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【富士山お中道を歩いて自然観察】12 ミヤマハンノキの窒素利用

(この記事は、観察マップ地点12 についての解説です)
お中道も半ばを過ぎると植物が多く見られるようになります。ミヤマハンノキの枝は遊歩道まで伸びてくるので、歩きが妨げられるかもしれません。どうしてミヤマハンノキはここまで繁茂するでしょうか?

遷移初期は、土壌がなく、栄養が乏しい。特に窒素は、雨水にわずかに含まれるだけで、これを根から吸収する一般の植物の成長は大変遅い。

しかしミヤマハンノキは、根に共生する放線菌(窒素固定細菌の一群)が、大気中に80%も含まれる窒素を吸収して作ったアンモニアをもらうことで窒素を得ることができる。その代わりに放線菌は、ミヤマハンノキから光合成産物の炭水化物(糖類)をもらって生活のエネルギー源としている。この両者のような関係を相利共生という。

共生
生物界でよく知られている異なる生物種間の関係で、共に相手から利益を得て共存する場合を特に相利共生という。マメ科植物と根粒菌、マツ科やラン科植物と菌根菌の関係などがよく知られている。

窒素固定細菌
窒素固定(大気中の窒素を吸収してアンモニアをつくる働き)を行う細菌を総称して窒素固定細菌と呼び、ハンノキ類の根に共生する放線菌やマメ科植物の根に共生する根粒菌などが挙げられる。放線菌や根粒菌は根に根粒を形成し、その中で窒素固定を行う。

ミヤマハンノキの窒素固定のイメージ
一般の植物は雨水由来の窒素しか利用できない。しかしハンノキは雨水由来の窒素に加え、共生する放線菌によって大気由来の窒素も利用できる

虫食いだらけのミヤマハンノキ

6月の開葉時期、ハンノキハムシによって被食を受け、葉が穴だらけになっているのをよく見かける。ハンノキハムシにとっても窒素に富むミヤマハンノキの葉は美味しいのだろう。

被食された葉
ハンノキハムシ

ハンノキハムシは成虫で越冬し、春に産卵、孵化した幼虫は葉を食べたあと土中で蛹になり、夏に羽化する。羽化した成虫も秋まで葉を食べる。

ミヤマハンノキについては他にも、高い萌芽能力や、緑葉のまま落葉するなど興味深いことが多いです。他の記事もご覧ください。
次回(地点13)は、スラッシュ雪崩とは別のタイプの雪崩についてのお話です。

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