りとすた文庫

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「ハリス・バーディックの謎」 C・V・オールズバーグ

 物語ではない。けれど完結している。これよりもっと多く語られることはない。  なのに、全然満足しない。完結しているのに、着地点を探してずっと彷徨い続けている。  絵本が好きになったきっかけの1冊。

    • つみきのいえ

       おじいさんと一緒におじいさんの記憶の奥深くを辿り、おじいさんが見たであろう景色を一緒に眺めるうちに、私は私の今の状況から少し遠ざかり、ぽっとひなたに出たような、そんな気持ちになる。  ありがとう、と思う。

      • オイディプス王 ソポクレス

         読み終えてからの数日は確かに夕陽のなかにいた。先に挙げた幾冊から比べると余りにも古い、はるかな地中海の国で誕生した古典は完全な悲劇とみえた。完全とは円環で、植物で、海であった。それなのに具合が悪くなるほど不可侵の規則だった。  デルポイの神託。幼少から忘れることのない記憶にある。どこで読んだのかは記憶にない。どこかにあったが、定かではない記憶のなかである。古代ギリシャの神話に手を引かれて読んだ、禁忌を犯すと予言されたオイディプスの物語をこの度再読した。  死すべき人の身は

        • 月夜とめがね 小川未明

          おだやかにながれるものがたり 気持ちを揺り動かす心情表現は全然ない だけどなぜだろう 胸がいっぱいになる

        「ハリス・バーディックの謎」 C・V・オールズバーグ

          白い犬とブランコ 莫言

           罪の意識が人生においてどれほどの役割を果たしているか。それは事件そのものをはなれ、いちばん面倒な形で纏わりつく。しかし必ずしもそれが悲劇をつなぐとは限らないし、その形の変化しないものはない。他者の死を喪失で片付けることができないように、見えない熱量を持って、立体的にあるいは転移しながらも変化していく。感慨になるか、動揺になるか、葛藤の時期を過ぎてなお、絶えず流動的な変化を伴っている。  「白い犬とブランコ」は中国の作家、莫言の初期の短編である。莫言は、短編小説としてある瞬間

          白い犬とブランコ 莫言

          名前のない人 C•V•オールズバーグ

          あたたかなあたたかな絵本。この絵本を読んでいると、夏の終わりの太陽の匂いや、秋のはじまりの吸い込まれそうな空の青さを思い出す。豊かで幸福な時間が訪れる。

          名前のない人 C•V•オールズバーグ

          赤い蝋燭と人魚 小川未明

          日本のアンデルセンとも呼ばれた小川未明の代表作。 「人魚は、南の方の海にばかり棲んでいるのではありません。 北の海にも棲んでいたのであります。」 蝋燭の火を灯す中で語り始められ、ふっと蝋燭を吹き消したようにものがたりが終わる。 そんな雰囲気のするお伽話です。

          赤い蝋燭と人魚 小川未明

          銀河鉄道の夜 宮沢賢治

           先月、日本の不条理演劇の第一人者であった別役実が肺炎で亡くなられた。享年82歳となった。昨年の古井由吉といい、偉大な作家が亡くなっていく。  童話作家でもあった別役だが、アニメーション映画「銀河鉄道の夜」(1985)の脚本を務めた。ますむらひろしの原案により、ジョバンニやカムパネルラは猫として描かれており、細野晴臣の音楽と共に細やかに表現された。   「銀河鉄道の夜」の初稿は宮沢賢治によって1924年に執筆され、1933年の死の直前まで推敲された。今広く読まれているものは

          銀河鉄道の夜 宮沢賢治