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星の砂

⼩さなガラスのボトルに⼊った、⾊とりどりの⼩さな砂を⾒ていた。
「星の砂」と書かれた⼩さなラベルが貼ってある。
私の数秒の視線に気づいたAさんが声をかけてくる。

『友⼈が沖縄に⾏ってお⼟産をくれたの、綺麗でとても気に⼊っているの。
こじまさんもよかったら1つどうぞぉ』
いや結構ですよ、と少し笑い丁重にお断りする。
うふふふ、とAさんも少し笑う。

その砂を思い出していた。

私が⼊職後、初めて相談対応したのがAさんだった。
下肢の疾患で⼊退院。
介護保険で「要⽀援」の認定を受け私が介護予防ケアマネジメントを担当。
福祉⽤具やデイサービスを利⽤し⽣活を維持していた。

時折⾃宅に訪問しモニタリングを⾏いつつ他愛ない話をすることもあった。
美味しいギョウザを作るためには下味が⼤切だとか、
週末の(当たりもしない)競⾺の予想だとか、
息⼦は仕事で世界中を⾶び回ってるだとか、
通販番組で良さげなエクササイズグッズを衝動買いしたとか。

どんな話でもAさんはうふふふ、と笑いながら話す。

担当し続けること6年。
Aさんは今年の春、⾃宅前で転倒。⾻折し5か⽉間⼊院された。
⼊院中に改めて介護保険の認定調査を⾏い、「要介護」の認定を受けた。

以前のように歩くことができなくなったAさん。
私は退院後のケアプランを⽴案してくれるケアマネジャーを紹介。
福祉⽤具やリハビリのサービスを数多く利⽤することとなった。

退院後、ケアマネジャーとの引継ぎを終え、さよならを告げる。
Aさんは少し下を向いて、でも顔を上げてキラキラした眼で⾔う。

「こじまさんが紹介してくれた⼈だから安⼼しているけれど・・・
わたしリハビリ頑張るからね。
また⼀⼈で外を歩けるようになるからね。
そしたら来年また‘要⽀援’になって、その時はこじまさん担当してね。
⾒捨てないで待っててね。また家に来てね。おしゃべりしてね。うふふふ」

・・・ええ、もちろん、待ってます、と私は答える。
この約束はケアプランには載らない。
だけどAさんが前を向くための理由の1つであれば、それでいいとも思う。

私も所詮、この介護・福祉の業界で働く何百万もの灰⾊の砂粒の1つでしかない。
でもAさんにとっての、
誰かにとっての、
あなたにとっての、
ピンクや⽔⾊や⾦銀のキラキラした星の砂であれたら。

そう願う。切に。


*東京の介護ってすばらしいグランプリ2022 コラム部門 優秀賞
作:調布市地域包括支援センターときわぎ国領 小嶋泰之

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