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単〈ひとえ〉

今日は数年ぶりのお茶のお稽古。

美しい新緑の中を、公民館へと車を走らせる。

かつて着付けの先生が、

お着物なら若い娘に勝てる。

とおっしゃったことがあった。

その時は、

勝たないといけないのかしら?

と、違和感があったが、今はその意味がわかるような気がする。
お着物を着ていると、艶やかな気持になってきたのだ。
きっとそれが『女』を美しく保つ秘訣のような気がして、勝てるかどうかは別として、いつまでも美しくありたい。とは思った。

着物を着る機会がほしくて、市の広報で見つけた公民館での初心者向けの茶道教室に応募したのだが、かつて習ったことがあるだけに、不安もあった。

自分から手を挙げるのはやめなさい。
ほかにやりたい人がいるかもしれない。
勧められたら、
『はい』
と、おっしゃるとおりになさい。

かつて、お茶の先生に教わったことだ。
お点前が好きで、練習を厭わなかった私は、やはり機会があるごとにやりたいと思った。

やりたいのなら、自分から手をあげないと!
どうしてそれをしない人に譲らないといけないのだろう。

傲慢だったのだろう。
納得できなくて、自分から手をあげた。
自信もあったし、それに見合う練習だってしたが、そうできない人の気持ちに、配慮はできなかった。

お茶は一人ではできない。
結局、いろいろなことに行き詰まって、やめてしまった。
苦い思い出だ。

もうお茶はしないつもりでいた。
そう、ただお着物を着て出かけるだけ
そう思っていたはずなのに、新緑の中で車を走らせているうちに、それが期待とワクワクに変わってきた。

やっぱり根は好きなんだな

そう思う。

雨上がりの今日は暑くなりそうで、単のお着物を選んだ。白い帯も洗える。
帯揚げと帯締めは母のもので、この組み合わせが、どんなお着物にも合わせやすくて、重宝していた。
若かりし頃、踊りを習っていて、お着物が好きだった母らしい。

きっと大丈夫!

先生が教えてくださったことを胸に、また初心者から始めよう。

そう心に決めて、ゆっくりと車を降りた。



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