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「クリアー」 (短編小説)

 「地球の皆さん、お疲れさまでした」

 そんな言葉が、世界中の皆の頭の中に響いたのは半年前のことである。

 「おめでとうございます。 地球ステージ2面クリアです」

 誰しもが直接、脳内に語りかけてくる言葉に顔を見合わせ、気のせいではないと思うのに時間は掛からなかった。
 仕事中だろうが睡眠中だろうが構わず響くその声に、やがて動きを止め、聞き入るようになった。
 「さまざまな障害を乗り越え、よくゲームクリアまで辿りつきました。では、約束通り、ご希望のアイテムまたは1つだけ望みを叶えます」

 今となっては、ぎこちない動きの世界で声だけは粛然と続く。

 「……なるほど。 みなさん、とてもではないが信用し難いと伝わってきます。では、今から小さなプログラムの修正をしましょう。 半年後、最終的な答えを伺います」


 メキシコ湾の石油採掘基地が爆発炎上し、原油が流出して海上を汚染したのは記憶に新しいニュースだった。
 ブルネットでスーツ姿の女性キャスターが、原油に塗れた海鳥を救おうとする映像は世界中に配信された。

 生態系にも異変を与える、この大惨事が魔法のように一瞬で消え去ったのである。

 内紛が今なお続く、インドシナ半島に位置するカンボジアから奇跡が起きたとの情報も、ネットに載り全世界に配信された。 動画サイトに投稿された映像には400万個あまりが未だ未処理であると云う地雷源で、元気に走る子供達の姿と兵士達の小銃が突如、小さな花束に変わる瞬間を収めていた。
 色とりどり鮮やかな花を手にして戸惑う兵士達を尻目に、痩せた子供達がゆっくりと虚空より降り注ぐ綿菓子を頬張る笑顔が弾けた。

 やがて国連主導の下、各国の首脳陣と科学者達が要望をまとめるべく地球規模のプロジェクトを立ち上げた。 だが、それぞれの国の野望や利権で意見がまとまらず新たな紛争や衝突を生み、混沌の半年が過ぎていった。

 「約束の期限が来ました。 ……なるほど。 圧倒的多数でまとまったみたいですね」

 疑問しか残らない皆の頭に、粛々と声は流れていく。 
 「確かに、受理しました」


 世界中の人間がだんだん透けて、やがて存在自体が消えていく中、地球上の様々な動物達が歓喜の雄叫びを上げたが、はたしてその耳には届いたのだろうか。








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