キミが笑えば 二,トーベくん、走る。

♯ 向北中学・全景

一面の雪景色。まだ一つの足音もついていない。

 〈タイトル・トーベくん、走る。〉

♯ 藤部の家・屋外

夜明け前。家の屋根を伝って雪が滑り落ちている。
ドサッドサッという音。

♯ 藤部の部屋

朝。だが明るくならない。
藤部、ふとんに包まって眠っている。
雪の落ちる音。

藤部    「(モノローグ)ああ…雪だ」

♯ イメージ 

鉄道の高架からの様な目線の街の風景。
一面雪で真白。
一辺が長い三角定規の様な形の屋根の家が並んでいる。屋根の色はカラフル。
平地は道なのか原っぱなのか雪でわからない。何の動物がつけたのかわからない足跡がてんてんとある。

♯ 藤部の部屋

眠っている藤部。
突然目を開き、少し思案してから起き上がる。
近くにあった半纏をはおり、ストーブをつける。
部屋を出て、玄関の電話機をストーブのそばまで引っ張ってくる。

♯ 藤部の部屋/三上の家・玄関

毛布に包まって電話している三上。周りは既に明るい。

電話の声・藤部 「三上くん、雪だ」

三上の家の壁のカレンダー、十一月。

三上    「こっちは紅葉もしてないぞ」
電話の声・藤部 「でも初雪なんてノスタルジックな響きとは程遠いな。ドッカンドッカン降ってる」
三上    「うん。十分懐かしい」
電話の声・藤部 「では行ってきます。強行突破一番手」
三上    「行ってらっしゃい」

藤部、受話器を置こうとする。 

電話の声・三上 「あっトーベ」
藤部    「(あわててもういちど受話器を持ち直す)」
電話の声・三上 「それ、溶けるから」 
藤部    「(えって表情)」
電話の声・三上 「無理しないように」
藤部    「(きょとんとしたまま)了解」

切れた受話器を持った三上。

三上    「(独り言)無茶しないように」

♯ 藤部の家・玄関先

藤部、ダークグレーのレインコートを着て、ゴム長靴の中ににズボンの裾を押し込んでいる。少し迷う素振を見せるが、サーモンピンクのイヤーパッドをつける。

藤部    「(モノローグ)迷っているものに教えてあげよう。冬だ」

玄関を開けて黒いカサをさす。
いきなり吹き付ける雪。ブリザード状態。
数歩歩いてつぶやく。

藤部    「(独り言)とんでもないな」

♯ 道

雪に応戦しながら歩き続ける藤部。

三上    「(モノローグ・ナレーション)ずっと自転車通学だった藤部が徒歩で学校に行くようになったときいたのは、今年の九月のことだ。手放し運転をしていて、壁にぶつかって、自転車を壊したと云っていた。
向北中学の学区内は坂が多い。藤部の家も高台にあるのだが、だからといって行きに上り続けたり、帰りに下り続けたりするわけのではない。たいした坂を上ったり下ったりする。いったいどうなっているのだろう。納得のいく視点から見せて欲しい町だ。
藤部は考えるともなく考え事をし乍ら、つまりはぼんやりと、腕組みで運転をしていて、庁舎前の坂を快速で滑り降り、石壁に激突。両手を放していたのが幸いしてか、すっぽりと投げ出された。

♯ 庁舎前(二ヶ月前)

地面に座り込んでぼんやりとしている藤部。
離れたところに無残な自転車。

♯ 藤部の部屋(二ヶ月前)

電話する藤部。片足に大きな湿布を張っている。

藤部    「実際これを持って帰るのがつらかったって」

♯ 庁舎前(二ヶ月前)

自転車を引っ張り出して、なんとか引いて帰ろうとする藤部。

♯ 藤部の部屋(二ヶ月前)

電話する藤部。

藤部    「道標みたいにぽたぽた汗が落ちた」

♯ 道

雪に応戦しながら歩き続ける藤部。バスとすれ違う。

三上    「(モノローグ・ナレーション)自転車壊したこと聞いてもあんまし驚かなかったけど」

♯ 藤部の部屋(二ヶ月前)

電話する藤部。

藤部    「見せたい。あの自転車。手先の器用な怪獣が指でちょいってつまんだみたいになった」

♯ 道

雪に応戦しながら歩き続ける藤部。バスとすれ違う。

三上    「(モノローグ・ナレーション)汗だくの藤部は珍しいと思った」

♯ 藤部の部屋/三上の家・玄関(二ヶ月前)

電話する藤部/三上。

三上    「それでどうするの」
藤部    「歩く」
三上    「新しいの買ってもらえないの」
藤部    「だめなんだ。テンちゃん号がもうすぐ来るんだ」

♯ イメージ

ぴかぴかの銀色の自転車。
その隣に藤部の弟・典(小学校四年)。

♯ 藤部の部屋/三上の家・玄関(二ヶ月前)

電話する藤部/三上。

三上    「おおっ典ちゃん。十歳か」
藤部    「うん。十月十日で」

♯ 藤部の家・庭先(一ヶ月前)

ぴかぴかの銀色の自転車。
その隣に典。    

典     「兄さん。時々使ってもいいですよ。不便でしょう」

♯ 藤部の部屋/三上の家・玄関(二ヶ月前)

電話する藤部/三上。

三上    「バスは?」

♯ イメージ

高台を少し降りたところにあるバス停。

♯ 藤部の部屋/三上の家・玄関(二ヶ月前)

電話する藤部/三上。

藤部    「バス?」
三上    「うん」
藤部    「中学校にバスで行くなんておかしい」
三上    「(聞いている)」
藤部    「中学校ってのはさ」
三上    「(聞いている)」
藤部    「この世に何か起こった時にさ、途方にくれることなく、みんなが自力で集まれる場所にあるんだ。そうしてみんなで考える。どうしようか」

♯ 向北中学・校門

やっとたどり着いた様子の藤部。
空が明るくなってきて、陽が射してくる。

藤部    「(独り言)三上くんの云ったとおりだ」

朦朧とした様子で空を仰ぐ。

日野    「おはよう」

藤部、覚醒。
クラスメートの日野百合葉が立っている。

日野    「よくこの雪の中歩いて来るねえ。私あのバスに乗ってたんだよ。藤部くんに併走」
藤部    「(独り言の様に)そっか」
藤部    「(モノローグ)何台ものバスに追い越されたと思っていた。一台のバスとすれ違い続けていたんだ」


♯ 藤部の部屋(同日・月曜夜)

藤部、机に向ってラジオを聴いている。勉強している様子。

DJ(男性) 「―という訳で、今月のお便り募集のテーマですが、もうこういう時期になったんですね。『僕の、私の、一九七六』ということで、ワタクシの年表の一九七六年にはこれを書くぜって出来事をお願いします。すごーく有名な作家さんの年表の中に、『この年、京都で遊ぶ』なんてあったりして、妙に味わい深かったりするんですよね。でも既に出来上がっている自分の年表があるとしたら、恐いな。見る勇気あります?―」

藤部    「(モノローグ)一九七六年終る。それから、十三歳終る。そして、中学二年終る。締切りを少しずつ延ばしてくれてるみたいだ。締切り…」

少し考え込む。

藤部    「(モノローグ)何も起こらない自分の為に」

♯ 向北中学・二年B組(休み時間)(翌日・火曜)

藤部、一番後ろの席で音楽雑誌(『新譜ジャーナル』)を読んでいる。
日野が後黒板を黒板消しで掃除している。

日野    「(チョークを一本手にして)このチョーク緑色だ。すごいね。使うのもったいない」
藤部    「(話しかけられたことにやっと気づき、振向くというより後に伸びをしたような体勢で)ほんとだ」

♯ 向北中学・下駄箱置場(朝)(翌日・水曜)

上履きに履き替えている藤部。後から来た日野が話しかける。

日野    「藤部くん、昨日の火曜歌謡見た?」
藤部    「(ちょっときょとんとして)見た」
日野    「豪華だったよね」

日野、さっさと上履きに履き替えて行ってしまう。
藤部、ちょっといぶかしげな表情。

藤部    「(モノローグ)フォークデュオ特集。三上に電話しようと思ってたんだ」

♯ 藤部の部屋/三上の家・玄関 (同日・水曜夜)

二人、毛布に包まって電話している。

藤部    「三上、ヒノユリハって覚えてる?」
三上    「(しばらく考えてから)知らない」
藤部    「覚えてないか」
三上    「B組?」
藤部    「うん」
三上    「覚えてないなあ」
藤部    「月曜日初めてしゃべったんだけど」
三上    「雪の日?」
藤部    「うん」
三上    「(聞いている)」
藤部    「それから毎日話すんだ」
三上    「毎日」
藤部    「話しかけてくる」
三上    「星占いじゃない?」
藤部    「(?)」
三上    「今週のラッキーイニシャル・R」
藤部    「ラッキーカラー・サーモンピンクか」

♯ 三上の部屋

三上、机の引出しから、小さな冊子を取出す。
表紙には『forever』の文字。サイン帳のよう。
ぱらぱらとめくっている。探していた頁を見つけ、しばらくそれを見ている。神妙な顔。

頁のアップ。
『とても残念。わたしたちみんなそー思ってます。三上くん行っちゃうから。でも三上くんはいいこといっぱい待ってるね。むこーの人ともども。三上くん来るから。きっと。百合葉。』

ごちゃごちゃとたくさん描かれている頁の隅に小さく控えめに描かれている。
三上、ちょっとすまなそうな表情。

♯ 向北中学・廊下(休み時間)(翌日・木曜)

藤部一人でゆっくりと歩いている。
向いから、社会科で使う大判の地図を二つ抱えて、よろよろ歩いてくる日野に出くわす。
日野、藤部に気づいてはっとした表情をするが、すぐ俯いてしまう。

藤部    「(モノローグ)先生に頼まれたんだろうな。そんで先生は頼めば誰か友達誘って二三人で持ってくるって思ったんだろうな。想像力の欠如だよ。簡単にそういうの頼めない人種があるのに」
藤部    「(軽く)一つ持とうか?」
日野    「(少しためらってから)ありがとう」

日野、遠慮して小さい方の地図を渡す。藤部それを小脇にひょいと抱える。

藤部    「二つとも持てるや。ちょーだい」

藤部、地図を二つ抱えてひょいひょいと歩く。少し遅れて日野が歩いている。地図が何かにぶつからないように、さりげなく藤部をかばって歩いている。

藤部    「(モノローグ)なんだろう」

俯いて歩く日野。恐縮している様子。

藤部    「(モノローグ)やっぱりおかしい」  

♯ 向北中学・二年B組(放課後)(翌日・金曜)

男子四名・女子二名。黒板の前に机を六つくっつけて座っている。
藤部・白塚・堤・豊津(男子)。日野・磯山(女子)。
黒板には『クリスマス会について』の文字。
藤部、向いに座っている日野を見て、妙に落ち着かない心境。

藤部    「(モノローグ)やっぱりおかしい」

あまりモチベーションが上がっておらず、だらだらと雑談している模様。

磯山    「(独り言の様に)はじめよ」

立ち上がり、黒板を指す。位置は自分の席。

磯山    「二学期最後のホームルームでお楽しみ会をやろうってさっきのホームルームで決まって、そんで決まってるのはそれだけです。そんで各班から選ばれた私たちクリスマス委員でその段取りを決めていきます」  堤     「委員じゃなくて係だろ」
磯山    「(軽く受け流して)十一月中にだいたいの段取りを決めちゃいましょ。十二月に入ると期末があるからさ、試験の一週間前はクラブといっしょ、お休み。クリスマス会は期末の…三日後?じゃあその前の二日間で物理的な準備をしましょう」
堤     「物理的ってなんだよ」  
磯山    「カザリツケよ」

白塚、藤部、豊津、日野笑ってしまう。

白塚    「来週のホームルームで各班で企画出してもらって、それを持ち寄ろうよ」

藤部、日野ちょっとほっとした表情。  

磯山    「そうだね、まだ日もあるしね」

磯山、ストンと席に座る。

堤     「終りか」
磯山    「うん」
白塚    「(藤部に)三上と連絡取ってるの?」
藤部    「(ちょっと意外そうに)うん。たまに」
堤     「電話代かかるだろ」
藤部    「うん。丑三つ時にしてる」
日野    「(独り言の様に)誰にも邪魔されない時間だね。ご飯とか、お客とか、通過とか…」
磯山    「元気?」
藤部    「元気」
堤     「アイツならどこでもうまくいくだろ」
豊津    「誰からも愛される。正義と善意の人」
藤部    「なんか。ムーミンみたいだ」
豊津    「オマエはスナフキンか」
藤部    「うん。スナフキンがいいな。ギター持ってるし」
日野    「原作では横笛なのよ。(云ってから少しトーンダウン)テレビではギターだけど」
堤     「ムーミン博士がいるよ」
日野    「原作のムーミンってもっときついのよ」
白塚    「人間的なの?」
磯山    「その云い方、何か変」
日野    「きついっていうのは違っているかもしれない。何か、人間みたいなまどろっこしいものを取り除いた表現をするの…」

日野、みんながちゃんと聞いていることにちょっとあせった様子。

日野    「おさびし山の歌知ってる?」
磯山    「え?何」
堤     「知ってる」
白塚    「(はてな顔の磯山に)聞いたら絶対わかるよ」

白塚、藤部の方を見て同意を求める表情。

藤部    「うん」

週末で、部室から家へ持って帰るギターが傍らにある。
藤部、促されていることに気がつき、ギターをケースから出す。
軽く『おさびし山の歌』をつま弾きだす。  

磯山    「ああ、それかあ。スナフキンのテーマ…」
豊津    「♪雨に濡れ立つおさびし山よ…」
堤     「えっ何それ」
豊津    「(びっくりして)えっこのこと云ってたんじゃないの?」
磯山    「知らないよー歌詞あるなんて。なんでそんなの知ってるの」

豊津、藤部の方を見る。ちょっと救いを求める感じ。

藤部    「(笑って弾き乍ら)知らない」

日野、笑っている。

藤部    「(弾き乍ら)教えてよ」

豊津、抵抗したが、結局三番まで歌わされている。ムーミン話で盛り上がっていつまでも賑やか。教室の外はすっかり暗くなっている。

♯ 帰り道

一人で歩き乍ら『おさびし山の歌』を口ずさむ藤部。

♯ 藤部の家・廊下(同日・夜)

藤部、典の部屋の襖を軽くノックする。

藤部    「典ちゃん」
典     「(中から声)どうぞ」

藤部、襖を開ける。典は机に向かっている 。

藤部   「ムーミン貸してくんない?」

典、立ち上がり、本棚の本を見てしばらく思案した後、一冊の本を引き出し、藤部に渡す。
藤部、受取って表紙を見る。

『楽しいムーミン一家』

藤部    「お薦め?」
典     「初心者向け」

藤部、巻頭のムーミン谷の地図を眺めている。

藤部    「ムーミンはムーミン谷を出てもやってけるかなあ」
典     「ムーミンはムーミン谷にいるものです」
藤部    「鍋のふたと鍋みたいなもの?」
典     「(眉間にしわ)なんかずれてる」
藤部    「(聞いている)」
典     「ムーミンがいれば、そこはムーミン谷なんです」
藤部    「そっか」

藤部、本をこめかみの辺りに上げる仕草。

藤部    「(モノローグ)ありがと、典ちゃん」

藤部、典の部屋を出る。


♯ 北橋中学・二年三組(昼休み)

弁当を食べた後か、一緒に近くの席に座っている三上と石川。

石川    「(思い出したように)あっアルバム持ってきた?」    三上    「(あっ覚えてた?って表情)うん」

カバンの中から小冊子を出す。

三上    「卒業してないからアルバムじゃないんだけど…」

冊子をめくると巻頭から何頁か写真が貼られている。
学校内の様子や行事風景、三上がみんなと写っている記念写真。
女子生徒が何人か集まってくる。

女子生徒  「これ前の学校の制服?」
女子生徒  「かわいい!公立だよねえ」

女子生徒たちうらやましそう。

三上    「でもオレ、転校しなかったら一生詰襟着ることなかったよ」   石川    「(記念写真を見乍ら)転校ってなんか憧れない?」
女子生徒  「ええ?ちやほやされるのそんときだけじゃん」

みんな軽く固まる。三上に失礼じゃないかと思った様子だが、当の三上は気づいていない様子。

石川    「いや、今までの自分をリセットできるってのがさ」
女子生徒  「石川くんがそんなこというなんて意外だわ」

♯ 北橋中学・二年三組(同日・放課後)

夕刻の教室。三上と石川。
石川、もう一度三上の小冊子を見ている。
写真の後は様々なメッセージ。
教師や部活の仲間の寄書も載せられており、凝った作り。        ぱらぱらとめくっていくと妙に余白の多い頁が一枚。

石川    「これ、すごいよな」
三上    「(軽く視線を落とす)」

真っ白い頁の隅に藤部のメッセージ。

石川    「後から誰も侵入できなかったんだな」
三上    「(見ている)」
石川    「思慮深い国だ」

頁のアップ。
『1976年4月。三上、転校。我等の年譜に記されり。なんてね。DROP/藤部礼』

♯ 向北中学・二年B組(放課後)(一週間経過)

クリスマス委員会の面々。
各班から出された企画を検討している。
人数が少ないので、板書するのをやめて、大学ノートを広げ、そこに意見を書き出して、頭をつつき合わせている。

藤部    「(モノローグ)なんか悪だくみしているみたいだ」
磯山    「(ノートを指差して)『飲み物』出しましょう」
堤     「シャンパン」
白塚    「新聞沙汰になるよ」
豊津    「ああ。版型が出来てるな」
磯山    「牛乳だな」
堤     「おいっちょっと待てよ(牛乳に拒否反応を示した様子)」
磯山    「ノスタルジックじゃない」
堤     「ノスタルジィってのは年食ってから今ぐらいの時期を思って語るもんだ」
藤部    「でも、ノスタルジィって郷愁だろ。あながち遠くないよ」  堤     「藤部、味方するな。オマエ説得力あるから」
白塚    「でも、ジュースと紙コップの方が無難だよね」
堤     「(やった!って表情)」
磯山    「(白塚くん、そっちにつくのって表情)」
日野    「(笑い乍ら、ノートに書き込み)ジュースと紙コップ。磯山さんだけ三角パックね」
磯山    「三角パックじゃなくてもいいよ」
豊津    「ノスタルジィなんだろ」

このあたりになると雑談に紛れてきている。飲み物の話が一段落したところで。

磯山    「(再びノートを指差して)『プレゼント交換』はずせないね」
堤     「いくら?」
磯山    「三百円」
堤     「三百円だな」
藤部    「(モノローグ)効率的だな」
豊津    「王道に如くものはなしだ」
藤部    「(ドキッとした顔で豊津を見る)」
日野    「歌とか歌ってまわすんだよね」
磯山    「何にする?(藤部の方を見る)」   

藤部、また?って表情だが、素直にギターを出してくる。
磯山と日野、クリスマスソングを歌いながら、おちゃらかほいの様に筆箱を交換しあっている。
『きよしこの夜』『ジングルベル』『赤鼻のトナカイ』『諸人こぞりて』『ホワイトクリスマス』…結局『きよしこの夜』に落ち着いた様子。

堤     「クリスマスの定番ソングってないよな。日本に。『ホワイトクリスマス』みたいなの」
磯山    「『十二月の雨』」
堤     「クリスマスソングじゃない」
磯山    「クリスマス出てくるよ」
堤     「クリスマスぅって感じじゃない」
白塚    「そこがいいんだけどね」
日野    「いつか出来るんだろうね」
豊津    「でも狙っちゃダメなんだ」
白塚    「気がついたらあるんだな」
磯山    「悲しい歌かな。(ちょっと間を置いて)日本人だから」  日野    「その時思い出す、今を。そんな感じ」

 ♪【荒井由実・十二月の雨】(途中からフェードインし、二番から)

♯ 向北中学・帰り道

藤部、日野、磯山。同じ方向。
日野は自転車を引いている。歩きの磯山に途中まで付き合っている様子。        藤部、日野。別れ道で磯山を見送る。
日野も自転車にまたがろうとする。
藤部、一人になるのが少し安心な様子。

日野    「(発進しようとするが、急に止まり)あの」
藤部    「?(内心ちょっとびっくり)」
日野    「ヒノユリハって変な名前でしょ」

藤部、ふいをつかれてわけがわからない。
日野は少しだけ藤部のリアクションを伺ったが、自転車をすうっと発進していってしまう。 
藤部、ぽかんとそれを見送る。

藤部    「(モノローグ)ミカミアメほどじゃない」

♯ 藤部の家・玄関先

藤部、自宅前で少し振返る。典が自転車で向ってくるのが見える。        夕焼け。紺色のセーター。銀色のテンちゃん号。

藤部    「(モノローグ)地球は球形だな」

近づいてくる典。銀縁眼鏡をかけている。

藤部    「(モノローグ)最近典は眼鏡をかけ始めた」

近づいてくる典。

藤部    「その姿を見ると、なんとなく苦しくなった」

近づいてくる典。

藤部    「(モノローグ)ライナスヴァンペルトが眼鏡をかけた時、胸を痛めたルーシーヴァンペルトの気持がわかる気がした」
藤部    「(独り言)ルーシーはチャーリーブラウンにそのことを絶対云わないでって云ったんだよな」

自転車を降りる典。

藤部    「(モノローグ)だけど」

追いつく典。

藤部    「遅いじゃない」
典     「(少し笑う)」
藤部    「(モノローグ)なんだ。メガネ、カッコいいじゃん」


♯ 藤部の家・廊下(数日後・日曜)

 藤部、典の部屋の前に立っている。

藤部    「(襖を開けて)典ちゃん、こたつ入ったよ。来ない?」  
典     「(机に向かっている)今年は兄さんがこたつ当番でしたっけ」
藤部    「はい」
典     「宿題そっちでします」
藤部    「オレがいて気が散らない」
典     「兄さんがなんか云うと覚わるんですよ」
藤部    「(モノローグ)オレは独りにならないと、本も読めない」

♯ 藤部の部屋

二人、小さなこたつを囲んでいる。
典はもくもくと宿題の書取をしており、藤部はみかんを食べている。

藤部    「(ドリルをさかさまから見て)『喜怒哀楽』…」

宿題を続ける典。

藤部    「むつかしい?」

怒と哀を鉛筆で丸く囲む。

典     「こっちがむつかしいかな」

藤部、みかんをむいている。

典     「現実と逆ですね」

藤部、ぎょっとしてみかんをむく手を止める。

典     「人間て割と簡単に、怒ったり、泣いたり、笑ったりするけど」

典、みかんを一つ取る。

典     「実際のところは、悲しませたり怒らせたりするより、笑わせる方がむつかしくありません?」

藤部、ぽかんとしている。
典はみかんを手に取る。

藤部    「すごいなあ」

二人でドリルに落書きしている。
『喜怒哀楽』の他の候補を捜している様子。
ドリルには『悲』『淋』『苦』『恥』『寂』の文字。
こたつの上にはみかんの皮の山。

♯ 向北中学・二年B組(放課後)(二週間後・土曜)

一人机でガリ版原稿を作っている藤部。
日直を終えた様子の日野が入っている。

日野    「何してんの?」
藤部    「(作業し乍ら)『みんなで一曲』の歌詞カード作ってるんだ」

♯ 向北中学・二年B組(短学活《ホームルームの短いもの》)(その一週間前の土曜)

教壇の前に立っている磯山。
隣に投票箱の様な箱を持って日野。

磯山    「(みんなに向って)今度のクリスマス会でみんなで一曲歌を歌おうということになりまして、その歌をみんなの投票で決めたいと思います。あそこ(手で差す)にこの箱(手で示す)を置いときますので月曜の帰りまでに投票お願いします。一人一票ね。そんで上位五曲を選んでまた来週決戦投票します。宜しくお願いします」

磯山ぺこんと頭を下げる。それに合わせて日野も頭を下げる。

♯ 向北中学・二年B組  

置かれた投票箱と投票用紙。

♯ 向北中学・二年B組(放課後)(月曜)

投票箱をひっくり返すクリスマス委員会の面々。
周りに一緒にのぞいているクラスメート数人。
いろいろな曲名が書かれた投票用紙。
それを見乍らみんなであれやこれやと喋っている様子。

♯ 向北中学・二年B組(短学活)(火曜)

教壇の前に立つ磯山。
日野は選出された曲を板書している。
『二十二歳の別れ』『サボテンの花』『遠い悲しみ』『黄色いカラス』『眠れぬ夜』
みんなに決戦投票の段取りを説明している様子の磯山。

♯ 向北中学・二年B組(放課後)(金曜)

クリスマス委員会の面々。
既に曲目は決定していて雑談している様子。
藤部はギターを抱えている。
選外の曲を会話に合わせてちょろちょろと爪弾いている様子。

堤     「オレは『LovlyEmily』の方がいいなあ」
磯山    「あ―」
白塚    「これも好きだけど(『娘が嫁ぐ朝』の用紙)」
磯山    「あー」
堤     「なんだよそれ」
磯山    「賛同してるのよ」
堤     「ふきのとうは何が一番多かったんだっけ」
白塚    「『雨ふり道玄坂』」
磯山    「あー」
日野    「(笑って聞いている)」
豊津    「オレこれ(『ささやかなこの人生』の用紙)」
堤     「あー」
藤部    「(笑って)軽音の吉見がさ、出だしのメロディ間違えて覚えててさ」
豊津    「どんな風に」
藤部    「(ギターを弾き乍ら歌って見せる)」
堤     「いかん。やめてくれ。それうつる」
磯山    「(歌ってみて)ホントだ」
藤部    「抜けないでしょ」

♪【風・ささやかなこの人生】

♯ 向北中学・二年B組(その翌日・再び土曜の放課後)

続き。
ガリ版原稿を作る藤部。覗き込む日野。

日野    「まめだねえ。藤部くん」
藤部    「(作業をし乍ら)すげー有名な曲だけどさ、知らないやつだっているだろ。早目に行き渡った方がいいだろうし。どっちにしろ当日には必要だし。日もないし。オレ、クラブでよく作ってるから慣れてるし」
日野    「それから?」
藤部    「(作業の手を止めて、んっていう表情)」
日野    「たくさん理由があるねえ。こりゃやらない訳にはいかない」藤部    「(作業に戻って)オレ、何にもしてないし」
日野    「(あせる)ごめん。やってくれてるのに」
藤部    「(モノローグ)(作業をし乍ら)まいったなあ。(上を向いて)好きなんだよ。このカリカリ。それが一番の理由」

日野    「私も好き。(藤部の手元の音楽雑誌を見て)あっこの『GUTS』今月号だ。見せてね」
藤部    「(モノローグ)立ち直った。かな」
日野    「(雑誌を見乍ら)秋の遠足の時にね。遠足委員の子がね」 藤部    「遠足係か」
日野    「歌集作っててね。そんで好きな曲一曲入れさせてもらったの、そこだけ自分で書かせてもらっちゃった、カリカリで」
藤部    「(再び作業にとりかかる)」
日野    「でも、誰も歌わなくてね」
藤部    「(作業をし乍ら)自分で歌えばいいじゃない」
日野    「(とんでもないって表情)」
藤部    「(モノローグ)(作業をし乍ら)自己主張と引込思案。日々は仮想と後悔の繰り返しか」
日野    「そしたら帰り際にね、藤部くん歌ってくれたの、嬉しかったな、周りの子にもよかったねって云われちゃった、藤部くん後ろのほうにいたから知らないだろうけど」

♯ バスの中・向北中学・秋の遠足(回想・二ヶ月前)

藤部、最後列の窓側に座っている。
同じく最後尾の列に、自前のギターを持ってきたやつがいて、かき鳴らし、バスの中を盛り上げている。がむがむの『青い空はいらない』。       藤部、窓に凭れる様な姿勢でのんびりと聞いている。

藤部    「(モノローグ)三上が転校する前にみんなで演ったのもがむがむだったな」

♯ 向北中学・音楽室(回想・春)

軽音楽部全員でがむがむの『卒業』。中心にいる三上。プレゼントされた小冊子を抱えている。藤部は一歩下がった場所で演奏している。三上のクラスメートたちが対面で椅子を扇状に並べて見学している。演奏側も見学側も女子は半泣きの様相。廊下側の窓の外で見ている生徒もいる。

♯ バスの中

ギターの男 「(突然ギターを藤部に押し付け)いかん。やばい」
藤部    「(ぼんやりしていたのでびっくり。きょとんとする)」
ギターの男 「(顔色がよくない)ほんと、やばい。藤部、替われ」
藤部    「(やっと状況に気づいた様子)大丈夫?」
ギターの男 「(伸びきって)後は任せた」

藤部、ギターを軽くつまびいて、譜面入りの雑誌を見ていたが。

藤部    「(独り言)こりゃ確かにやばいかも。目で追ってるとバス酔いしそうだ」
前列の男子生徒 「(振り向いて)藤部、何かやれよ」

女子生徒達も一緒になって声をかけてくる。
藤部、遠足歌集をぱらぱらとめくってみる。

藤部    「(小さく独り言)あっこれなら見なくても弾ける」

藤部、演奏を始める。 
バスの中、みんなで手拍子で歌う様子。
バスの外、一面のコスモス畑。

 ♪【かぐや姫・眼をとじて】

♯ 向北中学・二年B組(土曜の放課後)

続き。

日野    「一年の時は向北山だったよね」
藤部    「(作業し乍ら)ありゃ近かった。ある意味斬新だ」
日野    「土壇場で変わったんだよね。南向山行く予定だったのに」
藤部    「(作業し乍ら)南向橋が破壊したからな」
日野    「(笑う)」 
藤部    「(作業し乍ら)(ほとんど独り言)復旧するまで南向山のキツネさんとタヌキさんとシカさんは、毎日宴会…」

日野、ぼんやりと立っている。何か考え込んでいる様子。


♯ 向北中学・帰り道(一週間後・金曜)

夕刻。クリスマス委員会の六人で歩いている。
堤と日野は自転車。

磯山    「あったかいね」
日野    「(自転車を引き乍ら)うん。あったかい」
堤     「(自転車を引き乍ら)こう坂が多いと自転車も良し悪しだな。(少し間)どうなってんのかね。この町は」
藤部    「なんか、卵のパックみたいな町だって云ってたな」

# イメージ 

 六個入り卵パック。

♯ 向北中学・帰り道

 続き。

藤部    「三上が」
豊津    「おもしろいよな。アイツは」
堤     「オマエたちさ、再会してさ、オレたちが散ったらさ、曲作れよ、エッグ・パック・シティ…(少し考える)メモリー」
磯山    「ださい」
堤     「セレナーデ」
磯山    「甘い」
堤     「レクイエム」
磯山    「意味解って云ってんの?」
堤     「(ころっと話題を変えて)お前自転車どうしたんだよ」   藤部    「(急に振られて、えって表情)」
堤     「一学期は乗ってただろ」
藤部    「壊れたんだよ」
堤     「どーして」
藤部    「塀にぶつかったんだよ」
堤     「よそ見でもしてたのかよ」
藤部    「手放ししてたんだよ」
豊津    「小学生かよ」
堤     「おまえ、何かボーっとしてるからな」
白塚    「ケガしなかったの」
藤部    「すげー青アザ作った」
磯山    「私知ってる。(ちょっと興奮)陸上競技大会のさ、クラスリレーの時さ、私藤部くんの後ろで待機してたもん。短パンで立膝ついてるの、まじまじ見ちゃった。思い出したあ」

# 向北中学・校庭(秋)

陸上競技大会。
リレーの順番を待つ藤部。
半袖半ズボン。立膝をついている。太ももにすごい青アザ。
後で待機している磯山。あまりじろじろ見ない様にしているが、気になってしょうがない様子。

♯ 向北中学・帰り道

続き。

わいわい楽しげに歩く面々。
幸せそうな表情の藤部。

♯ 文房具店

店先で色紙を選んでいる面々。
磯山と日野が盛り上がっている様子。

磯山    「(ポラロイドカラーの色紙を手に取って)わー懐かしい」  堤     「(覗きこんで)何に使うんだそんなの」
日野    「(横から、別の色紙を手にして)ねえ、セロファンもあるよ」     

♯ 帰り道

文房具屋の前。
堤の自転車の籠に色とりどりの色紙の入った袋。
堤、籠の中身を躍らせながら走り去っていく。
白塚と豊津も別方向へ歩いていく。
藤部、日野、磯山が残される。
日野は磯山との別れ道まで自転車を引くのがお約束のよう。        三人で歩き出す。

磯山    「(俯きがち)私ね、ホントは、これでいいのかなーって思ってるの」
日野    「(びっくり)何が?」  
磯山    「一人であれこれ仕切っちゃって」
日野    「(びっくりのまま)どうして。みんな感謝感心だよ」
磯山    「そうかな。藤部くんも日野さんも本当はもっといい考えとか持ってて、それでもまあいいかって云わないでいるんじゃないかって、私、心配で」
日野    「(慌てている・身振もつけて)そんなことないよ。何か意見あったら絶対云うよ。云ってる」
藤部    「オレも」
藤部    「(モノローグ)そうじゃなきゃ貴方に恥ずかしいでしょう」  磯山    「(ちょっと回復)私長女だからかなあ。気がつくといつもこんな。藤部くん兄弟いる?」
藤部    「小学生の弟が一人」
磯山    「ふーん。何か、お姉さんとかいそうに見えるのにな」
藤部    「(モノローグ)今日、周りからどう見られているか学習した」
磯山    「日野さんは?」
日野    「今は一人」
磯山    「(きょとん)今は?」
日野    「お姉ちゃんいたんだけど、生まれて、すぐに」
磯山    「(すごく慌てる)ごめん」
日野    「(こっちも慌てる)いいのよ、だって、私だってヒトゴトみたいなんだよ。(反り返るような格好で大きく伸びをする)私、クリスマス委員してよかったな。磯ちゃんは編物教えてくれたし、藤部くんは理科Ⅰの講習してくれたし。来週の期末も、三学期の家庭科も、わたしの未来はばっちり。一番楽しい一ヶ月だったかも。十一月、大好き」

♯ 帰り道

ニコニコ笑って手を振る磯山を見送る藤部と日野。

日野    「(自転車を引き乍ら)私、双子だったの。お姉ちゃんが百合花。私は百合葉。親は私を百合ちゃんって呼ぶわ。私は二人分なのよ」

自転車に片足をかけ、発進する日野。
後姿をぼんやりと見送る藤部。

藤部    「(モノローグ)オレにも楽しいことを云って去ってくれ」

♯ 藤部の家・典の部屋(同日・夜)

藤部、典の部屋で縮こまって体操座りをしている。
典は机に向かっている。

藤部    「(典の背中に)典ちゃんはどうして敬語で喋るんだ」

典、しばし机に向かっていたが、椅子をくるりと回転させて、藤部の方を向く。

典     「(腕組をして)前住んでたところの横手に妙な草っぱらがあったでしょう」
藤部    「あった」
典     「草の背が高くて未だにボクはその広さを把握できていません」
藤部    「それは典ちゃんが小っちゃかったからだよ。(懐かしそうに)基地を作ったね。第一ササノハ基地、第二ススキ基地、第三…」
典     「第三キショウブ基地。未完成です」
藤部    「そうそう、コールタールみたいな沼地でさ、典ちゃん足突っ込んでズボンどろどろにしてさ…」
典     「どんなに叱られても何をしたか口を割りませんでした。(少し間)秘密基地ですから」
藤部    「そうだったねえ。男らしい」
典     「あそこの奥に無花果の大木がありました」
藤部    「あったあった、一度早い台風来た年にすごい鈴生りになって…」
典     「大木の下も沼地でした。菖蒲なんか生えていない、もっとおどろおどろしい」
藤部    「あの木すごい生え方してたよね。横向きに生えてるんじゃないかっていう…」
典     「秋。いっしょにあそこに行きました。昼でもとても暗い場所でした。兄さん枝だか幹だかを伝って無花果の実を取りに行った。のぼるっていうより渡るみたいに。片手にビニールの袋を持って。そうして、ボクを呼んだ。『テンも来いよ』」
藤部    「(聞いている)」
典     「でも、ボクは行けませんでした。怖かったんです。わけのわからない木も。遠いんだか近いんだかわからない沼地も」
藤部    「(聞いている)」
典     「『いいです』ボクは云った。『兄さん行ってきて下さい、お願いです、いいです、気をつけて下さい』言葉を挟む余地がないくらいまくしたてました」
藤部   「(聞いている)」
典     「兄さんは黙って遠ざかり、ひょいひょいと実をもいでビニール袋にいれ、片手でいとも簡単に帰ってきました」
藤部    「(聞いている)」
典     「帰り道ボクは口をきけませんでした。そうして口を開いた時にはこの有様でした」
藤部    「(少し考えてから)もう一度あそこへ行こうか」
典     「(聞いている)」
藤部    「呪いを解きにさ」
典     「虫の多いところはキライです」
藤部    「そっか」
典     「真に受けないで下さい。思いつきです。この話し方が一番ラクなんです。だからです。兄さんは気が滅入るといつもボクに同じ質問をする。『ナゼケイゴヲツカウノ』そうでしょう?ボクの今までのバリエーション覚えてますか」

藤部    「(膝にほっぺたをくっつけて)うん」
典     「(困った顔)」
藤部    「バツ…フクシュウ…」
典     「(困った顔)」
藤部    「もっと明るいの考えてよ。オマジナイとか。ジンクスとか…」
典     「次回作で」

典、椅子をくるりと回転させて背を向ける。

♯ イメージ

秋の沼。灰色の大木。枝の上で凭れる藤部。

藤部    「(モノローグ・ナレーション)おいてけぼりだ」


♯ 藤部の部屋/三上の部屋

電話での会話だが、場面は会話の後。(場面に会話が流れる)双方期末試験の勉強をしている光景。
藤部は半纏でこたつ、三上は机に向かっている。

三上    「こっちも降った。初雪」
藤部    「ひとつき遅れだねえ」
三上    「なんかさ、大喜びなの。いつもより早いんだってさ」
藤部    「へえ…カルチャーショックだね」
三上    「こっちの制服さ、男子は学ランだから着膨れするだけなんだけどさ、女子のセーラー服の上に着るカーディガンがさ、五色くらいあって、自由に選べるみたいでさ、こないだ教壇の上から見たら何か、お花畑みたいだった」

♯ 北橋中学・教室

色とりどりのカーディガンを着た女生徒たち。

♯ 藤部の部屋/三上の部屋

続き。
(現在の光景に電話の会話がかぶさる)

藤部    「人文字が書けるねえ」
三上    「うん」
藤部    「ああっこっちも降ってるや…」

藤部、立ち上がって窓のカーテンを開ける。
静かに降る雪。

藤部    「(モノローグ)お花畑にもエッグカップシティにも雪が降る…」


♯ 向北中学・二年B組(放課後)(期末試験が終った翌日で半ドン・昼下り) 

クリスマス委員会の面々。物理的作業。
色紙のわっかを作っている。

日野    「はい」

日野、堤に赤いセロファンと緑色のモールで作った花を差出す。

堤     「(受取り乍ら)なんだこれ」
日野    「委員の特権よ。胸に飾りましょ」

そう云い乍ら、豊津にはレモン色の花を渡す。

豊津    「委員の特権、係の印」

豊津、そう云い乍らもまんざらでもなさそうに花を胸に挿す。        日野、藤部にはうすむらさきの花を渡す。

藤部    「(モノローグ)やさしい薬みたいな色だ」

日野、白塚にはピンクとオレンジの花。

白塚    「二本、何で?」
日野    「女の子には男の子から渡すのよ」

白塚、磯山にピンクの花を渡す。
日野はその間に自分の胸にうすみどりの花を挿している。
みんな、作業に戻る。

日野    「(作業し乍ら)私ね、あさってね、クリスマス会の日、お誕生日なんだ」
磯山    「へーそうなんだ。(突然作業の手を止め)じゃあこの際だから、みんなでその日ハピバスデも歌っちゃわない?」
日野    「(びっくりして)だめだめ、絶対だめ」
磯山    「(日野の方を見て)どうして」
日野    「(磯山の方を見て)そんなことしたら私どんどん小さくなって消えちゃう」
磯山    「(作業に戻って)そっか…(なんとなくわかった表情)」
藤部    「(もくもくと色紙を二センチ巾に切り乍ら)雪合戦やんない?」
堤     「(顔を上げて)何急に」
藤部    「(作業し乍ら)だってクリスマス会終わったら帰るだけじゃない。しようよ。みんなで」
豊津    「(作業し乍ら)雪が積もってて空が晴れてたらな」
藤部    「(作業し乍ら)明日の夜から降るよ。(顔を上げて)あさっての昼まで」
白塚    「(手を止めて)おもしろそうじゃん。雰囲気次第だけどさ。できたらやろうよ」
磯山    「(大学ノートを開いて)持ってくるものの項目に加えておこう。三百円以内のプレゼント。手袋」

♯ 向北中学・帰り道

磯山を見送る藤部と日野。
藤部、日野もそのまま自転車を発進させると思い、さよならモード。        だが、日野は自転車をきいきい転がして歩いている。

日野    「(少し遅れて自転車を引き乍ら)藤部くん、私聞いてほしいことあるんだけど、歩き乍らでいいから聞いてくれるかなあ」

藤部は少し振り返ってから、ひとまず歩調を緩める。

日野    「私のお姉ちゃんの百合花ちゃんはね、生きてたらすごく活発な女の子になっていたと思うの。私と違って」
藤部    「(ちょっと困った)根拠は」
日野    「百合花ちゃんが私に話しかけるようになったの」
藤部    「(モノローグ)自転車、強奪して、逃げようか」
日野    「(かまわず続ける)百合花ちゃんの心は死んではいなかったの。息をひそめてひっそり生きてたの。そうして私の陰に隠れていっしょに大きくなっていったの。だけどある日私に話しかけてきたの。一念発起したの。私見ててね」
藤部    「(モノローグ)名前をつけてあげよう。ヒトリカイワだ」  日野    「お休みの日にはよく自転車で向北山まで行ってね。百合花ちゃんと話すの。柵に凭れて。初めて喋った場所なの。一年の秋の遠足の時。藤部くん、一人で南向山見てたでしょ。あの時。あの場所。(少し間)私遠足とかって苦手なの。何していいかわかんないじゃない。休み時間より授業中の方が楽。あの時もね、ビニールシートに自分の居場所確保できて安堵のため息ついてたの。そしたらきこえたのよ」

♯ 向北山(一年前・秋)

ここから、場面、日野の説明する光景。
ビニールシートにほっとした様子で座っている日野。

声     「もったいないなあ。ノルマみたいに時間を使わないでよ」

はっとする日野。

日野    「(情景にかぶせて)びっくりして顔を上げた私の視界に藤部くんの後姿が入ってきてね、そのままずーっと見てた、ぼーっとして、でも心臓ばくばくさせて、そのまま。堂々とポツンとしている藤部くん。走ってくる三上くん。ああ、A組さんがF組さん待ってたんだって思った。二人が行っちゃった後ポンと背中押されるみたいにそこへ行ったの。そしたら見晴らしがよくてね。『BCDEの間紅葉見てたんだ。有意義ってもんだね』って私が云ったら、『まあね』って彼女は云った。百合花ちゃんだって思った。当たり前みたいに。知ってたみたいに。それが最初。それからずっと」

♯ 向北中学・帰り道

薄日の射す道をとぼとぼと帰る藤部と日野。 

藤部    「(モノローグ)(ぐらりとした様子)『まあね』…!」  日野    「そのうち私考えるようになったの。私もう十三年間幸せに生きてきたから残りの時間をそっくり百合花ちゃんにあけ渡しちゃおうかなって」
藤部    「(かろうじてリアクション)残りの時間?折り返しにはずい分早いんじゃないか」
日野    「(強気になってきている)二十五過ぎたら夭折じゃなくなるわ」
藤部    「(モノローグ)めちゃくちゃだ」
日野    「それにね、人生の目盛が七十あったとしても、私の支点は十四あたりなの」

藤部、立ち止まって振り返る。少し憤慨。

藤部    「正直云ってさ、すごく、すごく、主観的で、個人にどかんと到来した話で、オレ、よくわかんないんだ、意表を突かれた上になし崩しに云われるとそっちの云うことすごくもっともにきこえるし」
日野    「相談じゃないの。打明け話なの。ひとつき前の初雪の日にカウントダウンし始めたの。もう決めたの」
藤部    「百合花はなんて」
日野    「あきれてる。(少し間)私だって。でも何だかいやになるの。自分が。何だか。時々。こんな風に漠然と。でも、すごく。これは機会かもしれないって思うの。藤部くんの様に非の打ち所のない人にはわかんないかな」
藤部    「(モノローグ)女の子を初めて呼び捨てにし、そうして手痛いしっぺ返しをくらった」
日野    「十三才最後の日に私タチは向北山へ行く。そうしてね、夕陽が南向山に沈んだら、もう百合花ちゃんは隠れなくていいの。私がそっと隠れるから」
藤部    「(固まっている)」
日野    「(急に元気)おわり。何かね、急にさびしくなっちゃったの。やっぱ、誰も気がつかないんだろうなーって思ったら。変なハナシしてごめんね。明日学校ではまだ百合葉だよ。バイバイ」

自転車を発進させる日野。
たちつくす藤部の後姿。

♯ 藤部の家・典の部屋(同日・夜)

藤部、典の部屋で縮こまって体操座りをしている。
典は机に向かっている。

藤部    「(典の背中に)典ちゃん、オレのクラスの女の子でさ、双子のかたっぽがいてさ、お姉さん生まれてすぐに死んじゃってさ、最近その子の意識に侵入するんだって。その子は替ってやろうかって云ってる。どう思う?」
典     「(藤部の方を向いて)妄想ですか?」
藤部    「すごいことば知ってるな。(間)亡くなった女を想うか」  典     「ストーリーテラーとは云えないですね。既視感は否めないでしょ」
藤部    「うん。(丸まってしまう)(もぞもぞと)典ちゃんむつかしいことば知ってるね…」
典     「三上さんにきいたら?」
藤部    「とめろっていうだろうな」
典     「(やれやれって表情)そうしたらいいじゃないですか」  藤部    「彼女じゃなくてオレを心配してさ」
典     「(聞いている)」
藤部    「彼女の立場の意見をききたかったんだ」
典     「(聞いている)」
藤部    「弟に」
典     「(神妙な顔)」
藤部    「なんてね(笑う)」


♯ 藤部の部屋(翌日・昼下り)

藤部、頭の下に腕を組んでこたつに寝ころんでいる。

♯ 向北中学・二年三組(回想・その日の午前)

黒板に大きく『大掃除』の文字。
各班の割付が書かれている。
藤部、窓枠に腰掛けて窓を拭いている。
すっぽりと窓枠に収まって、動作は緩慢。

藤部    「(モノローグ)カンガルーの袋。小鳥の巣。猫の、猫が自分で決めた、自分の好きな場所…」

眼下の中庭に日野と磯山の姿が見える。
磯山は長いサライ、日野は大きなチリトリを持っている。

藤部    「(モノローグ)(見乍ら)ほらね。何にも変わらないじゃない」

日野と磯山、じゃれあっている。楽しそう。

藤部    「(モノローグ)明日の天気の心配だけしていよう」
堤     「いつまで同じとこやってんだよ」

藤部、不意をつかれた様子で、ぴょんと窓枠から降りる。
二、三歩歩いたところで、水の入った金のバケツをひっくり返す。

堤     「何やってんだ」

堤、水の上に雑巾を何枚か重ねて、水を吸わせてから、持っていたモップを上からかぶせる。冷静で丁寧な対応。
藤部はぼんやり。 

堤     「(モップで拭き乍ら)世話がやける」

♯ 藤部の部屋(同日・昼下り)

藤部、こたつの上に突っ伏している。

♯ 向北中学・二年三組(回想・同日放課後)

クリスマス委員会の面々。最終打合せ。

磯山    「(大学ノートを見乍ら)…あとは二時間目が終ったら、ばあーっと飾りつけね」
日野    「(緑色のチョークをくるくる回し乍ら)ツリーの絵、描こ」

藤部、日野をチラッと見て不服そうな表情。

白塚    「オレ、このアンケートクイズ好きだな。(紙の束を見乍ら)将来の夢…好きなテレビ番組…お金で買える欲しいもの…お金で買えない欲しいもの…」

藤部    「何かセツナっぽいよな」
堤     「オマエが云うと、すごく難しくて、すごく重くて、すごく高尚で、すごくむなしくきこえる」
藤部    「(紙の束を見乍ら)そーかな」
豊津    「どの設問に対する答えも十年後に見たら笑っちゃうってことだろ」   
日野    「二十三―四かあ」
磯山    「今よりももっと幸せなの。偶然押入れの中から見つけてね、笑うの」
堤     「何だ、ノイローゼかよ」
磯山    「(ノートを閉じ乍ら)幸せのグラフが放物線の形してたらつまらないじゃない」

♯ 藤部の部屋(同日・昼下り)

藤部、こたつに寝ころんでいる。

♯ 向北中学・廊下(回想・同日帰り)

ばらばらと歩いているクリスマス委員会の面々。
藤部、軽音楽部の仲間達から声をかけられる。
みんなと別れ、彼らと合流する藤部。

♯ 商店街(回想・同日帰り道)

クリスマスソングがガンガン流れている。
仲間達と店でレコードを見ている藤部。

藤部    「(モノローグ・ナレーション)帰り道がいっしょにならなくてなんだかほっとしていた」 

♯ 藤部の部屋(同日・昼下り)

藤部、こたつに突っ伏している。
典が、お盆の上にたいやきと牛乳とガラスのコップを二つ載せて入ってくる。

典     「おやつの時間です」

藤部、壁の時計を見る。午後三時近く。
典、こたつに入ってコップに牛乳を注ぐ。コップには氷が入っている。

藤部    「(頬杖をついて)典ちゃんはたいやきが好きだねえ」
典     「大人になって、泣くようなことじゃないけどすごく悲しいことがあった日に、たいやきを買って帰るボクがいます。きっと」
藤部    「お兄さんが慰めてあげるよ」
典     「(藤部の顔を見る)」
藤部    「(なんだよって表情)」
典     「そんな隙を見せるようなことしない」

藤部、憮然とした表情。
氷がきゅうきゅう音をたている。

藤部    「(こたつの上に片方の頬をくっつけて)氷が泣いてるねえ…」  
典     「(ぱくぱくとたいやきを食べている)」

♯ 藤部の部屋(同日・昼下り)

再び藤部一人。
藤部、こたつに寝ころんで、典から借りた本を読んでいる。

藤部    「(モノローグ)典の本にはところどころに落書きがある」

目次のタイトルの上に○や△。

藤部    「(独り言)隙だらけじゃない」

頁のあちこちに線が引いてある。 

藤部    「(モノローグ)小学生の蔵書、かくありなん」  

『楽しいムーミン一家』挿絵。

藤部    「(モノローグ)マホウノボウシに姿を変えられたムーミントロール。ママが救った」

『楽しいムーミン一家』『なにがおこったって、わたしにはおまえが見わけられたでしょ』に傍線。

藤部    「(モノローグ)典ちゃんもここが好きかい。オレもここが一番好きだよ」

藤部、壁にかけられたグレーのブレザーを見る。胸にうすむらさきの花。        藤部、こたつに突っ伏す。

藤部    「(独り言)なにがおこったって、わたしにはおまえが見わけられたでしょ…」

♯ フラッシュ 

雪の朝、藤部に声をかけた日野。    

♯ 藤部の部屋(同日・昼下り)       

藤部、こたつに突っ伏している。

藤部    「(モノローグ)アイツは一ヶ月前から決めていた…変わってしまった時に気がついてもらいたくてオレに声をかけ続けた…」

♯ フラッシュ 

クリスマス委員会の日野。   

♯ 藤部の部屋(同日・昼下り)       

藤部、こたつに寝ころんでいる。

藤部    「(モノローグ)なんでオレに…」

♯ フラッシュ 

ガリ版作りをする藤部を見ている日野。

♯ 藤部の部屋(同日・昼下り)       

藤部、こたつに突っ伏している。

藤部    「(モノローグ)なんでオレが…」

♯ フラッシュ

帰り道・藤部に打明話をする日野。

♯ 藤部の部屋(同日・昼下り)       

藤部、こたつに寝ころんでいる。

藤部    「(独り言)オレが引き寄せたのかな…」

藤部、目をつぶる。

藤部    「(モノローグ)自意識。自覚。自惚れ。自己嫌悪…とても安全な場所に居乍ら、自分を護るのに一生懸命…現状維持と引き返せる冒険が好き…むやみに気消えてしまいたくなる恥ずかしさ…同じ因子…」

目を開ける。
壁の時計を見る。四時。

藤部    「(モノローグ)家に着いてから―昨日から、ずっと繰り返していた、この一ヶ月間を。最後に辿り着こうとすると回想はふりだしに戻る。もうやめなくちゃ。気がつかなくちゃ。結論まで辿り着かなくちゃ…」

♯ 藤部の家・廊下

藤部、典の部屋の襖をぱんっと開ける。

藤部    「典、自転車貸して」
典     「(椅子を回転させて藤部の方を向き)どうぞ」

藤部、ろくに返事も聞かず玄関へ走る。

♯ 藤部の家・玄関先

典、玄関を出て、外を見る。
藤部は既に自転車を発進させ、すごい勢いで下りにかかっている。        トレーナー姿。
典、その後姿に向って。

典     「(大声で)兄ちゃん急げよ。がんばんないと間に合わないぞ!」

典、暫く見送っていたが、ブルッと震えて玄関の方にくるりと回る。


♯ 道

薄日の射す道を自転車で一目散に走る藤部。
庁舎前の道。コンクリートの壁。
向北中学。スクールゾーン。
商店街。
建物が閑散となり、道沿いにまばらに民家がある蛇行した道。
藤部、遊歩道の入口に到着し、急ブレーキ。
自転車を降り、それを枯れ枝の中に乱暴に立てかける。

藤部    「(自転車に向かい)テンちゃん号、ごめん」

藤部、坂道を一気に駆け上ろうとする。

藤部    「(モノローグ)この道は、あの時も歩いた」

♯ フラッシュ

一年の秋の遠足。藤部、坂道をひょうひょうと歩いている。

♯ 向北山・坂道

坂道を走る藤部。

藤部    「(モノローグ)のんびりと歩いた。のんびり歩いている自分を意識していた。何事にも動じない様なふりでいたかった。いつだって。でも、内心はふらふらしていた。早く、誰かに、追いついて欲しかった」    

♯ 向北山・山頂

藤部、たどり着いて、はあはあ息を切らしている。
広場。のどかな風景。
閑散とした売店。遊ぶ近所の子どもたち。
柵に手を掛け、遠くを見ている日野の後姿。  

藤部    「(モノローグ)(当の藤部はただはあはあ息を切らしている)彼女は夕陽を見ているのか、それともアイツが夕焼を見ているのか…」

藤部、深く息を吸い込んでから。

藤部    「(叫ぶ)待ってやれよ!」

日野の後姿。動かない。

藤部    「二十過ぎまで待ってやれよ。そしたら。いいとこどりだぞ。プレッシャーつきの勉強も終わってるかもしれないし。ちやほやされるシーズンに突入してるかもしれない。いいことばかりだ。そうだろう?そうだよ。まだいいだろう?待ってやれ…」

日野、ゆっくりと振り返る。
藤部、固まっている。おでこが全開。額からすうっと汗が流れる。
日野、首だけ振り向いた姿勢で、藤部の顔を見て、つぐんだ口元に静かに笑みを浮かべる。


♯ 町の風景

夜。静かに降る雪。

♯ 向北中学・全景

一面の雪景色。(オープニングと同じ光景)

♯ 藤部の部屋/三上の家・玄関(翌日・夜)

深夜。二人毛布に包まって電話している。

藤部    「(ぐったりした様子)三上くん、オレはかつがれたのだろうか」
三上    「(しばし考えるが)わかんない」
藤部    「(ため息をついている)」
三上    「典坊にはしょっちゅうおちょくられてるけどなあ」
藤部    「(ええ?って表情)」
三上    「なんて云ってとめたの」
藤部    「心にもないこと」
三上    「ふーん(笑っている)」
藤部    「次の日クリスマス会でさ。雪合戦したんだ。男子VS女子で」
藤部    「(モノローグ)頼みの雪はドカドカ降った」

♯ 藤部の部屋(回想・同日明け方)

眠っている藤部。
雪がドサッドサッと落ちる音にうなされる様に寝返りを打つ。

藤部    「(モノローグ)デジャ・ブだ…」

藤部、がばっと起きる。時計の日付を見てほっとした表情。

藤部    「(モノローグ)もう一度、あの朝から始まるのかと思った」

藤部、枕を抱きしめて、首をブンブン振る。

♯ 藤部の部屋/三上の家・玄関

続き。

藤部    「オレさ、気がついたら、日野狙って投げてんだよ」

♯ 向北中学・校庭(回想・同日)

二年B組、雪合戦の光景。
(このあと藤部の台詞に合わせて、雪合戦の様子。日野、藤部の様子) 

藤部    「(情景にかぶせて)アイツ、誕生日だってんで色紙のレイかけてもらってんの。ポラロイドカラーのさ。ぴかぴか反射してさ。目印だよ。それめがけてさ、ちきしょー、えいっえいってさ」 

♯ 藤部の部屋/三上の家・玄関

続き。

三上    「なんか楽しそうだなあ」
藤部    「(穏やかな表情)ホント、楽しくって、嬉しかったね。おかしいね」

 ♪【ちゃんちゃこ・放心】

 ~エンディング


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