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#1 つばめラジオ

 ラジオをかける。だから私は家事に取りかかる。洗濯物は風にふかれ、お湯はいまだに沸かない。私はパスタを計量する。

 ラジオの周波数を変える。私の好きな音楽が流れないかしら。時々窓をだれかが叩く。おそるおそるベランダに出るとつばめが巣をつくっていた。びっくりした。

 キッチンに戻ってお湯が沸いてるのを確認して、レシピ本を開く。私はカルボナーラしか作れない。だからカルボナーラのページに付箋が貼ってあって、とても開きやすい。

 そして私は知らない曲を聴きながらパスタをゆでる。七分待つこととなる。テレビのほこりをとる。とれないほこりがあることを知る。

 キッチンタイマーが七分を知らせた。私は手を洗ってパスタをフライパンに移す。ベーコンとチーズ、卵黄だけの簡素なカルボナーラを食べる。そしておいしいと思う。私の作るパスタはおいしいのだ。

 洗濯物をとりこむ。きれいに畳んでむりやりケースに押し込む。そろそろラジオをうるさく感じるようになったので電源を落とそうとする。

 「結局ね、僕の成功っていうものは、失敗を経験せずには成し得なかったんですよ。辛い時期もあったし、それこそ周りの人間が全部敵に見えた時があって。でもそんな時にも支えてくれる人たちがいて、彼らのおかげでまた立ち直れたんです。僕は人の助けなしには何も成し遂げられなかった。本当に。だからこそすべてに感謝しているんです。僕にね、お前の曲はだめだとか、言ってくる奴らがいましたけども、今ではそいつらにも感謝してるんですよ。本当に。人生ってのは」

 あなたは嫌なものを一緒くたにして瓶に詰め込んで、目につかないところに隠しているだけよ。人生に感謝しているなら、こうも彼らを糾弾することはないでしょう。

 ただ、あなたはそのままでいいの。大物ぶるのがどんなに快適か知らないけど、あなたは自分の骨の形を変えてまで違う人になろうとするんだ。

 それはらちが明かない。それじゃらちが明かないよ。それはとってもおかしいから、笑っちゃうの。

 私はお皿を洗いながらこう考える。もしもつばめが来年もうちに住み着いたとしたら、私の方が家を出ることになるだろうな。



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