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紳士は他人とべたべたしない、暗黒騎士ガイアナ、スポンジボブと下痢高圧線、

四月四日

祈りというものは、もともと自分ではものを考えられない人びと、そして魂の高揚を知らないか、それとも気づかずやり過ごしてしまうような人びとのために考案された。

F・ニーチェ『喜ばしき知恵』第三書(村井則夫・訳 河出書房新社)

午後十二時十二分。ガレット・ブルトンヌ、コーヒー。パソコンを開くのが正午を過ぎてしまう。できれば午前中の内にこれを書き始めないといけない。誰の「人生」にも寄与しないこの糞日記を。また昼夜逆転するのは嫌だな。花粉症の飛散する時期はできれば図書館には行きたくない。図書館だと鼻をかみにくい。鼻をすするにも遠慮してしまう。俺自身が他人の体からでる音に敏感で、「公の場」で咳とかくしゃみとかをしまくる人間を内心で罵倒&処刑している人間だから。四月下旬まで自室で研究や執筆に没頭しよう。隣の金借り爺さんはこのごろ日中は不在だ。そうそれでいいんだ。年寄りが部屋でテレビばかり見てるなんて「不健全」だ。年寄りは外でトンボでも追いかけてろ。ちかごろテレビをバカ製造機とか呼びたがるバカが増えている。大宅壮一の時代からの伝統だね。そういえばあの爺さん、このまえ指にスカルリング着けてたけど頭大丈夫かな。「メメント・モリ」ってか? それともがちでお洒落のつもり? 早晩お迎えが来るお前がそれ着けるとなまなまし過ぎるわ。まじかんべん。ウルトラQのオープニング音楽がさっきから頭を離れない。マスター、牛丼。あと胡麻プリン。

ロバート・ダーントン『猫の大虐殺』(海保真夫/鷲見洋一・訳 岩波書店)を読む。
楽しい本だった。心性史の教科書のような本、という評をどこかで読んだけど、まったく同感。著者は主として、十八世紀フランスの人々の「思考様式」や「世界観」を描き出すことに注力している。

本書全体を貫くのは、<読み取ろう>とする姿勢である。というのは、民話や哲学書を読むのと同様、儀式や都市もやはり読解の対象だからである。解説の方法はさまざまかもしれないが、いずれの場合も意味を読み取ることに変りはない。すなわち、同時代人の世界観を伝える記録のなかに、そこに内包されている意味を探るのである。

序文

「昔の出来事」などを現代の尺度で測ることを「時代錯誤(アナクロ二ズム)」という。歴史研究においてはアナクロニズムをおかすことほど簡単なことはない。
本書の第一章「農民は民話をとおして告げ口する」では、十八世紀のフランス農民の「精神世界(マンタリテ)」が、民話の読解を通してヴィヴィッドに論じられている。

暖を取るために家族全員がひとつかふたつのベッドにもぐりこみ、家畜がその周囲を取り巻いていた。したがって、子供が両親の性行為を見聞していたのはもちろんである。だれも子供を無垢で純真な存在とは考えていなかった。

子供は無垢で純真、なんて考えている人はいまの日本でもそう多くないと思うけどね。フロイトのせいか? 十八世紀といえば世界年表的には「啓蒙の時代」とされているが、当時の農民の暮らしは押しなべて悲惨。もっともどんな時代でも大なり小なり人は「悲惨」な境遇にあるのだろうけど。「いま我々が生きている時代」だって「他の時代の人々」から見れば悲惨かもしれない。たとえば「ある未来」から見れば、空間移動のために足を使ったり、生きるために労働力を売ったりしている人々がこれだけいるのは、とても異様なことかもしれない。

本のタイトルになっている「猫の大虐殺」は、第二章「労働者の叛乱」で扱われている。ここでは、二コラ・コンタという労働者の体験記をもとに、ある印刷工場で起こった「猫虐殺事件」が読み解かれている。当時のフランスの労働者はまじで狂暴だ。それは「下層民」全体に言えることだったのだろう。今では「動物虐待」と呼ばれていることも平気でやる。当時の労働者は概して過酷な労働を強いられていた。労働時間も長かった。むかついていた。彼らが「ブルジョア」と呼んでいる親方のあいだでは猫愛好熱が盛んで、だからそうした猫たちの虐殺は、彼らの「不満爆発」の表現でもあった。

労働者たちが猫の大虐殺に大笑いしたのは、この事件がブルジョアにさかねじをくわせる絶好の機会を提供してくれたからだと考えてよいだろう。彼らは猫の鳴き声を真似てブルジョアを悩まし、猫狩りの命令を出させた。次いで、猫の虐殺を利用し象徴的に彼を裁判にかけた。その罪状は不当な工場経営である。労働者たちはまた、この虐殺を魔女狩りにも活用した。すなわち、魔女狩りを口実に細君の手先の猫を殺害し、彼女自身を魔女だと仄めかしたのである。最後に、彼らは虐殺事件を嫌がらせの儀式[シャリヴァリ]に発展させた。

[ルビ]

この章を読みながら、「労働者はおとなしくなったものだ」となんど感じたことか。書きたいことはまだまだあるんだけどもう目が疲れてきたのでもう書くのをやめる。サイード『オリエンタリズム』、アリエス『<子供>の誕生』、ジョン・ダワー『人種偏見』の三冊はしっかり読んでおかねばならないと思った。くりくりくり。

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