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3 ガールズバンド“ミッチェリアル”

第三話 ドラマーのミカナ16歳


 こんな所に、今ももっとも勢いがあるガールズバンドのメンバーが集まっているとは世間の誰も思わないだろう。

 きつねのブー子は、4歳この頃から人間の先生について、手を叩かれながら、泣きながらレッスンを受けていたらしい。

 古いピアノを使って、すごいパワーで嵐のように鍵盤けんばんを叩きまくって、即興そっきょうでピアノを奏でていた。いつものブー子のならしだ。

ブー子は人科じゃないからか、不思議なタッチと感性を持っていると思っていた。

 私はミカナ。親からは、ミュンヘン工科大学か、マサチューセッツ工科大学か、ハーバードか、スタンフォードか、バークレーかのいずれかの大学に入ると約束して日本にやってきた。 

 条件から外れると速攻でバンド脱退だったいだ。創業者一族というのは、そこの一員でいる者には多大な努力を求めるのだ。

 幸い勉強は子供の頃から得意だった。でも、16歳の私は、ドラムを叩いているときの方が幸せだ。

 好きなことを続けるために勉強するということだ。好きなことを続けるために仕事する大人と変わらないと思っている。

 親はいきなり韓国にダンス留学するとでも宣言されるのかと思ったらしく、最初は猛反対された。

 しかし、ドラムを叩くガールズバンドだと聞いて、じゃあそんなに過酷かこくな練習量は必要ないでしょうと思ったらしく、約束の大学のいずれかに入るならと、日本に行くことを許してくれた。

「えんがわってなに?」

最初、ブー子の山の中の祖父の古ぼけた屋敷に案内された時は驚愕きょうがくしたものだ。“えんがわ”なんて、知らなかった。

 でも、そこで酔っ払ったブー子とたぬきになったさとこ社長と、イノシシに戻ったしし丸と、ジュースを飲んでいる猫になったミケと、トオルと一緒に“えんがわ”から山々の夕焼けを見たとき、なんだかとても和んだのだ。今まで知らなかった心の安らぎが胸に広がるのを感じた。

 言葉は、英語とカタコトの日本語だ。

 学校はインターナショナルスクルールだから、ドイツ人の友達もたくさんできた。

 でも、バンドのことは秘密だ。決してしゃべれない。私がバンドをやっていることはみんな知っているけど、バンドのことを一切喋らないことを皆知っている。しゃべれるもんか。

 たぬきが社長で、マネージャーがイノシシで、ボーカルがキツネで、ギター担当が猫だなんて!

「練習と勉強だけで精一杯。」

 これが正真正銘の本音だ。バンドの秘密を暴露ばくろしようなんて思いもしない。

 それに、このバンドの秘密から生まれる音源には不思議な魔力があると思っている。世界唯一のものだ。

 人科でないものが混ざるとこんなにも魅惑みわくの音源が生まれるとは思ったこともなかった。ドラマーとしては、最高だ。

 ブー子はひどいオンチだ。なのに、ボーカルができるのは、バックで歌っているさとこ社長のハーモニーのせいで、なぜか不思議な素晴らしいメロディーになるのだ。

 バンドのサブボーカルは、ミケ、トオル、私全員だ。つまり、ガールズバンド“ミッチェリアル”の声は、3匹の動物と、二人の十代女の子の声が混ざったハーモニーから生まれる。

 最高じゃないか。
 ハーバードでも、スタンフォードでも、マサチューセッツ工科大学でもどこにだって受かってやる。

 三年のうちに世界的バンドとして成功して、バンドの拠点をアメリカに移してやる。そしたら大学生活を送りながら、ガールズバンド“ミッチェリアル”の一員でいられる。

 16歳の私は硬い決意で溢れていた。絶対にこの初のワールドツアーは成功させてやる。

 先ほど山のふもとのバス停にいた“くノ一”は、ドイツの創業者一族から送り込まれたものだろう。どうせ後継者争こうけいしゃあらそいだ。私には興味がないのに、時々ああやって脅しを込めて襲いにやってくる。

 まあ、私にはさとこ社長の組の衆と、ネコ科のミケがついているので、今のところ何の被害も受けてはいない。

 私は両手で、自分のほっぺをピシッと叩いた。気合を入れる。バンドの音には私のドラムが不可欠だ。さあ、練習だ!



あらすじ



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