「私は彼女の親友だったらしい」第9話

 ばたんと大きな音がして部屋が揺れる。

「……嫌われたもんだな」

村瀬は背もたれにもたれかかった。

「今、この瞬間に嫌われたわよ。やめてほしいわ。こっちに支障がでる」

「そりゃ悪かったな」

村瀬は頭をがしがしと掻いて立ち上がった。窓の方へ歩き窓枠に手をかける。

「……涼子」

その呼び方は懐かしいものだった。子どものころは気兼ねなく名前で呼び合っていたのに、いつの間にか気恥ずかしくなってやめたのだ。それを、何をいまさら。

「……何よ」

だから、思わず子どもっぽい声になってしまった。しかし振り返った彼の顔は子どものころのそれではない。真剣な顔にこちらもつられる。

「今回のこと、あまり首を突っ込まない方がいいぞ」

「それは記者としての勘?」

「まあ、そんなところだな。」

再びたばこを口にくわえたが、火をつけようとして、禁煙だったなと呟く。

「ご忠告痛み入ります」

「あのなあ」

呆れたような声を出した村瀬を見つめ返した。

「譲れないから」

「……お前のそういうとこ、嫌いじゃないよ」

村瀬はひょいっと窓の向こうへ身を乗り出し、外へと出た。

「靴とってくれ」

「それ、先に持ってから外に行くもんじゃないの」

立ち上がって窓へと歩く。靴を取って手渡してやると、

「だって、土足禁止なんだろ?」

にかっと笑って受け取った彼は靴を履くと、

「じゃあ、またな」

と駆けて行ってしまった。その後ろ姿を見ながら、さて、どうしたもんかと大きく息を吐いた。


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