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短編小説集

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僕が作った短編小説をまとめたマガジンです。
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記事一覧

【小説】真っ赤なマニュキア

 窓から朝日が溢れる中に揺れる埃のように、僕は満員電車の中で揺れていた。昨日の夜は良く眠…

【小説】僕の炎

 月が最も天高く上がる時間には、外には誰もいない。街では信号機の点滅の他に動くものはない…

【小説】命を燃やす我が子

 また手から命が溢れていく。命が溢れていく音がする。決して知らなかったわけではないが、命…

【小説】帰れない大人

 「次は、新宿。お出口は右側です。」  車内アナウンスは、イヤホン越しに微かに聞こえる。…

【小説】白になりたい

 朝目を覚ました時、視界に白い天井しか見えないと、自分が誰だったのか思い出せない。それは…

【短編小説】鳥籠の煙管

 ひとりの遊女が柵越しに男を見つめていた。彼の息遣いが聞こえるほど近く、微かな目の動きさ…

【短編小説】少女が雨に祈ったもの

 あの娘の煌びく眼差しと色艶やかで麗しい唇は、まるでテスを見つめているようだった。彼女の処女を惜しみ、その日差しも、草の匂いが漂う影も愛した。これ以上底がないほどまで彼女の胸に沈んで、彼女は寂しさと安心と共に僕の手を離さない彼女の手は、僕の汗を吸い込んでいった。初めに僕が彼女の手を握ったとき、倦怠のオルゴールが僕の頭の中に響いて、情念など消え失せ、笑っていた。彼女はまた情念に憑りつかれ、彼女の世界のものはすべて重々しく、孤独で、笑いなどなく、嘆息を熱い空気に漏らしていた。僕ら