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ナスビのゴシップ、金太負けが多い、リットン調査団爆殺事件、私のシオラン愛、アザミ嬢のララバイ、桜独唱、ぽこちん協奏曲、けだものたちの狂宴、ウィアー座ワールド、

四月七日

母親は娘のママゴトの見本として必要不可欠だ。物真似は学習の基本だから。ゆきの場合、新参の母親から目に見えぬ悪意を感じていたので、ママゴトには皮肉のスパイスが加えられた。ゆきは常識的な母親のいいそうなことばかりいう似非ノラの向うを張って、非常識な要求ばかりする母親の演技をした。ゆきはわらの内臓が露出した男なのか女なのか不明の子供に、
「親の言うことを聞くとろくな人間になれませんよ」とか、
「気に入らない人がいたら殺しちゃっていいんですよ」とか、
「大きくなったら、お母さんと結婚しましょうね」などと囁いた。

島田雅彦『天国が降ってくる』(講談社)

午後十二時三八分。こーひい、せんべい。いつもより余計にねむい。午前十一時五十分くらいにはパソコンを開かないと。きょうは図書館に行くつもりはなかったのだけど行ったほうがいいかもしれない。病み上がりはどうしても自分に甘くなる。もっとも病み上がりでなくても自分に甘いのだけど。俺の知る限りでは自分に甘くない人間はぜんいんクズだから。天気が良いから二三時間は歩かないといけないような日だ。被曝の危険がなければな。あまりにねむいので濃い目の緑茶飲むわ。文章を書くコンディションじゃない。ただいま訪問者あり。十分ほど雑談。きのうはシオランの日だった。一か月に一度くらいはシオラン以外読めなくなる日がある。『カイエ』(金井裕・訳 法政大学出版局)からノートに書き抜いたものを並べる。

私が何よりも好きなのは、没個性的な嘆き、名前をもたぬ苦しみだ。

原文傍点→太字

青春のさなかに自殺する勇気のなかった者は、生涯そのことで自分を責めるだろう。

確信というのは、いずれも事物の検討の不徹底から生まれたもので、硬直した見方にすぎない。

原文傍点→太字

生活費を稼ぐには、他人に関心をもたなければならない。

原文傍点→太字

いま始まろうとする人生、これほどにも痛ましいものを私は知らない。結婚をはじめ、ありとあらゆるデビューというものを私が嫌うのはこのためだ。どんなケースを前にしても、私に考えられるのは、多大の約束と幻想の最後を飾ることになる幻滅だけだ。

原文傍点→太字

外にいても自宅にいても、もっとも頻繁に思い浮かぶ言葉は、欺瞞という言葉だ。私の全<哲学>は、この言葉ひとつに要約される。

もし自分がどれほど取るに足りないものであるかを知っていたら、私は自殺するだろう。これは確かだ。

原文傍点→太字

文学、哲学、宗教、いずれも人間を重要視しすぎる。

原文傍点→太字

人間のくずとのつき合いには、何かしら実り豊かなものがいつもある。人間そのものの未来を見届ける絶好の機会だ!

自殺できるのに自殺しないのは、自分の権力を利用しようとしない専制君主であるようなものだ。

夭折しなかった者はだれにしても死に値する

原文傍点→太字

私には宗教的求道の使命はない。ただこの世で苦しむためだけの人間だ。

原文傍点→太字

シオランを読むたび、そのこれ見よがしの絶望のなかに役者を見てしまう。饒舌な人間の絶望などたかが知れているからだ。にもかかわらず俺は彼に親愛の情を抱かざるを得ない。とくに彼の滑稽さに対して。「ただこの世で苦しむためだけの人間」という自覚はねんねん強くなっている。「生きる意味」なんてのは頭の弱い酔っ払いにしかふさわしくない言葉だ。
そういえばきのうの読売新聞に喜劇的な記事があったよ。一部をそのまま引く。

北海道三笠市の市役所庁舎で5日、爆発物とみられるものが地元の男性から持ち込まれ、住民や職員ら約120人が避難する騒ぎがあった。市役所は約2時間にわたって封鎖され、陸上自衛隊が調べた結果、旧日本軍の火薬の入っていない砲弾と判明し、回収した。けが人はいなかった。
道警岩見沢署や市によると、5日午前11時頃、市内の実家で荷物を整理していた男性が「鉄の塊が見つかったが、どう処分したらいいか」と市役所へこの砲弾を持ち込んだ。

読売新聞(日刊)4月6日

「常識的」に考えたら、「そんなものをいきなり市役所なんかに持ち込むのはおかしい」と言える。「まずは警察かどこかに電話しろよ」と言える。でも当人は「ただの鉄の塊」だと思っていたわけだからな。下手したら罪に問われかねなかったんじゃないの。なんか知らんけどヘンリー・ローソンの「爆弾犬」を読みたくなってきた。もうそろそろ卵かけ御飯くうか。むかしむかしあるところでおじいさんとおばあさんがせっくすをしていました。おじいさんはごむをつけていたのでももたろうはうまれませんでした。もっともごむをつけていなくてもももたろうはうまれなかったでしょう。めめんともり。なむあみダブツ。

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