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51%の理論

初めて野球部の顧問をしたときのことです。
夏の大会が終わった後に、保護者が感謝の飲み会を設定してくださいました。

最後の大会のことを振り返りながら、そこそこ盛り上がった会となりました。

二次会にも行きました。
保護者は数名だったと思います。
そこで、エースピッチャーのお父さんに尋ねられました。
その人はどちらかと言うと無口な人で、一次会ではほとんど会話はありませんでした。

「この一年、どうでしたか」

「無我夢中でした。ただ、私にもっと子どもたちから信頼される顧問であれば、もっと勝てたと思います。」
私は正直な気持ちを、お父さんに話しました。
実際、若さに任せて無茶もやりましたし、練習中に生徒との間に険悪なムードが流れたことも何度かありました。

「生徒の気持ちがつかみきれなかった部分はあると思ってます」
私は、そう付け加えました。

すると、そのお父さんがこんな話をしてくださいました。

「集団を統率するには、集団のメンバーに信頼されることは大切です。
でも、すべての人から信頼を得るのは、ほぼ無理です。
51%がしっかりとこっちを向いてくれていたらいいんですよ。
あとの49%のうち、44%はあまり深く考えていません。
だから、何らかの不満をもっているのは5%いるかいないかです。
半分をちょっと超えるくらいの51%がしっかりこっちを見ていてくれたら、もう上出来なんです。
それを全員に信頼されようなんて考えるから、視線が5%の方ばかりに向いてしまって、逆に不信感が広がってしまうんですよ。
まあ、企業の論理かもしれませんが」

なるほどと思いました。

それから退職するまでの30年余り、ずっとこの言葉は頭の隅にありました。


5%と言えば、40人学級なら2人です。
その2人は、前の年に問題行動が多かったとか、
普段何かにつけ教師に反抗的な態度をとることが多い子です。
私たちは、その2人が気になって、
授業中でも、ついつい「今、どんな表情をしているのだろう」と
何度も視線を送って確認ししまいます。

その視線は、その子たちを大切に思う教師の善意なのですが、
さしたる理由もなく何度も見られるその子は、
「先生は、いつも自分を変な目で見ている」と、
真逆に受け取ってしまいます。
気にはなっても、他の子と同じように接しなければいけないわけです。

と、偉そうなことを書いてきましたが、
私が本当に5%の子に自然に接することができるようになるまで、
10年くらいはかかったでしょうか。

簡単なようで難しいですよね。


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