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最近のファッション界では、わかめが服になったり、きのこが鞄になったりする。

きのこの構成している菌糸体を強化することでレザーのような質感の素材が作られ、革製品の代替素材として活用されるようになって久しい。一般的に採用されるほどの普及までにはコスト面などのハードルが立ちはだかるが、Stella McCartneyやGANNIなどのサステナブル推進を高らかに謳うハイブランドだけでなくても徐々に増殖しつつある。

2022年にロシアがウクライナの侵略を始めたことによりファッションカレンダーでは目前に迫ったファッションショーの方向性を転換して難民経験者による市民目線で辛辣に反戦を訴えたデムナ・ヴァザリアによるBALENCIAGAの2022-23年秋冬コレクション。豪雪の中、過酷な条件でランウェイを歩くモデルたちの姿と反戦へのメッセージ、直前でショーの構成を変えたという事実など話題の高いシーズンだったが、このルック37のコートに菌糸体「EPHEA™」の素材が使われている。


サステナブルファッションのリーダーであるStella McCartneyを筆頭に、アディダス、GANNI、H&Mなどのメガブランドも採用する菌糸体ファッションに最も貢献しているのが Mylo™。バイオ素材の研究に早期着手していたBOLT THREADSが手掛けるプロジェクトの一つで、同社は蜘蛛の糸のメカニズムを転用したMICROSILK™によるシルク風素材や化粧品なども開発している。Mylo™は日本のラグジュアリーランドセルの金字塔 TSUCHIYA KABANとのコラボレーションも2022年6月に発表した。

メキシコでサボテンによるレザーの代替え素材を作り出したのは、Adrian and Marte。フェイクレザーやヴィーガンレザーなど呼び方は様々だがサボテンレザーのDessertoは現在までに、OFF-WHITE、GIVENCHY(BEAUTY)、FOSSIL、NORTH FACEをはじめ数多くのアパレルブランドとのコラボレーションを行っている。ファッションやスポーツだけでなく家具やオートモービルなど汎用性が高いのはその強度や表情などに多くのニーズを許容する品質を保持する力があるのだろう。

VEGEAはヴィーガン(VEG)と母なる地球(GEA)をスローガンにワイン生産時にできるぶどうの搾りかすを使ったバイオマテリアルを2016年にスタート。H&M、Tommy HilfigerやCalvin Kleinなどで限定ピースを作っていたが、2024 SummerのStella McCartneyではバッグやシューズなどのコレクションに多数採用され、高いクオリティを立証。

海藻は空気中のCO2削減に大きく貢献している。そんな海藻から作られた繊維Kelsunを開発したのは、KEEL.LAB。ウールの代替素材としても注目だ。

化石燃料に頼らない日本発の代替素材として最先端であるSpiber社は、今年タイにて新しいバイオ素材ブリュードプロテインTMのプラントを始動。大量生産に向けて、大きく前進している。

スパイバーをサポートする日本のジャイアントカンパニー、ゴールドウインも国内外の代替素材や再生素材の開発をサポート。それについては雑誌HIGHSNOBIETYで執筆した。

衣類の代替え素材は服であるだけに、大きな壁が立ちはだかる。発熱したり呼吸をする上に敏感である皮膚に触れるという点、生活をする上での動作に耐えられる強度や柔軟性、伸縮性を兼ね備えるという点、洗濯して何度も着用されるという点。さらにアウトドアやスポーツシーンの需要をカバーするとなると、そう簡単ではない。過酷な環境を想定した衣類を提供するゴールドウイン社は世界中のスタートアップが作り出す新しいテクノロジーやアイデアに目を光らせながら、良いものには投資でサポートすることで自社の需要を賄いながら、サステナブルなソリューションの発展を金銭的、技術的に促進している。自社の商品すべてサステナブルに変えていく努力も良いが、グローバルなライフウェアブランドを抱える企業としてすばらしい姿勢だと感じる。

姿勢や取り組みが素晴らしくても、デザインが気に入らないと服は欲しくない。せっかく素晴らしいものを作っても、廃棄処分になっては元も子もないし、どんな世界でも売れなければ事業は続けられない。今はハイブランドが競って人気芸能人を起用して広告を打っているが、推しの影響で高級なバッグを買うように、テクノロジーの面白さが購入のきっかけになるようなプロモーションを組んでみるのもいいかもしれない。

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