「私は彼女の親友だったらしい」第13話

甲斐田さんが亡くなってから一週間。

あれから何も目新しい事実は見つからず、テレビのトップニュースは政治家の不祥事になり、学校で待ち構える記者たちの数も確実に減ってきた。そうやって私たちの日常は取り戻されていくのだろう。結局宮内先生が来なくなってしまった理由は分からなかった。

毎日、クラスでの話題は甲斐田さんのことでもちきりだったのに、今ではこそこそと数人が内緒話をするように情報を交換するだけになっている。人間の興味というものは移ろいやすいもので次第にみんなから忘れられていく。そうなれば私と達海を見るみんなの目も変わっていく。来週には部活動も再開するらしいので達海と一緒に登校することもなくなる。この変な視線も、あと数日の我慢かな。

なんてのんきに考えていた。

 それにしても今日は何だが道行く人たちの目線が痛い気がする。いつもの朝と変わらないはずなのに、自転車ですれ違う同じ制服を着ている生徒たちは、私たちと視線が合っただけでぱっとそらしたり、信号待ちをしている時にじろじろ見られたり、どう考えてもいつもと違う。

達海もそれを感じ取ったのか、横断歩道の手前で私の横にとまり、じっと私を見つめる。

 何も知らない、という意味を込めて首をかしげた。異様な空気は学校に近づくほどに刺すように感じた。それは学校についても変わらない。自転車を置いて校舎に近づけば近づくほど、それは強くなる。同学年の生徒にもクラスメイトにも会ったけど、すっと視線を逸らされていく。

もう、気のせいではないとわかった時、達海がさっと私の前に出た。昇降口の前の掲示板には人だかりができていた。その中心に貼られているのが写真だとわかった時、私の中の血が一気に沸騰した。

掲示板を囲んでいた人達は私の顔を見るとあからさまに、やばいという顔をした。

 たくさん貼られている写真。その全てが私と達海の写真だった。

 手書きで書かれた紙には『甲斐田佳代子が死んだ原因は親友の裏切り!』と週刊誌顔負けの衝撃的な見出し。

 私と達海が一緒に学校に行っている写真。達海が私とマンションの中に入っていく写真。甲斐田さんの家に私と達海が行く写真。そして、達海が私の家の前で泣いている写真。そこには母さんもいたはずなのにそれは綺麗に切り取られている。いつのまに撮られたのだろう。

 いちいち説明されなくても十分わかる。これは私が達海を甲斐田さんから奪ったということを告げるものだ。

もちろんそんな事実は全くないのだが、写真というのは恐ろしいもので、そこにあった背景なんか関係ない。そこに写っている人の情報だけで頭の中で物語が出来上がってしまう。確かにこれだけ見ると私はかなり悪女だろう。

「高橋……」

達海が心配そうな顔をして様子を見てくる。正直悲しいとは思わなかった。それよりも勢いよくわいてきたのは怒りだった。

 どうして自分がこんな目にあわなくてはいけないのか。甲斐田さんのことから私に話題を移して一体何がしたいのか。理解に苦しむ。

 苦しんだので、私はずかずかと掲示板に近づいていった。

 途中で人に当たったが、気にすることはない。掲示板の写真は大きめのプリント用紙に印刷されたものだった。画像が荒い。写真を無理に引き延ばした感じがする。

 画鋲ではなくセロハンテープで貼ってあったのでひっつかんで剥がしていく。

怒りに任せてびりびりと剥がした紙をぐしゃぐしゃに丸める。それを見ていた周りの生徒たちも私に倣って同じように写真をはがす。さっきまであんなに興味津々な目でこちらを見ていたくせに急に正気に戻って正しい行動をしようとするところが優等生たちだと思う。そんなことをしても許してあげないけど。

 すべての写真をぐちゃぐちゃにすると結構な枚数だった。それを教室まで持って上がる。達海も数枚のゴミをもって黙ってついてくる。こういう時に何かいえばいいのにと思う。こうなったのは彼のせいだ。私は文句を言ってもいい立場なのにそれを我慢してあげているのだから。もしかしてこれ、八つ当たりってやつか? 知ったこっちゃない。

 教室に入るとクラスメイト達の視線を一気に浴びた。

 昨日と違うのはその視線の意味だ。憐みの視線がただの野次馬になり下がったのが分かる。

さっと駆け寄ってきたのは意外にも前田さんだった。


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