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【富士山お中道の生物図鑑】 はじめに

この連載では【富士山お中道を歩いて自然観察】で登場した植物や、記事に入り切らなかった生き物について紹介します。
草花や樹木が、富士山のどういった環境に生えているのか、花が見られる時期など、遊歩道を歩きながら楽しめる情報を記載できればと思います。

富士山お中道は、富士山の中腹(標高2,300 m付近)にある遊歩道です。以前は富士山周りをぐるりと1周できましたが、道の崩壊により現在は一部の区間のみ歩くことができます。
ここで紹介するお中道とは、富士山北西斜面の山梨県スバルライン側(登山道で言うと吉田口側)です。

お中道について詳しくはこちら↓

今回紹介するコースの短い区間(約3.3 km)で、植物に限れば樹木と草本40種以上を見ることができます。
コケ・地衣、キノコ、鳥、昆虫などを加えれば、もっともっとたくさんの生き物がいるでしょう。

お中道でさまざまな生き物が見られる理由、それはお中道が、森林から荒原という両極端な植生のなかを突き抜ける遊歩道だからです。
それに加え、火山である富士山の遷移過程の初期〜後期までを目の前で見られる遊歩道であるからとも言えるでしょう。

富士山の自然の特徴について詳しくはこちら↓

お中道で見られる植生

富士山お中道周辺は、大まかに3つの植生があります。それぞれの植生では、それぞれ特有の植物がみられます。

  • 火山荒原(高山帯)

  • 草地・林縁

  • 森林(亜高山帯)

個々の植物のページでは、上記の3つの植生のうちどこで見られるのかを記載してあります。

火山荒原(高山帯)

富士山の高山帯は、スコリアと呼ばれる火山砂礫が一面に堆積した火山荒原です。砂礫の移動が激しく、植物の侵入に大きな妨げになります。

スコリア
火山の噴出物で、火山礫(直径2㎜~64㎜)のうち、玄武岩のマグマが上昇して冷えて固まるときに、含まれていた水などが蒸発して多孔質となったもの。砂礫状。

一方で、低温・強光・強風・貧栄養という高山帯特有の厳しい環境に適応したパイオニア植物が見られます。

パイオニア植物
遷移の過程で、初期のまだ植生が十分に発達していない段階で定着・成長できる植物種のこと。一般に、明るい場所を好み、乾燥や栄養不足に強い。富士山のように雪崩が頻発して地盤が不安定な場所では、傷害を受けても地下茎や萌芽ぼうがで再生できる植物がパイオニア植物となることが多い。

山頂に続く火山荒原を見上げると、ミネヤナギやオンタデがぽつぽつと見られる


草地・林縁

パイオニア植物の定着が進み地面が安定した草地や林縁は、火山荒原よりもやや穏やかな環境が得られます。低山にも生える植物を見ることもできます。駐車場脇や道路脇は、林縁の植物を観察する格好の場所です。


森林(亜高山帯)

火山荒原より下部では亜高山帯特有の大森林が広がります。木々に遮られ森林内では光はやわらぎ、風当たりも弱くなります。

見上げれば林冠を覆う高木(林冠木)やその下にある低木、足元に注目すれば林床にひっそりと咲く小さな花に気づくかもしれません。足を止めてじっくり探してみましょう。

林冠、林冠木
森林の最上層を占める高木の葉の集まりをいう。

お中道では林内の明るさが違う2種類の森林を見ることができます。

● 落葉樹の森林(カラマツ林、ダケカンバ林)

林の中まで木漏れ日が差し込み明るい森林です。林床にはコケモモの群落や後継樹の稚樹が多数みられます。

後継樹
極相林(遷移が進んで最終的に安定した森林)を構成する樹木の種子から成長した若木のことで、親木の陰では成長は遅いが、耐陰性が高いので、ある程度の期間は生き続けることができ、親木が枯れて明るくなる機会を待っている。

カラマツ林


常緑樹の森林(シラビソ林、コメツガ林)

林の中に差し込む光は乏しく、一年中薄暗い森林です。コケや耐陰性の高い植物が点々とみられます。

シラビソとコメツガの林


次回、図鑑のトップバッターは、富士と名がつくフジハタザオです。


富士山お中道に興味を持たれた方は、ぜひ連載第1弾もご覧ください。

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