、受ける受けないの権利は君たちにある。俺のことが気にくわないというのは前から分かっていたよ。それでも根拠のない噂をもとに俺という人間を形成されていくのは正直心外だ」

 そこまで言われて、ようやく本郷さんは腰を下ろした。授業を受けなくてもいいと言われても、受けないわけにはいかない。大学受験のためには勉強しなくてはいけないし、定期試験でいい点数を取らなくてはいけないからだ。これは先生から成績を人質に取られたのと同じだ。

授業になんか集中できるはずがない。みんな心ここにあらずの状態で、一日を過ごした。

 ホームルームでは、帰り道でテレビ局が取材を申し込んできても、何も話さないようにと釘を打たれた。

 真剣な面持ちで堺先生の話を聞いていたみんなだが、その中で井上くんだけはにやにやしていた。彼だったら話しかけられたらなんでも答えてしまいそうな気がする。

「まあ、何か困ったこととかあったら今朝紹介があったカウンセラーの先生のところにいくといい。なんでも聞いてくれるからな」

校長からそう言えと言われたのだろう。先生はことあるごとに同じ言葉を繰り返した。今日だけで五回は聞いた気がする。最初のころは素直に返事をしていたみんなだったが、帰り間際にも言われてしまえばさすがに耳にタコができてしまったようで返事もしない。

 帰りの挨拶をして、カバンを肩にかけ帰ろうとすると、達海に話しかけられた。

 彼が話しかけてくるのは今朝ぶりだった。休み時間も授業中も視線が交わることすらなかった。嫌な予感がしつつ、彼の顔を見て何と返事をした。

「一緒に帰らないか?」

ほら、来た。

「……やだ」

「なんでだよ」

「帰り道同じじゃないでしょ」

「自転車だろ? 俺もだし。途中まで行こうぜ」

「勝手にすれば」

 ふいとそっぽを向いてすたすたと歩く。その後ろを彼が付いてくるのには気が付いていたが、振り返ることはしなかった。自転車置き場で自転車を取り出す。屋根しかついていない自転車置き場にずらっと並べられた中から、自分の自転車を探すのは結構大変だ。だから私はいつも同じ場所に止めていた。自転車置き場でも一番奥の、人が少ないところ。朝、学校に来ておいてから教室に行くまで歩く時間が長くなる。帰りも自転車を取りに行くのに時間がかかる。それでも同じような自転車の中から自分のものをすぐに探せる自信がない私は、この方法しかなかった。しかし、今日はこれがあだとなった。

「結構時間かかったな」

「うげ」

時間がかかるが故に達海は自転車置き場の出口で悠々と私のことを待っていた。さっさと自転車を取ることができれば彼を巻くこともできたのに。

 私は達海の前を素通りして自転車を押しながら進む。

「おいおい、無視することはないだろ」

「一緒に帰る約束なんてしてないから」

「はは、そういやそうだったな」

 達海は嫌な顔一つせず私の横をついてくる。

「なあ、高橋の家ってどこら辺なんだ」

「知らない人に家を教えるわけありません」

「なんだそれ、クラスメイトだろ。知らない人ではないだろ」

「じゃあ、親しくない人にも教えません」

「勝手についてくるのはいいのにか」

それ以上答えるのは面倒だったので黙って自転車に跨り、こぎ出した。達海も後をついてくる。

 達海は信号待ちの時以外は後ろをついてきていた。本当は思いきりスピードを出して振り切ってやりたいが、身長も体格も運動神経も彼の方が圧倒的に良い。今だって、いつもよりもスピードを出して漕いでいるのに

「なあ、いつもこんなにゆっくり走ってるのか?」

信号待ちの時に、キュッと隣に追いついてきた達海に嫌味を言われてしまった。

 きっとにらんで無言の返事をしてやると

「おお、怖い怖い」

と笑う。

 彼がここまでわざわざついてくるということはそれなりの理由があるはずだが、簡単に心を許すわけにはいかない。私は警戒心マックスだった。雰囲気からとげとげしいものが伝わっていたのだろう。彼は黙って私の様子を眺めていた。

 結局、達海は私の家までついてきた。自転車をとめて彼を振り返ると

「ここが、高橋の家かあ」

なんてしみじみ言ってくる。そんなにじっくり見ないでほしい。普通のアパートだ。

「もういいでしょ。帰ってよ」

私が不機嫌になると

「なあ」

 達海は急に真剣な目をして言った。

「……なに」

その表情があまりにも綺麗だと思った。顔は良いのだ、本当に。

「佳代子とは小学校から同級生だったんだよな」

「……そうだけど」

「佳代子の家、知ってる?」

知らない、知るわけがない。だって、私たちは

「親友だったんだろ?」

「……」

親友なら知っていて当然だろう、そういう言い方だった。でも私は答えることができない。押し黙って視線をずらす。

 達海はそれを見て諦めたようにため息を吐いた。

「個人情報だから教えられないってか」

「……そうじゃなくて」

 この人は甲斐田さんの彼氏である。だとしたら今、私が抱えているこの思いを伝えてもいいのかもしれない。

「佳代子は、高橋のこと、親友だって言ってたんだが」

 達海から先に言われてしまって、私はタイミングをなくした。

「やっぱり、お前が……」

「え」

 達海は私の肩を勢いよくつかむ。彼の自転車が大きな音を立てて倒れた。爪がめり込んで痛い。

「痛いよ」

顔をしかめてやめてくれと懇願するが、達海の顔は真っ白で血の気がなかった。そして彼の口からは衝撃的な言葉がつづられる。

「お前が、佳代子を殺したんだろ」


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