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オイディプス王 ソポクレス

 読み終えてからの数日は確かに夕陽のなかにいた。先に挙げた幾冊から比べると余りにも古い、はるかな地中海の国で誕生した古典は完全な悲劇とみえた。完全とは円環で、植物で、海であった。それなのに具合が悪くなるほど不可侵の規則だった。
 デルポイの神託。幼少から忘れることのない記憶にある。どこで読んだのかは記憶にない。どこかにあったが、定かではない記憶のなかである。古代ギリシャの神話に手を引かれて読んだ、禁忌を犯すと予言されたオイディプスの物語をこの度再読した。

 死すべき人の身は、はるかにかの長期の日の、見きわめを待て。
 何らの苦しみにもあわずして、この世のきわに至るまでは、何びとをも幸福とよぶなかれ。

 これらの言葉を残して幕が降りたあと、私は何者かに支配されていた。感情というものが自ら働きかけるのを待たず、何かを手に取る前にテキストの外に放り出されていた。
いつも誰かに後ろをつけられていることを思い出した。まるでほとんど夜になりかけているかのような時のなかで、すべてが遅く、硬くなるのを待ち続け、流れていくだけで何一つとして交わされない言葉と視線の往復が行われている……手探りで……何かを眺めながら……記憶が追いかけてくる……拡大しながらも同時に収束していく時間に監視されている……竜巻が見えるところにいる……

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