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【音楽コラム】こんなはずじゃなかったアルバム5選【世界観?】

音楽って、素晴らしいものですよね。
(金曜ロードショー風)

たくさんの素晴らしいアーティストたちが、幾多の名作を残してくれているわけですが、
たまに「?」と首をかしげたくなる作品に巡り合うこともあります。
大ファンだからこそ、長い間新作を待ちわびていたからこそ…
「期待外れ」という現象が起こってしまうものです。

(以下、ことごとく私見になります)

部分的にはやっぱり良い。
にもかかわらず、全体を通してみると、「んん?」と感じてしまう。

キーワードは「仰々しさ」かもしれません。
「仰々しい」=思い入れが強すぎる。何だか虚勢を張った感じになる。

もう一つの共通項は、「成功作のあとが多い」ということです。
予期せぬほどの大成功を経て、アーティスト自身が自分の本当によかったところ、受け入れられたところを見失い、
別の方面に力を入れすぎてしまった(あえて?)ということもあるかもしれません。

いずれにせよ、そんな愛すべき怪作たちをピックアップしてみました。
(有料部分は、こちらのマガジンからもお読みいただけます👇)

それではどうぞ!


①『Be Here Now』 Oasis

ブリットポップ・ムーブメントを、ひいては90年代のイギリス音楽界を代表する名作『(What's The Story of) Morning Grory?』。
アルバムの出来のみならず、この時期のオアシスはシングルのカップリングにも恐ろしいほどの名曲を収録しまくり、それらはのちに『The Masterplan』というコンピレーションにまとめられて、オアシスのカタログの中でも屈指の名作になりました。

そんなマスターピースのあととなれば、期待されるのは当然です。
しかしながら、この3rd『Be Here Now』 は、当時の全世界の音楽ファンに、何とも言えない微妙な表情を浮かべさせた作品になりました。

なぜ微妙なのか。
決して全部が悪いわけではない。ノエル十八番の、高貴なまでのメロディーも随所にある。
しかし、聴いていると何だか疲れてくる。もう3曲目くらいでモッタリして、お腹いっぱいというか、むしろうんざりしてくる。
その理由は簡単に言えば、
●一曲が長すぎる
●アレンジがくどすぎる
という二点に尽きます。

1曲目の先行シングル「D'you Know What I Mean?」からして8分くらいあり、そのあとの2曲目、3曲目も決して短くまとめてはくれません。
それがほとんど最後まで続き、結局はCDの収録時間いっぱいまで詰め込んでしまいます。
(これも怪作あるあるの一つです)

オアシスは、決して技巧的なバンドではありません。
それが曲をめちゃ長くするということは、どうしても同じようなコードのまま引き伸ばしとなり、
アレンジに凝るということは、単純なギターストロークを壁のように厚塗りする、ということになります。
その結果、一番の武器であるメロディーの魅力を掻き消し、ただひたすら気疲れするような作品になってしまいました。

先述の「D'you Know What I Mean?」が、実は大ヒット曲「Wonderwall」と全く同じコード進行だとか、
ノエルが「俺のギターソロは全曲同じ。違うことは一つもしてない」と言い放つなど、なんだかげんなりする逸話もぽつぽつ出てきて、一気に「オアシス離れ」が進んだ印象もあります。

数百万枚というメガセールスを記録し、メディアも最初は絶賛の嵐でしたが、実際のファンからは疑問の声が噴出し、最後にはメンバー自身もこのアルバムに対して反省の弁を口にするまでになりました。

このあと、オアシスはマンチェスターの幼馴染みたいなメンバーを切り、他バンドの中心だったメンバーを入れて生まれ変わりを図ります。
稀代のソングライター・ノエル以外の作品も収録し、音楽的な幅を広げようと悪戦苦闘を重ねてゆきます。
しかし、それが完全に成功したとは言えないまま、決定的な兄弟喧嘩により空中分解を迎えてしまいました。
その時、世界中の音楽ファンは、「ああーあれはコントじゃなかったんだ」と妙に安心したりしたものでした。

②『Adore』 The Smashing Pampkins

1995 年のイギリスの名作が、上記の『(What's The Story of) Morning Grory?』だとすれば、アメリカの名作は間違いなく、スマパンの『メロンコリーそして終わりのない悲しみ』でした。

グランジムーブメントの鬼子として出発し、ニルヴァーナやパール・ジャムに対してひねくれ倒しながら、「子供時代の喪失」というキーワードから幾多の名曲を生み出してきたスマパン。

二枚組の大作にも関わらず、最終的に六百万セットを売り切り、グラミー賞も獲得。セールス面でも音楽的評価でも最高峰を突き詰めました。
ちなみに私にとっても非常に思い入れのある作品で、人生最高の名作としては迷いなくこの『メロンコリーそして終わりのない悲しみ』を挙げます。

(これまた余談ですが、シングルのカップリングにもったいなくらいの名曲を収録しまくり、のちにコンピレーションにまとめたという点では、やはりオアシスとも共通しています。才能のピークというかタイミングというものは、実際あるんでしょうね…)

さて、この『Adore』は、その名作の次に出た作品になります。
となるとだいたいどうだったかわかりそうなもんですが、やっぱりこの『Adore』も、ファンに微妙な愛想笑いを浮かべさせるような作品になりました。

まず、ドラッグ問題によるドラムスの一時脱退によってバンドの背骨がなくなり、その結果打ち込み中心のサウンドに変化した、ということがあります。
これはR.E.M.の『UP』でも起こったことですが、そういう時にバンドはやけに内向的で、趣味的な世界観を思いきり追求してしまう傾向があるようです。
その結果、子どもの夢のようなファンタジックな作風から、凍りつくモノクロゴシックな世界観に大転換しました。
ビリー・コーガンは、泣き叫ぶ大柄なアダルトチルドレンから、スキンヘッドの悪魔伯爵へ大胆なクラスチェンジ。

楽曲がまたゴステクノ調でおどろおどろしく、(やっぱり)7分以上の長尺がごろごろあり、それがみっちりトータル70分以上続きます。
その中で何曲か、『メロンコリー』の二枚目やシングル『Tonight, tonight』のカップリングを思わせるアコースティックな小品もあり、それらだけつなぎ合わせて聴いたら、地味だけど静かでなかなかいい作品になります。

当然のことながらこのアルバムは、前作ほどの評価もセールスも得られませんでした。
その後、ドラムスの復帰とバンドサウンド回帰、アイドル的存在だった「弾けないベーシスト」ダーシーの脱退、実質的な解散とリユニオンを経て、今も粘り強く活動を続けています。
が、『Adore』発表時に解けてしまった魔法はもう二度と戻ることなく、自己模倣の部屋で数十年間を過ごし続けているようにも見えます。

➂『Around The Sun』 R.E.M.

メガ・インディー・バンドのR.E.M.とその転換作『UP』については、👇で語っていますのでよろしければご覧ください。

さて、90年代の音楽界をしれっと支配した彼らですが、不動のラインナップからドラムスのビル・ベリーが引退によって抜けると、バンドは「緩慢な死」への道をたどり始めます。

それでも『UP』『Reveal』といった力作を発表し、シーンの最前線にとどまり続けたのは、その才能と音楽的野心のなせるわざでしょう。
しかしその過程で、あまりにもへんてこりんなアルバムを出した瞬間がありました。
それがこの『Around The Sun』です。

へんてこりんさで言えば、『UP』の方が、(変な言い方ですが)よっぽどわかりやすく「わかりにくい表現」をしてくれていました。
歌詞の難解な言葉選びにせよ、ドリーミーな音響にせよ、奇妙な楽曲展開にせよ、「ああーいっぷう変わった表現をしたいんだなー」という意味で非常なわかりやすさがありました。
ところがこの『Around The Sun』の変さは、ちょっと一筋縄ではいきません。
一見シンプルで前向きな表現をしているようでありながら、妙な気持ち悪さ、違和感、寒々しさみたいなものが、全編ずうっと続いていきます。
わかりやすく「悪夢の絵だよ」みたいな『UP』に対して、日常の延長にいきなりサイコパスが現れたような感覚。
ちょっと変わった人、くらいに思っていた知人が、実は想像よりもはるかにアブない妄想を抱いていた、と気がついた瞬間のような怖さ。

一体なぜ、こんなことになってしまったんでしょう?

一つ考えられるのは、メンバーが「本当はR.E.M.に飽きていた」という可能性です。
このあと彼らは二枚のアルバムを出して解散するのですが、そちらではこの『Around The Sun』ほどの倦怠感はなく、シャッキリと「らしい仕事」をしています。
ただこの瞬間だけ、ふと気がゆるみ、表現と職業のはざまのエアポケットに落ちて、彼ら本来のメンタル状態が表れてしまったのではないかと。

以上は自分の感想なのですが、人によっては全然そんな風に思わず、「ただちょっとしょぼいだけの普通のアルバム」に映るかもしれません。

しかしずっと彼らを聴いてきた私としては、投げやりな歌い方とか尻切れトンボな曲展開、そのくせ完全に生真面目なところに、わざとやったわけではないズレ、神経症的な怖さを感じさせられてしまうのです。

以上、現場からでしたたたたたた
(↑こんな感じ)

④『Relapse』 Eminem

2000年代後半のエミネムは、元妻キムや母親デビーとの裁判、幾多のビーフによって疲弊し、完全にドラッグ漬けになっていました。
もちろん、スリム・シェイディは初めからジャンキーであり、メジャー1st『Slim Shady L.P.』収録の「My Fault」では、オーヴァードーズで女友達を死なせてしまっています。
また、メガヒット・アルバム『The Marshall Mathers L.P.』のアウトテイク、「The Kids」では、小学校に登場した「スリム・シェイディ先生」が、ドラッグの危険性を子どもたちに諭して、ブーイングやおならを浴びせられるという愉快な(?)展開になっています。


ただ、もはやそんな寓話やシャレで済む話ではなく、本当にオーヴァードーズで病院に搬送され、生死の境をさまよい、娘のヘイリーや姪のアレイナを悲しませてしまう、という状況すら彼は経験します。
そのようなドラッグ地獄のただ中から届けられたのが、この『Relapse』でした。

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