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オッド・アイ 第2話

 オレはスマホの住所録に、オレと同じ上条名の連絡先を見つけた。上条幸子・・・これ、もしかして、オレの母親???電話番号もある。オレは恐る恐る電話してみた。
「もしもし。」
「あ、レイ。何なの?久しぶりじゃないの。」
「もしかして、かあさん?」
「何言ってるの。当り前じゃない。まさか、声を忘れたとか?」
「ほんとに、オレのかあさんか?」
「レイ、頭、大丈夫?」
「とうさんは?」
「いるけど、呼ぼうか?」
「いや、近々、そっちに帰るよ。」
「帰ってこれるの?まだ、休みじゃないんじゃない?それに、飛行機の手配とか大丈夫?」
「飛行機?」
「ほんと、大丈夫?こっちは、バルセロナよ。」
えっ???
「日本じゃないの?」
「レイ、本当に大丈夫?」
「ごめん、大学が休みになったら、いったん、帰るから。」
「わかったわ。」

 どういうことだ?オレの両親は生きていた。それも、バルセロナに住んでいる。あ、それで、オレは第二外語がスペイン語なんだ。でも、オレはスペイン語なんてまともにしゃべることなんかできない。どうなってるんだ。

 翌日、オレは高木さんと学食にいた。
「オレの両親、今まで会ったことなかったんだけど、この世界ではちゃんといたよ。」
「ほら、やっぱり、変わってるでしょ。」
「とにかく、夏休みになったら、会いに行ってくる。」
「まあ、よかったじゃん。」

 そこへ、外人がオレにしゃべりかけてきた。この人誰?でも、その言葉、わかる。スペイン語だ。この人、スペイン語の先生だった。
「レイ、夏休みはスペインに帰るのかい?」
「ええ、その予定です。」
「じゃ、一度、バルセロナに来るといい。私も帰っているからね。」
「オレの両親もバルセロナに住んでいるんです。」
「おお、何たる奇遇。じゃ、家族でパーティでもしようじゃないか。」
「はい、よろしくです。」

 オレが流暢なスペイン語でしゃべっていたんで、高木さんはびっくりしていた。
「高木クン、今の何語?」
「スペイン語。」
「しゃべれるの?ああ、スペインとのハーフだからなのね。」
「そうみたい。今まで、知らなかったんだけどね。」
「そうなの?」
「今までの世界では、オレは両親とも知らないんだ。ハーフってのはわかるけど、どこの国のハーフかも知らなかったんだ。」
「で、この世界で、わかったというわけね。」
「そう。で、まさか、自分がスペイン語できるなんて、今の今まで知らなかった。」
「しゃべったことなかったの?」
「そうなんだ。」

 やっぱり、不思議なことが起こっているんだという実感がした。
「やっぱりね。で、どうする?」
「どうするって?」
「私たち、これから?」
「わかんないよ。」
「もとの世界に帰れるのかな?」
「でも、この世界でうまく生きてくこと、考えたほうがよくない?」
「そんなわけないしょ。どうやって帰るか、考えるべきよ。」

 オレはなんかどうでもよくなった。今の世界で生きていけばいいじゃん。両親も健在なんだし、外国旅行もいけるし。今までの世界じゃ、オレは一人ぼっちだったし、悪友とバカ騒ぎするだけだったし。就活なんか、どうせ、いい加減だったし。
「とにかく、もっと他に何が変わっているのか、調べてね。」
「わかった。」

 いろいろ調べると、自分の過去が所々違っていたことがわかった。そのため、交友関係もかなり違っていた。オレはかなりの優等生だったみたいだ。おまけに家庭はバイリンガルで日本語、イタリア語、完璧。英語も少々。だから、外国語の授業は楽勝。今のオレの友達は、この大学には少ないみたい。まあ、それはそれでいいかもしれない。なんか、今更、日本の大学にいるより、オレはバルセロナにいる方がおもしろそうだ。だけど、オレの両親は、ずっとバルセロナにおったんかな?そんなわけないよな。

 この大学にいる間、同じ学部で仲がいいヤツなんかいなかった。授業の関係で、話をする程度だったし、オレはスペイン語のロドリゲス先生の研究室に行って、スペインの話を聞くのが楽しかった。先生はカフェオレが好きなのでいつでもごちそうになった。

 夏休み前の試験が終わって、オレはかあさんに送ってもらった飛行機のチケットを持って、バルセロナに旅立った。だけど、なんでドバイ経由で20時間もかかるんだよ。ウィーン経由だったら、15時間くらいでいけるのに。費用を考えたら、仕方ないか。

 初めてのスペインだ。ところで、バルセロナ空港まで迎えに来てくれるって言ったけど、そういえば、オレ、見たことないからどんな感じの人かわからない。大体、かあさんかとうさんか、誰が来るんだ?来なかったら、どこに行ったらいいのかわからないやん。

 しっかし、外国だぁ。外人ばっかりだぁ。なんて、いったい何時間待たせるのかな。もしかして、日にち間違えてる?

「レイ?」
誰だ?その声がした方を向くと、かわいい女の子がいた。
「誰?」
「レイでしょ?私、マリア。」
「マリア?」
「あれ?聞いてない?私、レイのお姉さんだよ。」
オレに姉なんかいたの?聞いてないんですけど。
「そうなんだ。かわいいね。」
「ほんと、私、かわいい?」
「めっちゃ、かわいいでしょ。」
「レイ、うれしい。」
って、いきなり抱き着いてきた。
「でも、レイの目、変わってるね。ブラックとブラウン・・・」
そういえば、そうだった。オッドアイだったこと、忘れてた。
「かっこいいだろ。」

 マリアは、とうさんの前の奥さんとの間の子だそうで、今は、とうさんのところに遊びにきているとのこと。知らなかったぁ、姉がいたなんて。オレはマリアに連れられて、家に向かった。しっかし、マリアはよくしゃべるなぁ。日本のこと、聞きまくりだ。そんなに興味があるのか。
「だって、ちっさな頃から日本のアニメで育ったんだよ。興味あるっしょ。」
「そんなもんか。」
「だいたい、レイは、全然アニメ知らないなんて、信じらんない。」
日本人なら誰でも、みんなアニメ知ってると思われていることが、信じられねぇや。

 家に着いた。オレのかあさんってどんな人なんだろう。とうさんは?ちょっと、ドキドキした。
「レイが帰ってきたよ。」
「レイ、ひさしぶり。」
「ただいま。」
「お帰り。スペイン語忘れてない?」
「大丈夫だよ。」

 かあさんってこんな人だったんだ。で、とうさんは、体がでかい。それにしても、オレ、なんでこんなにスペイン語できるんだろうか。なんか、勝手にしゃべれる自分が不思議だ。それにちゃんと聞き取れるから、もっと不思議だ。てか、それより、かあさんはなんだかラテン系って感じがする。まあ、見た目は普通に日本人やん。オレは母親に、父親に、かなりしっかり抱きしめられた。

「どう?大学は?」
「大した事ないよ。」
「だから、こっちの大学にしなって言ったでしょ。」
そんな話だったのか。
「なら、そうしようかな。」
「いいよ、そうしたら。」
「え~、レイ、それなら一緒の大学がいいよ。」
「オレ、経済学専攻だよ。」
「私もよ。」
そうなのか。
「でも、マリアは学年上だよね。」
「多分、一緒。ちょっと、遊んでたからね。」

 マリアは2歳年上だけど、どうやらオレと同じ学年。で、オレは今の大学から編入できるらしい。今は、夏休みだから、この夏が終わった段階で、こちらの大学に入れるとのこと。後日、日本の大学から書類を取り寄せて、マリアと手続きにいくことになった。こんなトントン拍子で、生活環境が変わっても大丈夫か、オレ。でも、スペイン語は問題ないくらいにしゃべれてしまうし、聞き取れるんだから、全然大丈夫かもね。

 その日、オレは初めての親子4人で夕食だった。家族での食事ってこんな感じなんだ。結構、楽しいもんだ。てか、こいつらめちゃしゃべるやんけ。オレがまるでお地蔵さん状態だ。
「レイはあんまりしゃべらないんだね。」
「みんながしゃべりすぎだからだよ。」
「そっか、しゃべる隙がないか。」
「だよ。」
「ははは。」

 なんやかんやと、会話が弾んでいたら、夜中になってしまった。
「ところで、オレ、どこで寝たらいいん?」
「そうね、マリアと寝たらいいよ。」
「じゃ、こっち。」
って、そんなんでいいわけ?オレ実の姉と寝るん?まずいやろ。それにマリアだって困るんちゃう?

「何?気にしてるん?」
「いや、そんなことないけど・・・」
「心配しなくていいよ、何も取って食うなんてしないから。」
マリア、全然気にしてない?!
「わかったよ。」
というわけで、オレはマリアと寝ることになった。かあさんもとうさんも、それでいいのか?年頃の男女だぞ。

 ちょっと狭目のベッドに姉と弟が寝る。小さい姉弟なら、問題ないけど、まいった。マリアはTシャツに短パン。オレも似たような恰好でベッドに入った。よかった。あっち向いてくれた。オレも反対向いて寝ようっと。しかし、甘い匂いがしてくるな。狭いから、背中がくっつく。まあ、いいか。だけど、夜中になんか重いなと思ったら、マリアはオレに抱き着いて寝てる。それはやばいだろ。

 なんか、朝までぐっすり眠れた気分じゃなかった。なんか、モヤモヤしっぱなしだった。いくら姉弟だと言っても、一人の女に抱き着かれて、眠れるわけないだろ。
「おはよう。」
「おはよう。あれ、どうしたん?眠れなかった?」
「まあ・・・」
「仕方ないね、初めてのスペインだもんね。」
そんなんじゃない。
「どうも一人じゃないと、眠れないから、今日から別の部屋にしてよ。」
「だけど、別の部屋なんかないよ。」
「え~、そんな。」
「まあ、いいやん。姉弟なんだから。」
ということは、これからずっと一緒に寝るのか??!

「あ、レイ、おはよう。やっぱり、レイがいると暖かくていいわ。」
「オレは暖房か?」
「ははは。」
今夜はベッドじゃなくてソファでも、地べたでもかまなわい。
「ねえ、レイ。」
「なに?」
「今晩、バルに行こうよ。」
「いいわね、行ってらっしゃいよ。」
なんだ?バルって?
「バルってなに?」
「日本でいうなら、居酒屋かな。」
「なんだそっか、ならOKだ。」
「私の友達にも紹介してあげる。」
なんか、大丈夫か。どんな連中に紹介されるんだ?

 スペインは、朝は遅いし、昼も遅い。お昼12時なんか、どこの店も開いていない。午後2時くらいから昼飯タイムみたいだ。午後4時くらいまで、ゆっくり飯を食って、お昼寝タイム。こういうところはのんびりしていていいなあと思う。で、晩御飯はまた遅い。午後9時くらいになってからだ。

「レイ、行くよ。」
夜になって、マリアに誘われた。
「どこまでいくん?」
「結構近いよ。」
歩いて15分くらいのところにあった。
「みんな、来たわよ。」
「オラ・ケタール、マリア。」
「紹介するわ。私の弟のレイよ。」
「レイ、よろしく!」
「よろしく。」
マリアの友達っていうから女ばかりだと思ったら、男もおるやん。

「レイの目、おもしろい。」
やっぱり、そこか。やっぱ、オッドアイが印象的なんだろうな。
「かっこいいだろう。」

 でも、こいつらおもしろいし、楽しい。ラテン系の男女はノリがいいし、楽しい連中が多い。これって、オレに合ってるかも。って、オレも半分、スペインだから、半分ラテン系。合うわけだ。

 話を聞くと、みんなマリアと同じ大学の子らだ。で、オレが日本から、この秋から転校してくると聞いて、結構盛り上がった。みんな、結構日本に興味があるみたいで、いろんなことを聞いてくる。

 オレは、ディエゴとエロイと気が合ったので、そのまま3人で次のバルへ向かうことになった。
「マリア、ちょっくら3人で行ってくるよ。」
「いってらっしゃい。」
ついでに言っておくと、マリアの友人たちは、ダニエル、ディエゴ、エロイと、女性陣は、サラ、アデラ、ミアで、多分、同じような歳だと思う。

 その夜は遅くまで、バルで騒いで、帰宅した。なんか、木村や大石とワイワイしていた感じを思い出すなぁ。

 遅くなった朝、というか昼、オレのスマホが鳴っていた。オレは全然気付かなかった。でも、朝食後にスマホを見ると、高木さんからメッセージが入っていた。
「ねえ、そちらはどう?」
「いつ頃、帰ってくるの?」
「だいぶ、状況が分かったし、お互い情報交換しない?」
「連絡ちょうだいね。」

 知らん間に、たくさん入っていた。まあ、でも、オレは日本に帰る気なんか、更々なくなっていたので、そのままほっておいた。すると、ますますたくさんのメッセージが入っている。仕方ないから、電話しようと思ったけど、日本とスペインの時差はどれくらいなんかわからないので、メッセージにした。

「スペインはオレの性に合っているみたいなんで、このままここに住むことにした。」
すると、すぐにメッセージがきた。
「え、なんでよ?じゃ、この状況に対応するのは、私だけってこと?」
あ~あ、面倒臭せ~。
「だね。オレはこの方が合ってるから、このままでいい。」
「もういいわ。自分でなんとかするから。」
よかった。そうしてもらうと助かる。すでに大学を届け出を出し、こちらの大学へ編入するための書類待ちだ。日本から書類が届いたら、こちらの大学へ持っていって、面接を受けてOKがもらえれば、それで完了となる。そうすれば、9月からオレは晴れてこちらの大学生になる。やっぱ、ラテン系の血筋なんだろうから、この感覚が心地いい。でも、今までの生活環境と違うところは、最初、どっきりすることもあるけど、すぐに慣れるだろう。

 さて、オレの過去のことだけど、どうやって聞き込んだらいいんだろう。多少はどんな環境で生きてきたのか、知っておいたほうがいいと思った。
「なあ、かあさん。」
「どうしたの?」
「オレの幼少期ってどんなんだった?」
「なんでいまさら?」
「なんか、あんまり覚えてなくって・・・」
「そう?」
「あんたはね・・・」
ということで、いろいろ聞くと、最初は日本で両親とも一緒に生活をしていたらしい。でも、オレが5歳くらいの時に父親は仕事の関係でスペインへ。オレが高校を卒業と同時に母親もスペインへ。オレは日本の大学へ進学したのだという。家の中では、結構スペイン語で話していたので、オレは一応バイリンガルなのだという。そういうことだったのか。

 姉のマリアのことは、母親は知っていたけど、オレには黙っていたらしい。こっちに来た時にびっくりさせようと思っていたとのこと。十分、びっくりしたよ。でも、なんか知らんけど、今までの世界と違う世界に来て、オレにとってはラッキーだったと思う。高木さんは不幸なのかも知れないけど。

 マリアはオレが自慢の弟のようだ。最近の日本はスペインでも高評価だから、そんな日本の半分入った弟が気に入っているらしい。それにオッドアイも気に入ってるみたいで、カッコイイっていつも言ってる。だから、何かとオレを一緒に連れて行きたがる。まあ、外見的に結構可愛い姉だから、まあいいけどな。それに、いろいろとスペインのことが知れて有難い。オレもこの町でどのように振舞っていけばいいのかがだんだんわかってきた。

 大抵は明るく接すると、みんな仲良くなれる。それにオレにはオッドアイという特徴があるので、すぐにオレという存在を覚えてくれる。マリアも顔が広いみたいで、マリアの弟ということで、いろんな特典が得れたりする。まあ、とにかく、オレにスペインは合っているということだ。

 マリアの友達は結構、バルに集まることが多い。オレもまあ大体連れて行かれることが多いというか、毎回絶対だ。
「ところで、マリアは彼氏いんの?」
「今はいないよ。」
「そっか。」
「なんで?」
「いや、ここでは結構人目をはばからず、イチャイチャするから、マリアもそうなのかなって思って。」
「まあ、普通だよ。親兄弟がそばにいても関係ないよ。」
「日本じゃ、それは無理だな。」
「どうして?」
「恥ずかしいということが先にくる。」
「だって、親が心配するよ。」
「どういうこと?」
「子供が付き合っている相手が、イチャイチャしてくれないと、うちの子のこと、嫌いじゃないかと心配するの。」
「え~、そうなの?」
「ここじゃ、そんなもんよ。」
「それに、男も女も関係なしに下ネタOKよ。」
「まじか。」
こういう文化はちょっとついていけんわ。まだまだ、慣れることできんな。

(つづく)

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