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衝撃すぎて2週間別の映画が見れなかった、、「対峙」の映画レビュー

「いい母親だったと思うことは罪ですか?」


私の人生で観た映画のトップ5に入る個人的衝撃作、フランツ・クランク監督の新作「対峙」のレビューをします。


本作日本版ポスター


設定としては、今問題視されている学校での銃乱射事件を扱ったもので、その実行犯の両親と不幸にも銃弾を受け帰らぬ人となった青年の両親が4人でまさしく「対峙」して話し合いをするというものです。

ちなみに実行犯もその学校の生徒で事件を起こした後その場で自殺しており、立場は違えどどちらとも「息子を失った親」の対峙になります。


なんともこのいかにも重く苦しい設定ですが劇中で回想シーンは全くなく、4人で対話している間は音響効果もほとんど使われていません。実力派俳優達が「芝居」だけで魅せる、ほぼワンシチュエーションで展開されていく会話劇です。
これから演劇としても上演されそうですね。

その為観る側としては、想像して頭の中で見える景色だけが先行して拒絶反応を起こすかのように涙が止まりませんでした。



未来ある若者をを8人も殺し、埋葬も許されない我が子をただ愛していると思う事は、自分はいい母親だったと思う事は罪だろうか。

起こってしまったあまりに凄惨な出来事に各々が真摯にただ向き合い、登場人物達のどうしようもない悲しみと憎しみと酷烈な声、そしてここに至るまでの計り知れない前へ進むための各々の努力を正面から描いています。
加害者側の2人を責めない約束でセラピストの勧めで行われたこの話し合いですが、実行犯である息子にこのような事件を起こすまでの予兆や変化は無かったのか、それに気づいていればこの事件は防げたのでないかと、話し合いの軸は加害者側の親の責任の追及へ移っていきます。
果たしてこの話し合いの行き先はどこなのか。そしてちゃんと終着点は見つかるのだろうか。そんなお話です。

監督

この素晴らしい濃密な会話劇を作り上げたフランツ・クランク監督はアメリカで俳優としても活動されている方で、なんとこの作品が初監督作品だそう。極限まで余計なものが排除された芝居を魅せる作りは俳優をされている方ならではの作りかなと納得ですが、それにしても初だなんて、、衝撃です。
事故や事件で家族を亡くした方、銃乱射事件に関する本を書いた著者や、銃撲滅運動を行う団体へのヒアリングを行いこの本を書いたそう。
詳しい監督のインタビューは素敵な記事がありましたのでこちらから。

個人的感想
これだけの背景を抱えた登場人物達を見事に演じ上げた俳優達。同じ芝居をする身として感服せざるを得ません。それぞれがどのようにその事件に向き合ってきたか、息子に対してどんな感情を抱き、被害者にそして加害者にどんな感情をぶつけたいのか、どんな風でその場にいたいのか、本当の望みはなんなのか。全てがその目や息遣いやしぐさで伝わってきます。本当に驚きです。個人的には加害者側の母を演じたアン・ダウドさんのお芝居に息が止まるほど衝撃を受けました。悲劇的な過去を物語る表情の中にも、絶対的に無くさない息子を愛した誇りがその顔からも言葉からも消える瞬間は無いように感じました。

この場において自分の非を認めることは、相手に理解を示すことは、どれほど勇気がいることか。
本当の正義や悪を定めて明らかにすることは何の意味も持たず、その人にとっての正義をただ正義として、自分も相手も認める瞬間こそが本当に人を赦す瞬間だと思いました。

ぜひ。ご覧あれ。

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