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パリの美しさに酔いしれる、哲学的な映画『5時から7時までのクレオ』レビュー

今日はまたもやアニエス・ヴァルダ監督『5時から7時までのクレオ』(1962/フランス、イタリア)をレビューします。もおおおおおとにかくフランスの街並みとコリンヌ・マルシャンが美しいいい!!!!
実はこの作品、2019年にイギリスのテレビ局「BBC」が「女性監督による優れた映画100選」を発表してまして、第2位に選ばれているんです。ちなみに一位はジェーン・カンピオンの『ピアノ・レッスン』で、3位は先日紹介したシャンタル・アケルマンの『ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン』です。ちなみにちなみに英国映画協会の100選の方は第14位です。(笑)
あんまり世界で評価されているのを基準に映画を鑑賞するのもいかがなものかと思いますが、まあ、私のような若者には世界を少しでも知るきっかけをくれるのでまあ、いいかと目をつむり。
まあそれだけ評価されているのもあり、本当に見応えのある美しい映画でした。フランス映画初心者の自分が個人的感想も交えてレビューします。


↓『5時から7時までのクレオ』予告編



あらすじ

自分は癌なのではと恐れるシャンソン歌手のクレオは、7時に検査結果を聞くため医者と待ち合わせを控えている。今は5時。そこまでの2時間、あてもなくパリの街を歩くクレオの様子を、ほぼ実際の時間と同じリアルタイムで追っていくというもの。
その2時間の間、付き人?らしき女性とカフェに行ったり、歌を歌ったり、彼と会ったり、モデルの友人と会ったり、新しい出会いが会ったり、、、濃密すぎる2時間だなと突っ込みたくなりますが、映画の印象としては、割とゆったりしているなと思いました。

まさかの出演

クレオの友達の彼氏として映像監督?かな、わからないけど彼が制作したという短編映画の中に若き日のジャンリュック・ゴダールとアンナカリーナが出演しているんです。さらに本作のスコアを書いた作曲家のミシェル・ルグランもピアノを弾く作曲家として出演しています。こういった出演の仕方を「カメオ出演」というそうです。(遠目からでもはっきりと分かる装飾品のカメオからそう呼ばれるようになった)知らなかった、、、
フランス映画に詳しい人なら歓喜の瞬間ですね。




個人的感想


映像として

やはりすごく印象的なのはカメラワーク。長回しで彼女のことを追っていくのですが、ん、どのくらいの距離からどこから追っているの?と思わず考えてしまうシーンも多く、人々の営みの一部としてクレオが存在している様がよく見て取れます。特に頭に残るのは車中シーン。劇中何度も乗り物に乗るんです。タクシーに二度、友人の車に一度、バスに一度。が、作風として、ほぼリアルタイムで追っているので、「はい、着きました。」ができないんですよね。その分少し間伸びしているような、もうネタ切れなんじゃない?と思うような瞬間もありますが、車に共に揺られる相手がいつも違うのでクレオの様子の違いや2人の関係性、そして車窓から見える初夏のパリの風景がほんとに美しくて、それはそれですごく素敵なシーンでした。
で、気になるのが、街の人々が異常なほどににクレオのことを目で追うんです。カメラがクレオの見た目になった時なんて、ほぼ100%道ゆく人たちと目が合っています。そんんんなにクレオの美貌が光っているのか、歌手としてとっても有名な人物なのか、、色々考えを巡らせましたが、実はこれパリでゲリラ撮影のような感じで撮影していて街ゆく人はその場にいた一般人なんだそうで。つまり本当のリアルな人々の生活を見ていたわけです!!
クレオの暗い表情や仕草がすごく目立っていたのはそのためなんですねえ。いろんな効果を生んでます。すごい。

ストーリーとして

印象に残ったシーンは二つあって。一つは中盤のカフェのシーン。音楽家たちから馬鹿にされていると感じ勢いで抜け出した後、街をしばらく歩いてカフェに入ります。ここで他のお客さんたちの会話の断片がひたすらに流れていきます。喧嘩をしているカップル、絵画について熱く語り合う人、最近の若者は、、と愚痴をこぼす老人、、なんだかどの人の会話もあまりポジティブなものでなくて、ザ・世間話といったところ。その人々の会話に耳を傾け、そこのいるのが苦痛になったクレオはコニャックを一気に飲み干し飛び出します。その時はわからなかったのですが、実はクレオはそのカフェのジュークボックスで自分の歌う曲を流したものの誰も聞いてなどいなかったと悲しむシーンがあり、あ、そういうことか。となったんですが、大袈裟にもしの恐怖に直面している彼女にとっては人々のくだらない暗い世間話がどう彼女の目に映るかをうまく表現しているなと感じました。このシーンも役者ではなくて一般人の会話なのかな、、だとしたら面白すぎる。

 もう一つは最後に出会う、休暇中の軍人の男性とのシーンです。
登場時、個人的にはなんだこの気持ち悪い男は。と思ってしまったんです。(笑)というのも、理由があって、こんなセリフを言うんです。
「若い女は愛されることを愛するだけ。自分を投げ出しません。跡を残すことを恐れます。出し惜しみの愛です。彼女たちの身体は玩具で、生命ではない。だから僕も途中でやめます。」
動揺するほどにパンチのあるセリフですよね。ヴァルダはフェミニストとしても有名ですが、彼女自身が男性と関わる中で普段から感じていることなのかな、、と、言いつつ全否定するのも難しく、共感とまではいかなくとも理解できてしまうセリフだな、、と印象にすごく残りました。女性は当時の考えだと自分の人生を男性に委ねる節もあったと思います。がゆえにこう映ってしまうのも仕方ないのかなと。
ただ、この軍人の男性はこの後8時の電車にのり、仕事に戻ると言います。つまり彼もまた死の恐怖に直面しているわけです。その彼からすれば出し惜しみをする愛ほど空虚で無意味なものはないのかなと理解しました。なんとなく2人の間で共有する時間の流れみたいなものがあって、その後2人は行動を共にし、心を通わせます。この2人の表情の寄りのシーンは何度か出てくるのですが、すれ違っているのか通じ合っているのどちらかが一方を見つめたり、見つめあったり顔を寄せたり、なんというかロマンチックとは少し違う交流をする様子は見る側にいろんな想像をさせるなんとも不思議なシーンでした。

題名の通り、5時から7時までのクレオと共にパリの街並み、実際そこで生活する人々を感じられる、美しい映画体験でした。

ご拝読ありがとうございました。






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