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カイカイとつばめ 第4話

 つばめが小6になってしばらくした頃、なんとなくつばめが大人しくなった気がした。日頃、家事の手伝いはよくしてくれるけど、最近はほとんど自分でやってくれる。オレにとっては、とってもありがたいことだが、いつもと違うと、調子が狂う。でも、オレもやってくれているつばめにおんぶしてた。

 だが、オレはある事実を知ることになった。つばめが急に髪の毛を短くしたのだ。
「どうしたん?」
「気分転換に自分で切ったら、変になったんで友達に整えてもらった。」
「確かに、うまい具合に切り揃えてもらったね。」
でも変だ。いつもなら、オレに散髪に連れてけってうるさいのに。暑いから短く切るってのも納得だが、そんな季節じゃない。

 今度は体操着を縫っている。裁縫も自分でするんだ。雑巾なんかは、オレに縫ってくれって言ってたのに、どうしたんだろう。
「体操着か、どうしたん?」
「あ、転んで破れたから縫ってるの。」
「オレじゃなくて、大丈夫か。」
「うん、大丈夫。自分でできるから、あっちいってて。」
「わかった。」
自分でバンバンやってくれる分にはいいけど、なんか急にどうしたんだろう。オレはちょっと疑問に思ったが、そのままスルーしていた。

「なんか、つばめの様子がおかしいんだよな。」
「つばめちゃんですか。」
「うん、なんでも自分でやってくれるんだけどな。」
「いいじゃないですか。手間がかからなくて。」
「そんなもんかな。」
「そんなもんですって。」
昼休みにそんな話をしていた。問題ないんだよな。

 でも、さすがにオレでもおかしいとわかる時がきた。つばめの髪の毛の一部が根元から切られていた。
「つばめ、どうしたんだ?」
「・・・」
「もしかして、いじめか。」
「・・・」
「いじめられてるのか?」
オレはつばめを抱き寄せ、できる限り優しく言った。

「ずっと、我慢してたのか?オレに言えばよかったのに。」
「だって、カイカイだって忙しいのに。」
ばかやろ。子供が気を使うな。
「そんなこと、考えなくていいんだよ。オレに吐き出さないと溜まるだけだろ。」
「ごめんね。」
つばめは泣き出した。多分、かなり耐えていたんだろうな。可哀そうに。
「じゃ、オレが可愛い帽子を買ってくるよ。」

 翌日、オレは会社を休んで、つばめと学校に行った。担任の先生は全然わかっていなかった。つばめによると、先生にも訴えたとのことだったが、まるで取り合わなかったらしい。オレは担任と校長に、つばめの頭を見せ、今後このようなことがあったら、警察を呼んで徹底的に調査させると言った。

「髪の毛を切られ、体操着もボロボロにされ、教科書にいたずら書きされ、今後それ以上にエスカレートしていくのが、いじめでしょ?」
「あんたら教師がそれを止めないで、どないするん?」
「少なくとも、髪の毛を切った子には、絶対に同じ思いをさせる。」
「それは・・・」
「そうせんと、また、同じことをするでしょ?一度、同じ思いをしたらええねん。」
「しかし、もう少し穏便にですね・・・」
 学校の先生ってのは、相変わらずやな。オレは加害者の家に行くと言った。先生はどうしても、間に入って穏便に対応したかったらしいが、オレはそれを許さなかった。
「いや、加害者宅へはちゃんと行って話をしてきます。」
「それに、髪の毛が伸びるまで、学校でこの帽子をかぶってますから、それは容認して下さいね。」
「わかりました。」

 オレはかなり頭に来ていた。でも、なんとか冷静さを取り戻すように落ち着けた。
「カイカイ、つばさのために先生に言ってくれたし、もういいよ。」
「あかん、徹底的にせんと、また、つばさが嫌な目に合うやろ。」
「ほんとうにいいよ。」
「倍返しとまでいかんでも、やった子にやられた痛みを味わってもらわないと、またするんや。」
「・・・」

 オレはつばめと加害者宅へ行った。
「こんにちわ、北山ですが。」
「はい、なんでしょ?」
「中でお話させて頂いていいでしょうか?」
「はぁ?」
「いじめですわ。お宅の子にいじめられたんです。」
「そんな・・・」
やはり、知らんのやな。
「うちの子に限って、そんなこと絶対に・・・」
「うちのつばめの頭をこんな風にしたんですよ。」
「・・・」
絶句してた。

「お宅のお子さんも呼んできてください。」
「それは・・・」
「ちゃんと、自分のやったことがどういうことなのか、本人に教える必要がありますよね。」
「・・・はい。」
奥さんは、お子さんを連れてきた。その子は、怖い目をしていた。反省してないよな。

「いいですか、オレが、この子の頭を、つばめと同じ頭にさせて頂きます。」
その子は、オレの言葉にぎょっとしてた。
「いえ、それだけはご勘弁下さい。」
「じゃ、訴訟を起こさせて頂きます。」
「えっ?」

 オレはこの際、この加害者の子供にわかるように話をしようと思った。
「まだ、子供だから刑事訴訟はできませんが、民事訴訟はできます。つばめに対する加害内容についての民事訴訟です。」

 オレはその子に向かって言った。
「いいか、おまえがやったことは、悪いことだってことはわかるよな。その悪いことについて、法律でどうしなくちゃいけないか決められているんだ。どういう内容になるかというと、つばめの持ち物をやぶったり落書きしたりしたこと、これは器物損壊って言って罪になる。髪の毛を切ったことは、傷害とか暴行という罪だ。こういったことによって、つばめが悲しい思いをしたことに対して、慰謝料というお金も払わないといけない。」
「カイカイ、そうなの?」
「ああ、そうだよ。奥さん、わかりますよね。」
「・・・はい。」
「学校はこういったことをひとまとめにして”いじめ”って言ってるけど、そんな軽いもんじゃない。」
「オレが訴訟を起こして、裁判所が、おまえが悪いと決めたら、おまえは一生悪いことした人ということを言われ続けるんだぞ。」
「許して下さい、娘はそこまで考えてなかったと思います。」
ようやく、その子はことの重大さに気が付いたみたいで、涙を流して誤った。
「ごめんね、つばめちゃん。」

 その後、オレはその子を部屋に返し、母親と話をした。
「ごめんなさいでは終わりませんよ。」
「はい、わかっています。親の責任です。」
「先ほど、お話した通り、ノートや教科書、体操服を破った器物損壊、髪の毛を切るという暴行傷害、親の管理不行き届き、それに慰謝料として、30万円を要求します。ご主人とよく話し合って下さい。」

「ねえ。」
「なんだい?」
「私、よくわからないけど、そんな大変なことなの?」
「ああ、その通りだよ。」
「だって、私が我慢すればいいんじゃないの?」
「自分の心がズタズタになってもかい?」
「・・・」
「だから、あれは犯罪なんだ。もう二度と、起こさないように、しっかり罰があるんだよ。」
「つばめは何も我慢しなくていいんだよ。また、同じようなことがあったら、オレに相談してくれよな。」
「わかった。ありがとう。」

 加害者の親からは、多少の不平不満があったようだが、ちゃんと支払うものは支払ってきた。子供には二度と、いじめをさせないと念書まで頂いた。つばめは髪が伸びるまで、帽子は被ったままだったが、3ヵ月を過ぎた頃、ほどよい長さになったので、カットに行ってようやく似合った髪になった。明るく元気なつばめは、やっぱりかわいいもんだ。

(つづく)

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