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作りと仕掛けが素晴らしい実話「ペルシャン・レッスン 戦場の教室」レビュー

こんにちは。今日は「ペルシャン・レッスン 戦場の教室」のレビューをします。名前の通り、全編を通してペルシャ語のレッスンが戦場で行われる訳ですが、なんとそのペルシャ語は青年が生き残るために考えた出鱈目で、、、とにかく設定が面白いんです。そしてその設定がラストシーンで全てを語るかのように私達を困惑させ、理解させ、切なさや悲しみ、憎悪や安堵、色んな感情を引き連れてきて物語は幕を閉じます。しかも、実話。必見映画です。


あらすじ

第2次世界大戦中、ナチス親衛隊に捕まったユダヤ人青年のジルは、自分はペルシャ人だと嘘をついて処刑を免れ、一命を取り止める。しかし、そんなジルに、将来イランのテヘランで料理店を開きたいという夢を抱くナチス将校のコッホ大尉が、ペルシャ語を教えるよう命じてくる。とっさに自ら考えたデタラメの単語をペルシャ語と偽って披露したジルは、コッホ大尉の信用を取り付けることに成功するが、その後も偽のペルシャ語レッスンを続けることになり……。

と、いう感じです。
登場人物は比較的少なく、ナチスドイツ収容所の酷烈な様子ももちろん描かれますが、それとはまた違う緊張感が常に張り詰めている映画でした。



感想

私のこの作品の好きな所は「復讐劇」として描いていないことで、大尉の個人的な理由によって嘘をついた主人公が奇跡的に生き延びることができる。あくまで毎日人が死んでいく収容所で個人的な欲求が合わさり奇妙な友情が芽生えていく。
特に大尉のジルに対する気持ちは友情だけではない、もっと特別な感情がある事が見て取れます。ジルが出鱈目に並べたペルシャ語はいわばふたりの間でしか通じない「秘密の言語」であり、その言語を使って、過去の話をしたり詩を作って聞かせたりする様子はもはやロマンチックに見えてしまう程、不思議な時間でした。しかもそれはジルが殺されるはずだった収容所の中で「死んだ人たちの名前で造られた言葉」で造られた時間。
不安に疲れたと言うジルに俺のそばにいる限り必ず守ると言う大尉。ジルにとってはその大尉の隣にいる限り、常に死の恐怖に耐えながら生きていかなければならない。この対比が大きければ大きいほど出鱈目の言葉をかわす一瞬一瞬が怖くて仕方ありませんでした。

そして全体の構造に、より主人公の心情を観客に伝わりやすいようにしている工夫も感じました。
前半はかなりスローテンポで「もう少し省略してもいいんじゃ、、?」と思ってしまうほどでしたが、観終わった今考えると、いつバレてもおかしくない死と隣り合わせの極限状態の主人公の心情をより観客が自分ごととして捉える為の演出?とも思ったり。後々になってその丁寧に描かれた大尉との会話や緊張感が効いてきます。大尉の描き方も部下には厳しくいかにも厳粛そうなイメージであるが、劇中で直接的に人を殺したり、残虐な行動はほとんど見受けられません。強いて言えば、ジルに裏切られたと激昂する瞬間だけであり、そこに人としての理不尽さは強調されていない。だからこそ二人が親密になっていくことや大尉が最終的に全てを失う瞬間を観た時、観客は大尉に少し寄り添った感情が芽生えてしまう。つまり、より主人公の奇妙な罪悪感に共感してしまうのではないでしょうか。

ラスト10分で、今までの状況がいかに滑稽で奇妙だったか。
我に帰るような不思議な感覚になります。
今までのナチス映画と一味違う「ペルシャン・レッスン」
ぜひご覧ください!!






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