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経営者の戦略とマネージャーの軋轢

ちょっと興味深い相談を受けたので、忘れてしまう前に言語化してしまおうと、筆を取ってみた。
どんな相談かというと、「経営者が制作単価を上げろと言ってきたけど、どう思う?」という相談だった。
相談者はとある会社のマネージャーなのだがいろいろヒヤリングしてみると、後継で代表者となった人間の会社によく見られるケーススタディだと感じた次第だ。

生産価格の値上げは悪か?

私の結論から言えば、これは悪ではなく時代と共に正当な報酬となっていれば値上げは悪ではない。と言える。
例えば、スタートアップ一年目の制作会社であれば、制作スタッフも(他社で経験を積んでいたとしても)一年生である。
一年生の熟練度の低いひよっこにかけられる金額は相応のものでなくてはならないので、この場合の費用は大凡低価格に設定されていることが多いだろう。
美容室で、トップスタイリストとアシスタントが髪を切るのでは値段が異なるという仕組みと同じだ。

一方で、この一年生たちが経験を積み、五年が経過した会社であったらどうであろう?
彼らや経験や実績を積み、制作物の品質も多角的に向上していると考えられる。その場合、今までの金額ではなく、今現在の金額としての料金設定が成されるということは、妥当性があると考えられないだろうか?

この考え方はある程度の賛同が得られるかと思うが、今回のケースは少し事情が異なる。
では、私が聞いた内容を細分化して、リストアップしてみよう。

今回の相談を細分化する

  • 経営者がセミナーか何かで見聞きした情報をもとに突然、制作費を上げることを要求してきた

  • そもそも、その会社では「制作費」としてクライアントに提示することを行なっておらず「製作費、あるいは成果物」の中に丸められた見積もりを提示していた。

  • 経営者が提示した制作費用が相場適正なのかがわからない

  • 経営者が提示した制作費用が自社適正であるか疑問である

  • 経営者が提示した制作費用を導入した際に、社内の営業と制作間に軋轢が生じる

経営者がセミナーか何かで見聞きした情報をもとに突然、制作費を上げることを要求してきた

まずは、この問題を語ろう。
この現象は、後継の経営者の中にすこぶる多い「ダメの見本」のようなアクションである。
何がダメなのかというと、見聞きしてきたものの上辺だけでわかったつもりになっていることが問題なのだ。

経営者(とりわけ後継)は「会社の未来をつくることが社長の仕事だ」と宣いありとあらゆるセミナーに顔を出す習性がある。
焚き火に寄り集まる羽虫の習性のように、引き寄せられるように集まるのだ。
彼らはそれを「種まき」と称し、さして生産性のない活動を繰り返す。
この行動がどうして行われるのか? に対して私の中でひとつの仮説が浮かび上がる。それは、後継はまだ何も生み出せていない自分に対し無意識に劣等感を持っているのではないか? という仮説だ。
後継者は前任者が泥まみれになって作り続け、ようやく綺麗に舗装できた道路を歩くことが許されている場合が多い。
これを、多くの人間は羨望の眼差しで見ている訳だが、当の本人は社内で「お飾り社長ではないのか?」「裸の王様になってないか?」といった疑心暗鬼のようなものを、心の中で生成してしまう。
そうして、理論武装をしなくてはならないと、躍起になって経営者セミナーなどに出向するわけだが、経営経験値が低く、コンテンツを生み出した経験もなければ、組織形成をゼロからビルドしたこともない人間がセミナーで得られるのは「へー。そうなんだぁ。」という表層理解賢くなったという気のせいだけだ。
本来であれば自社のビジネススキームと照らし合わせ、セミナーの内容の妥当性や、部分的な導入の検討(ブラッシュアップ)を行い、少しずつ会社の舵を切っていくことが求められるが、彼らは大鉈を振るった気になり、自分は決断をした。と、胸を張るのだ。
結果、お飾り社長は現場をわかっていない無能社長へと社員からは格下げ評価を受け、最終的に会社は変化を起こすことなく、溝だけが深まるという結果を招く。

そもそも、その会社では「制作費」としてクライアントに提示することを行なっておらず「製作費、あるいは成果物」の中に丸められた見積もりを提示していた。

前述に重複するが、根源的な問題がそもそものコレだ。
経営者が自社のビジネスモデルを理解していない
この話を正しく機能させるには

  1. 制作単価を上げたい(新しい経営戦略)

  2. 自社モデルはどうなっているか照らし合わせる(検証)

  3. 自社モデルに制作費が存在しないことを知る(現状把握)

  4. 自社モデルに制作費を実装させる方法論を検討する(戦略実装)

  5. 自社の制作費用単価が実装される(運用)

このステップがない限り、制作単価向上は実現しない。それをわからずマネージャーに「5」を命じる訳だから、そりゃぁ困惑して誰かに相談したい訳だ。

経営者が提示した制作費用が相場なのかがわからない

どこから提示された金額かわからないものを実状と照らし合わせるために、マネージャーはヒヤリングを開始し、私にその金額の妥当性を問う。
この時点で経営者とマネージャーの能力に大きな差がある。
マネージャーは現場を知っているため、2(1は理想起点なのでマネージャーの要点からは外す)を理解しており、すぐさま 3 の現状把握に乗り出したのだ。裏付けがなければ良いも悪いもない。
この時点で、マネージャーの優秀さがわかるだろう。

経営者が提示した制作費用が自社適正であるか疑問である

次にマネージャーが思考実験したのは、自社適正があるか否かだ。
費用の相場との比較検討が完了し、実装するとした場合に、自社の能力が相場と比較して適正であるか? に思考を巡らせる。
業界は自分たちが独占しているわけではなく、競合がいて金額競争に勝てるか? もしくは他社と同一金額であった場合に自社の技術に妥当性があるのか? を検討するわけだ。
セミナーで勉強したマンの経営者と異なり、マーケットにおける自社分析を行うマネージャーとのコントラストに思わず笑いが込み上げそうになるが、中小企業の二代目、三代目が運営している会社の縮図がこれで、中間管理職が頑張って会社を機能させ、下支えを行っている。それでも絶え間なく提示される頓知のような無理難題に立ち向かっていると思うと、悲しい気持ちにもなってくる。
中小企業の管理職は大企業に比べ非常に多くの管理を請け負えるマルチタスクかつ、ジェネラリストである。とするならば、彼らは須く大企業に収まり今の年収の2倍くらいの高給取りになった方が、日本の社会は発展するのではないかと思う。

経営者が提示した制作費用を導入した際に、社内の営業と制作間に軋轢が生じる。

マネージャーが最後に懸念した事案がこれだ。
今まで自分たちの生産性が数値化されてこなかった会社に、数値が実装された場合、制作側が数値という武装の結果、増長し、営業を無能と罵り、日産数値が取れれば仕事の状況に関係なく、定時で帰ってしまうのではないか? という懸念だ。
デスクワーカーと営業職の軋轢はしばしば目撃するし、私自身も経験している。そしてこれがどうして発生してしまうかも自身の経験をもとにある程度分析ができている。
次回はこの経営者とマネージャー。営業と制作。の間の軋轢の原因が何か? について語ろうと思う。
結論から言えば、相互理解の不足になるわけだが、これを解決とまではいかないが、摩擦を最小化する方法論はアイデアとして持っているので、その詳細を語れるように準備しておこう。

相変わらず、思いつくままつらつらと書いてしまうと3000字を超えてしまうので今日はこの辺で。

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