2 ガールズバンド“ミッチェリアル”
第二話 マネージャーしし丸の夏休み
大手レコード会社の入っている高層ビルの一室で、窓から配下の東京の街並みを眺めながら、俺はぼんやり夏休みのことを考えていた。
ガールズバンド“ミッチェリアル”の初のワールドツアーが控えている。アメリカ国内を仕切るエージェントとのテレビ会議打ち合わせも終わり、部屋には俺しか残っていなかった。
空を漂う雲を眺める。
今晩からブー子の祖父の山で、ツアー前最後の合宿だ。
このバンドには秘密がある。ボーカル&キーボードのブー子は、イヌ科イヌ亜科、キツネ属の女子だ。つまり、人科ではない。キツネがばけている。
ギター担当のミケは、山をあげてのオーディションで発掘した大型新人で、ネコ科女子だ。またまた人科ではない。
所属事務所のさとこエンタープライズ社長は、“神社のさとこ”として有名な「神社諭扉子」氏で、東京ドーム80個分の土地を所有する先祖代々からの大資産家だ。イヌ科タヌキ属の女子だ。こちらも人科ではない。
裏の顔はマフィアのボスだ。組の衆と呼んでいる多くの者を牛耳る組織の長だ。組の衆は、ほぼ人科だ。マフィアのボスであるさとこが、タヌキだと知っている者はほとんどいない。
かくいう俺も、イノシシ科イノシシ属の男子だ。つまり、人科ではない。
俺は元々芸能界の裏方として働いていたが、足を洗って姉御(さとこ社長)のところに転がり込んだ。ところが、何を思ったか姉御が突然、キツネのブー子の夢を叶えると言い出して、俺はマネージャーを務めるように言われた。俺の名前はしし丸だ。業界では、「ししちゃん」と呼ばれている。
アメリカツアーの間で、ちょっとだけ(なか二日だけ)本当の夏休みが取れた。
そもそもガールズバンド“ミッチェリアル”のワールドツアーは、ドラム担当のミカナは高校1年、チェロ担当のトオルが大学1年、ギター担当のミケが一応中学三年なので、みんなが夏休みに入る間しか開催できない制約がある。なので、大忙しのワールドツアーなのだが、アメリカ公演は4都市回る関係で、少しだけ余裕があるスケジュールになっていた。
まずは、イノシシ科イノシシ属のアメリカの兄弟に会いたい。現地の動物園に行く。これは絶対だ。
それから、山に住む兄弟に遭遇してみたい。ただ、イノシシ狩にあう可能性も否定できない。これはかなり慎重な行動が必要だ。
俺は、配下の東京の街並みを眺めながら、どういうプランを立てるか逡巡していた。
本物の夏休みの大冒険になりそうな興奮もあった。
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