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築150年の古民家が映し出す、8mmフィルムの世界

長野県松本市。
このまちの一角に、築約150年の古民家「松本深呼吸」はどっしりと構えています。先月下旬、私はこの「松本深呼吸」にて行われた、地域映画『まつもと日和』の上映会に参加してきました!

『まつもと日和』など地域映画を上映する「8mm映写室」。座談会や素敵なケータリングも!

映画『まつもと日和』は、昭和の松本を映した8mmフィルムを市民から集め、地域の人々とともに制作された映画。そしてこの映画をつくる有志の集まりが、私もご縁があって参加している「まつもとフィルムコモンズ」です。

この映画やコモンズについての魅力はご紹介はまた別の機会に語るとして、今回はまた別の話題です!

今回、上映会の会場であった「松本深呼吸」。
このお家には隣接する土蔵があるのですが、実はここが『まつもと日和』の監督である三好大輔さんの作業部屋となっているんです。
(土蔵は正確には明治4年、つまり153年前に建てられたそうです!)

今回は、この土蔵のなかを三好監督ご本人に案内していただきました。
みんなでフィルムにまつわる機材を触ってみたり、あれこれおしゃべりをしてみたり。そんな寄り道の多い、一風変わったルームツアーの様子をお届けします。


三好監督の作業部屋

土蔵のなかに一歩足を踏み入れると、秘密基地のような雰囲気に胸が高鳴ります。壁や足元にも積みあがっている、たくさんのカメラにビュアーにフィルム、山積みになった黒いケースの数々...

後ろの棚には集まったフィルムがみっちり。

150年以上の月日が刻まれた部屋に、これまた年季の入った機材がひしめき合い、時間が何重にも積み重なっているような不思議な空間が生まれています。

機材の多くは、監督があちこちから集めてきたものだそうです。それぞれにどんな物語があるのか、想像が膨らみますね。

(余談ですが、亡くなった私の祖父の部屋が、本がひしめいていてちょうどこんな雰囲気だったことを思い出しました。たとえ整然としていなくても、住んでいる人のこだわりが詰まった部屋というものは、それだけで魅力的です。)



映写機を見せてもらおう

この部屋にあるたくさんの機械のなかでも、ひときわ目をひくのは8mmフィルムを映し出す映写機です。今回は実際にフィルムを映しだし、それをデジタル化する様子を少しだけ見せて頂きました!

監督がスイッチを入れてフィルムがまわり始めると、カタカタと心地いい音とともに、棚と壁のあいだ、部屋の隅に小さな映像が映し出されます。
ただの空間だった場所に、突然フィルムの世界が広がる光景はまるで小さな魔法のようです。

映写機を動かしてくれる監督。
フィルムのまわる音が気持ちいい。

(余談ですが、このとき私はアニメ「ひつじのショーン」にて、ショーンたちが撮影した思い出のフィルムを上映するエピソードを思い出しました。
あのアニメ内の映写機はいつ頃のものなのでしょう。監督に聞けば分かるのでしょうか。)

フィルムの映像から映画を作る際には、これを「デジタル化」することが欠かせません...といっても手段はいたってアナログ。
なんと横に設置されているカメラでこの壁の映像を直撮りするというので驚きです。地道な作業に見えますが、三好監督は映像の質感にこだわって、あえてこの手法をとっているそうです。

棚と棚の隙間に小さなスクリーンが!
案外小さいですが、このほうが映像がハッキリ映るそう。

フィルムと扇風機とはんだごて


さて、監督が使用されているこの映写機は、側面のパネルが取り出されて中身が丸見えになっていました。映写機が熱を持たないように、ここに直接送風機で風を当てて冷やしているそうです。意外にワイルドなんですね。

なんと中身が丸見え!
このまま普通に動いてしまうというので驚きです。

また、私がお邪魔した日は、映写機のゴムの部品が壊れてしまっており修理中でした。このゴム、専用のパーツかと思いきや、なんと網戸のゴムから持ってきてくっつけたたものだそうです。
道理で机の上にはんだごてがあった訳ですね。

8ミリフィルムは部品を製造している会社が少ないため、修理の際はこんなふうに自力で解決することも多いそう。

ちょっと強引にも見える手段でもお構いなしに動いてくれるフィルムカメラは、繊細な現代の機械よりもむしろたくましく見えます。


カメラを構えてみる


今回は、実際に映像を撮影するカメラもたくさん触らせて頂きました。

レンズが3つついたカメラ(これはとっても重かったですが、そのぶん手ブレが少なくなるそうです)や、片手で撮影できるような軽量化されたカメラ(これはお母さんが赤ちゃんを抱っこしたままでも撮影できるように、というコンセプトだったそう)、などなど...

最新のiPhoneと8ミリのコラボ。
案外似ているかも?

監督が次から次へと棚の奥から取り出してくれるカメラは、どれも違った形をしていて個性があります。
カメラを構えてみると撮影してみたい気持ちにもなりますが、8mmフィルムは、すでに日本では製造も現像も行われていないため、たった3分半の映像でも購入・現像に数万円がかかるそう。手にする機材の重みが増すような情報です。

カメラをのぞく私。
必死なあまり片目がしわしわです。

もうひとつの作業部屋へ!

今回は、屋根裏にあるもうひとつの作業部屋にも入らせて頂きました!
子供のようなワクワクを胸に急な階段を上ると、目に飛び込んでくるのは天井の巨大な梁です。

書かれている年号は、おそらくこのお家が建てられた際のものだろうということ。立派な梁が、この家に刻まれた年月を象徴するかのようです。

画像上部にちらっと写っている梁。

部屋のなかには、監督が作業される機材が置かれたスペースや、部屋をぐるっと囲むように置かれた本など、一階のお部屋よりもぐっと「秘密基地」感が増しています。

開けるのにちょっと力が必要だった窓。
部屋中に素敵な本が並んでおり古本屋のよう。

本棚に置いてあった『TOKYO STYLE』(1993) を発見して、みなさん「私も持ってた」とひとしきり盛り上がったところでルームツアー(?)は終了となりました。
三好監督、ありがとうございました!


記憶を大切にする場所で生まれる『まつもと日和』


今回お見せいただいた「松本深呼吸」とその土蔵のお部屋は、古いものや記憶を大切にあたため、ともに生きていくという気持ちがあふれているような素敵な場所でした。

三好監督が松本で制作された映画『まつもと日和』は、こんなふうに「松本深呼吸」という場所で感じたようなあたたかさが全編にわたって満ちている、とても素敵な映画です。今回この場所を見せて頂いて、映画に感じたあたたかさはこの場所から生まれているんだ、と納得するような気持ちになりました。

今回訪れた「松本深呼吸」では、『まつもと日和』をはじめとする地域映画を上映し、みんなで感じたことを語りあうイベント「8mm映写室」が不定期で開催されています。
8mmフィルムから記憶を掘り起こし、そこからまた新たな記憶や人のつながりを紡いでいく場として、このお家は生き続けているのです。

そんな、ただ「古くて素敵」というだけでない、新しい可能性と魅力の詰まった古民家である「松本深呼吸」。
次にこの場所で上映会がある際には、また新たな出会いがあることを楽しみにしています。


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