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白い犬とブランコ 莫言


 罪の意識が人生においてどれほどの役割を果たしているか。それは事件そのものをはなれ、いちばん面倒な形で纏わりつく。しかし必ずしもそれが悲劇をつなぐとは限らないし、その形の変化しないものはない。他者の死を喪失で片付けることができないように、見えない熱量を持って、立体的にあるいは転移しながらも変化していく。感慨になるか、動揺になるか、葛藤の時期を過ぎてなお、絶えず流動的な変化を伴っている。
 「白い犬とブランコ」は中国の作家、莫言の初期の短編である。莫言は、短編小説としてある瞬間に人間というものを潜ませようとしたとき、そしてあらゆる想像の密度を高めようとしたとき、ひとつの静かな事件を軸にした。過ち。未練。10年ぶりに帰郷した「ぼく」が白犬を見かけたとき、胸の奥深くで何かが感応する。

 近頃、書店に行くと大判ポスターなどで「三体」という本を見かける。劉慈欣による中国SFだが、大変な売上で、日本でも昨年7月に早川書房から出版されるやいなや、わずか1週間で10刷という異例の快挙であった。
 SFにとどまらず、残雪や閻連科など世界文学に匹敵する中国作家は増えている。村上春樹よりもずっとノーベル賞に近いと言われていた莫言が2012年に受賞し、中国文学に大きく貢献した。改めて現代中国文学を世界に知らしめる端緒となった彼の作品が、他の多くの物語への助走となってほしい。

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