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学会遠征編ショート版 第31話

汚い川

 上の階から出ると、謎のオブジェが外にあったので記念撮影をしておいた。CRAZYは向こうだと言って歩道橋を渡ろうとしていたが、最短で買えるなら渡らない方がいい。とはいえ行きに通らなかった側の道なので面白そうだと思い、そちらを歩くことにした。確かに、道路から見て左側を歩いていると路上のタクシーに乗らないか?としつこく付きまとわれるので右側を歩くのは手かもしれない。またもや謎の寺院を見つけた。ここはここで名所の一つらしい。結局もっと歩いた先の歩道橋で横断しなおすことになったのだが、その歩道橋から手が届くぐらいの距離に、電線や通信線などが何十本と通っていた。ゴムで被覆しているとはいえ、いくら何でも危なすぎではないだろうか。それに線が多すぎる。何が何の線なのか業者はしっかり理解しているのだろうか。まるでデスクトップの並ぶ会社の事務所のコンセント回りのように線が混雑していた。これ以上この電線達を観察していると触りたくなってしまうと考え、もう見ないことにした。渡った先のセブンイレブンで飲み物を買い、ホテルへと向かった。また川を渡る必要があるのだが、今度はせっかくなので船に乗ることにした。CRAZYのホテルは川を渡らずに行けるが、明日の発表会場を下見したいそうなので途中までは同行することになった。相当お金がかかるのかなと覚悟はしていたが、向こう岸にわたるだけならたったの5バーツでいいということだった。船に乗っていろんなところをめぐるものもあるようだが、今回我々に用があるのは向こう側だ。ちょうど向かい側からの船が到着したところだったのでそんなに待たないだろうなと思っていたが、けっこう待たされた。時刻表など最初からあてにしていないので良かったが、急ぎなら最初から橋を歩くかタクシーに乗った方がいいのかもしれない。ちなみに、船の大きさはそこそこあるが、川そのものが大きいので無理もないだろう。CRAZYにこれはshipかboatか聞いたら、boatだと答えた。確かに、フェリーや輸送船のような規模ではない。遠くから船を見ればゆっくり動いているように思えたが、いざ乗ってみるとそれなりにスピードは出ていた。他の船もそれぞれ独自のペースで川を泳いでいる。汚い川とはいえ景色は新鮮で気持ちの良い船旅だ。四国の鉄道よりも揺れが少ない。雨のあまり降らない時期で本当に良かったと思うばかりだ。
 船から降りて少し歩いたところに、またもやあの路上ライブ夫婦がいた。日夜ずっと歌い続けているということだろうか。相変わらず子どもは興味なさそうにスイッチに夢中になっていた。帰り道は数時間前に通ったところと同じで、路上の物売りがいたところだ。改めて見回しても、やはり屋台が多い。CRAZYはこれまで散々お金が無いだとか忙しいから服を買わないだとか騒いでいたが、暑いのでTシャツが欲しいと屋台周りを練り歩いていた。僕もサングラスや帽子が安く売っていたら買ってもいいかなと途中までは同行していたが、CRAZYがあまりにも自分勝手に動き回るので途中から見放して単独行動することにした。どうせここで買っても家で荷物が増えるだけだなとこの時点で賢者モードになってしまったので、服は買わなかった。短パンに関しては、帰国後も新しい運動着として使えるのでこれは無駄な買い物ではない。道中おいしそうな焼き鳥の屋台があったので、買うことにした。いくらなのか店員に英語で聞いても英語では答えてくれず困っていたら、20バーツ札を取り出してこれだと示していたので、20バーツを出してみたら1本買うことができた。若鳥の照り焼きのような見た目でとてもおいしかったが、少し骨のような固い部分もあった。本当に1羽丸焼きにしているということなのだろう。多少骨っぽい点を除けばほぼタレ味の焼き鳥だったが、何の鳥なのだろうか。英語で聞いてもわからないのでその場から離れてただひたすらに食べ歩きを楽しむだけにしたが、スズメとかだったりするのだろうか。なんでもいいが、そろそろCRAZYの心配でもしようか。もう僕は道路を横断した後だったが、奴はまだ向こう側にいた。彼のやりたかったことはできたのかはわからないが、こちら側に走ってきた。合流はしたものの、今日のところはCRAZYとお別れだ。彼には早いところ発表資料を完成させてほしい。明日の発表は午後からなので、その午前中にも一応時間はとれるが、あまりその時間の仕事量を当てにするのは良くないのだろう。

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