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WKB53(AT限定)vol.17

ハイウェイスター

ネットで「高速教習」と検索すると
「怖い」「やらかし」などのワードが続く。
同じことを考えてる人がいっぱいいるんだ。
会いたい。
これまでの路上で、標識なしの道路で
一時的に60km出せても、それとはレベルが違う。
ちょっとのミスであの世行きだ。
何が起きてもおかしくない、と思う。

あまりに怖くて、実は数日前に家族の運転で
下見に行ったほどだ。
平日のSAでお昼を食べたり、
どら焼きや野菜を買って
遊んだだけとも言えるが。
それで恐怖心が中和されるわけではなかった。

でもその日は来てしまった。高速教習当日。
5月の朝らしい濃淡の青空に、プラチナ色の雲。
今日は景色を楽しむ余裕などないだろうから
この快晴が勿体ない。
私は2人チームで走ることになった。
昨日の兄さんは、3人チームのほうにいた。

「僕、前半やってもいいですか?」
ペアのOくんが言う。
どうぞどうぞ!
「後半のほうが難しいかもよ」
担当のP先生が言った。
けどもう、ここまできたらなんでもいい。
どちらにしろやるしかないのだから。

予定通りのルートを走るといったん高速を降り、
見知らぬ町の細い道の路肩に停車。
Oくんの運転はここまで。
交代して、いよいよ私の番が来てしまった。

さっき降りたICを戻ってしばらく走り、
ほんの数日前に来たばかりの
SAのパーキングに入る。
今日は時間がタイトなので、休憩なしで素通り。
「ああ…とちおとめソフト…どら焼き…」と
横目で見ながら加速車線に向かう。
車線目一杯使って、がっつりアクセルを踏み込む。
自分でも不思議なほど
なんのためらいもなく80km/hで合流して
本線車道を走ってた。

初めて路上に出た時同様、淡々としていた。
目の前に流れがあるから乗っていこう〜というときは、その流れが40km/hでも80km/hでも、
感覚としてものすごい差があるとかではないんだな。
ということがわかった。

前の車とちょっと空いてるな、と思っていると
先生に「100km/h行けそう?」と聞かれた。
「あ、はいー」
あっさり出した。
遅い軽トラがいたから追い越す。
一般道でもしたことないのに。
視界の端に合流から2台入ってくるのが見える。
譲るか。
「あ、気にしなくていいです。
基本的に、みんな上手い人が運転してるからここは。勝手に向こうが選んでくれるから、何もしなくて平気」
なるほど、ここで一番下手だからこそ却って安心だ。おみそだ。
それに、P先生は私のわずかな反応を読み取り、毎回先に指示してくれるから、落ち着いていられる。

その都度現れる標識どおりに
きっちり80〜100km/hをキープ。
時々左に寄せすぎて地面がブブブ…となったが。
何かをやらかすこともなく。

怖くて7km/hしか出せずに泣いた
かつての自分よ。
おまえは3か月後、高速道路をしれっと
100km/hで走れているから安心しろし。

何かあったら絶対にブレーキを踏んでしまう、
と危惧していたけれど。
ETCゲートを通る時と、最後の減速車線の他は
一度もブレーキは使わなかった。
アクセルコントロールだけで走り切った。

高速を降り一般道に戻って、無事に教習所が近づいてきた。
先生もほっとしたのか(毎回、誰より命を張ってるのは先生たちのはず)、
車内はいつになく和やかなおしゃべりで満ちた。
見慣れた発着点に戻ったのは、予定時刻きっかり。

結局、教習で上手くできて
初めて「楽しい」と感じたのは
一番やりたくなかった高速教習だった。

人間もチャリもいないし、車はみんな同じほうへ動いている。
緑と白の案内標識を見ていると、
うんと遠くに行けるという実感が湧いてくる。
ハンドルを切って急カーブを降りていくのも
いちどもクリアできなかった、マリオカートのレインボーロードよりも面白い。と思った。

終わり間近にこういう感覚になるとは。
つくづく、わからないものだなあ。

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