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AIみちこさん 第4話

 数日後、涼子と食事をしている時に、連絡があった。
「なんの電話なん?」
「この前、助けたじいさんからお礼をしたいだって。」
「リョウくん、そんなことしたん。いいとこあるやん。」
「まあね。」
オレのメールに待ち合わせ場所が送られてきた。お店の住所だ。なにかご馳走してもらえるのかな。気にせんでいいのに。

(リョウさま、あの方は中小の会社社長です。)
(えっ、なんでそんなこと、わかんの?)
(ネット情報です。)
(そっか、ネットで調べたということね。)
(もしかしたら、いいチャンスかもしれません。)
(何、それ?)
(先日お話した起業のことです。)
あ、そうか。なるほどね。でも、そんなん、図々しいよな。

 お店は、外観からして、なかなか高そうな感じのお店だった。なんの店なんだろうと思いながら入ると、あのときのじいさんがこちらに気が付いて、手招きした。
「松島くんだね、本当に助かったよ。ありがとう。」
「いえいえ、当たり前のことしただけですから。」
「救急隊員に心筋梗塞かもしれないって、言ってくれたんだってね。まさにその通りでね。命拾いしたよ。」
「もしかしたらって、思ったもんですから。」
「学生さんだよね、医学生?」
「いえ、文系の学生です。」
「文系でよくわかったね。」
「たまたまです。年配の知り合いの方に、同じような症状の方がいたもんですから。」
「なるほど、今日は私の感謝の気持ちだ。こういうところは初めてかな。」
「はい、初めてです。」
「それはよかった。是非とも楽しんで食べて下さい。」

目の前には鉄板があり、料理人が一人ついている。こちらの注文を目の前でやってくれるんだろうか。こんなん、初めてだ。じいさんは、予め注文していたらしく、料理人がいろいろと目の前で焼き始めた。
「ところで学生さんなら、そろそろ就職かな?」
「はい、今3年なので来年就活です。」
「どこか、希望はあるのかな。」
「実はまだきちんとした話ではないんですが・・・」
こんなん、言っていいんだろうか。
(大丈夫ですよ、きっと。)
そうかな。
「遠慮せずに聞かせてもらえないか。」
「はい、・・・」
オレは技術力があっても、営業力に乏しい会社を対象に、その会社の製品をネットで販売してく会社を創りたいという内容を話した。

「なるほど、でも、ネットでそううまく販売できるものなのかな。」
確かにそうなんだよな。販売サイトを立ち上げたって、最初は陸の孤島だもんな。誰もその存在に気づいてくれやしない。
「その問題もこれから解決していこうと思います。」
うまくできるのかな。
(大丈夫です。対応方法はお教えします。)
(えっ、知ってんの?)
(はい。)
(なんだ、それ早く言ってよ。あせったよ。)
(申し訳ございません。)
「なるほど。普通は就活なんだろうけど、君はなかなか冒険心があるね。」
「いえ、何か違ったことにチャレンジしてみたくって。」

 このじいさんは、そんな話にかなり食いついてきた。やっぱり、社長というのは、こういう話が好きなんだろうな。しかし、ここの料理はとてもおいしい。今日はおごって頂けたのだけど、いったいいくらくらいするんだろう。まあそんなことを考えながら、美味しい一時を過ごさせて頂いた。

 しばらくして、学校に行く途中で、事件は起こった。オレは歩きながら、スマホが鳴ったので、ついスマホを手に取り、SNSの内容を読んでいた。その時、オレに向かって自転車が突進してきたのだ。オレもちゃんと前を向いていればよかったのだが、スマホに目を向けていて気付くのが遅れた。自転車も多分、オレに気づいていなかったんだろう。おもいっきり、激突・・・の、はずだったんだが、寸でのところで、オレはその自転車をかわしたのだ。だが、それはオレがやったんじゃない。
(あぶなかったですね。)
(えっ、なんで?完全にぶつかったと思ったんだけど。)
(すみません、私がコントロールさせて頂きました。)
(本当にそんなことできるんだ。)
(はい、緊急事態のときは、リョウさまに代わって、私が対応します。)
確かに非常にありがたいけど、少々怖いぞ、やっぱりそれは。AIみちこさんに、オレのからだを乗っ取られるなんてことを考えた。
(そんなことは致しません。そのように決められていますので。)
そう聞いていても、やっぱり不安だったけど、ちょっと、ほっとしたような・・・あっ、でもあの自転車の人、大丈夫かな。

 オレはかわしたけど、自転車はバランスを崩して、モロにコケていた。高校生くらいの男の子で、その子もやっぱり、スマホを操作していたようだった。それに、片手に飲み物のコップを持っていたようだったから、しっかり落として全滅してる。当然、スマホも割れてしまっている。
「大丈夫か?」
「あ、すみません、大丈夫です。」
(この人、かなりの重症です、救急車を呼んだほうがいいです。)
そうなのか。外見では、怪我は擦り傷くらいのようにしか見えない。だけど、もしかしたら、かなりどこかを打撲してるかもしれないな。
「一応、念のため、病院いくか?」
「いや、大丈夫です。」
まあ、その時は誰でもそう言うんだよな。
(その通りです。)
でも、あとから後悔するケースが多いんだろうな。
「いや、一応、救急車呼ぶわ。」
「本当に大丈夫ですって。」
「じゃ、冷静になって、本当に痛いところを確認してみてよ。」
オレは彼に手や足など、怪我してると思われる箇所をひとつづつ見てもらった。

「痛っ。」
やっぱり、肋骨あたりをやってるみたいだ。しばらくして、救急車が到着したんで、隊員に状況を説明した。で、また、オレが付き添うことになった。だが、救急車の中で、高校生の彼は意識を失った。頭を打っていたようだった。やっぱ、救急車を呼んでよかった。あそこで、彼のいうことを真に受けて、別れたらとんでもないことになっていただろう。

 今回は交通事故なので、警察の事情徴収を受けた。オレは自分がスマホを操作していたことをあえて伏せておいた。まあ、本当ならオレも一緒に救急車だったもんな。でも、ちゃんと前を見ていたんで、ぶつからなかったということで、話は通った。

 高校生の彼は結構重症で、意識が戻るまで3日くらいかかったとのこと。脳内出血が見られたので、緊急手術もしたらしい。肋骨もしっかり折れていたらしい。まあ、あんな運転はマジだめだよな。オレも二度と、歩行中や走行中はスマホを操作しないと、肝に銘じた。

 高校生の彼は、結局3週間も入院していたとのことだった。親御さんが、オレにお礼を言いに来た。なんか最近、お礼されること多いな。高校生の彼も治ってから、オレのところに挨拶にきた。命の恩人ということになった。

 AIみちこさんは、本当に細かいところまで見てくれている。普段は全然わからないんだけど、オレが適当に食べたり飲んだりするものを、いちいち確認してくれている。ある時、冷蔵庫の奥にあった小倉ようかんを食べ終わってから、みちこさんはこう言った。
(今のようかんは、すでに賞味期限が過ぎています。それも1年以上も。)
なんだって?オレはパッケージを探してみると、本当に1年以上も前の日付が、賞味期限になっている。オレ大丈夫なんかな?でも、変な味しなかったけど。
(はい、大丈夫です。ものによりますが、これは何も変化は起こっていませんでした。)
(それなら、黙っておいてよ。びっくりしたやん。)
(すみません。次回からはそうします。)

だけど、味的には問題なくても、下痢などの体調不良を起こす要因となるものについては、みちこさんは容赦なく言ってくる。
(すぐに吐き出して下さい。危険です。)
おっ、そうなのか。オレはすぐに吐き出した。でも、味はなんともないんだけどな。だけど、平気だと言って食べた友人は、しっかり下痢をした。だから、オレはこの点については、みちこさんを信用している。

 焼肉をした時もそうだった。肉を取り出し、料理に使った箸を、そのまま食事に使った時にみちこさんに怒られた。
(だめです、その箸には細菌がついているので、食事に使わないで下さい。)
(えっ、そうなの?)
オレはついめんどくさいんで、同じ箸を使うことがよくある。野菜炒めなんかの時は、みちこさんに何も言われないけど、肉はだめだそうだ。もし、その箸で食べていたら、数日発熱して腹痛、下痢で苦しむことになるらしかった。そんなことになりたくないし、しっかりみちこさんの言うことを聞くことにした。

(つづく)

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