「チームに迷惑をかけたので」
十一月三日
午前十一時五五分起床。アールグレイ、チョコ入りの柿ピー。きょうは「文化の日」らしい。図書館前に移転してきた金沢美大の学園祭が今日からある。うるさいのは嫌だな。オイラお祭りのたぐいは苦手なんだ。人々が盛りあがっているのをみるとつい考え込んでしまう。人はいずれ死ぬのに、宇宙はきょうもこんなに安定して残酷なのに、なに騒いでんだこのアホども、みたいな。抑鬱人間特有の思考様式。「休読日」のきのう、また文圃閣へ行ってきた。途次、ステキな男子高校生の群れを何度もみかける。最近の若い子はたくましいわ。いい匂いしそう。抱かれたい。買ったのは、『千字文』、『職工事情(中)』、辻善之助『田沼時代』、井上幸治『ブルジョアの世紀』、森銑三『近世人物夜話』、高橋正衛『昭和の軍閥』、岡田英弘『チンギス・ハーン』、フィリップ・アリエス『<子供>の誕生』、カート・ヴォネガット・ジュニア『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』の九冊。締めて一二一〇円。帰宅後、阪神オリックス戦。あいかわらずの貧打線。大竹がソロを一発食らったあたりでゲンキーへ買い物。納豆と絹漉豆腐と鶏皮。戻ってきたら0対2になっている。三〇分散歩。戻ってきたら6対2になっていた。森下翔太の逆転タイムリー。彼、「エラーでチームに迷惑をかけたので」みたいなことをヒーローインタビューで言ってたけど、そういうのいらないから。ロバート・ホワイティングがむかし『菊とバット』で指摘してたやつじゃんそれ。日本の野球選手はいつもチームやファンに謝ってるってやつ。この国の人々は、「みんなに迷惑をかけている」という自覚の薄い人間にやたら厳しい。イラク人質事件のさいに吹き出す批判もそのことと無関係じゃない。もうここまで来たら三八年ぶりの日本一になってしまえよ。あさっては山本だから至難に違いないだろうけど。それにしてもさっきからドン、ゴンうるさい。ドンゴンはチャン・ドンゴンだけにしてくれ。ちなみに俺はかつて『ブラザーフッド』のウォンビンに惚れました。ああこの他人の生活音で不機嫌になる体質をマジでなんとかしたい。周囲の無神経人間どもを寛容できない。迫害されている気になる。これは俺が著述において「被害者意識のインフレ」と呼んでいるものだ。けっきょく脳エネルギーを消耗するだけだから誰にも「殺意」など抱きたくないのに。「怒り」は「コスパ」が悪いんだ。ほとんど何も残らない。だから真に賢い人は怒らない。「合理的な怒り」というものがもしあるとすればそれはきっと恐怖支配もしくは「しつけ」が必要な場合だろう。いま部屋の臭いもやや気になっている。気にしているということを気にしてしまう。「強迫さん」がまだ鎌首をもたげ始めたぞ。やばい。超音波アロマディフューザー起動。
原田隆之『あなたもきっと依存症 「快と不安」の病』(文藝春秋)を読む。
いや勉強になった。「依存症」にまつわる誤解は実に多いらしく、evidence-basedにものを考えることがいかに難しいかを実感させられる。「カジノが出来るとギャンブル依存症患者が増える」なんていう危惧含みの議論が巷にはあるけれど、日本はもうすでにギャンブル大国だからな。
俺はタバコを吸わない。酒もいまは飲まない。パチンコも、オンラインゲームもしない。もちろん薬物とは無縁。ただ「糖質依存」は相当あるかも知れない(あと「カフェイン依存」)。ご飯を三合食う日もあるし、冬などは甘い菓子もよく食う。程度の差こそあれ人は誰もが「依存症」体質なのだ。目先の快感を求めることで「生の不安」をごまかしたがる。隣の独居爺さんも不安なんだ。さびしいんだ。「社会的孤立」は酒やタバコよりもずっと体に悪い。いざというときに誰も相談する人がいない、というのは実際かなりヤバい状態だ。たまに会って愚痴を言い合うような関係さえ持たない人間はたぶん、まともに生き延びることはできない。社会的孤立において物質依存体質はますます強化される。人間関係の欠如をニコチンやアルコールやギャンブルで埋めようとする(そんなのは船底の水漏れをセロハンテープで塞ごうとするようなものなのだけど)。孤独な人間の末路は「仙人」かそうでなければ「怪物」、というのが僕の持論。居場所は「人間的生」の必要条件なのだ。物質依存の強い人間がまず求めるべきは「弱音を遺憾なく言い合える」そんな場所なのよ。「男性学」の教えるところによると、男性はほかの誰にも物質的・心理的に依存しないことを「強さ」だと勘違いする傾向が強い。「弱み」を見せるのがほんっとヘタなんだ。見ててイライラするくらい。だから心に隙間風が吹きまくっていても「さびしい」なんて言えないのね。男特有の「鈍感さ」はこうして日々強化される。こんな男たちの居場所をいかに作っていくか、ということも私のライフワークのひとつ。
もう飯食うわ。三時半には入れるか。オッケーグーグル、松井秀喜の身長おしえて。
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