マニアック/空の入れ物に入るもの
※「マニアック(1980)」のネタバレを含みます。
1980年公開の「マニアック」を見たので、他作品との奇妙な符合について考えた。
「マニアック」は主役のジョー・スピネルが製作総指揮、原案、脚本、主演を務めた渾身の作品だ。鬱屈した男の日常や目を背けたくなるような暴力描写が共通することから、同じ時代にスピネルがタクシー会社の受付役で出演した「タクシードライバー」と血を分けた兄弟のような作品にも思える。
ただし、デ・ニーロ演じるトラヴィス・ビックルとは違い、スピネルの扮する「マニアック」の主人公フランク・ジトーは、夜な夜な街を彷徨っては女性を手にかけるシリアルキラーである。殺人を重ねるうちに、彼の中に巣食う闇が露わになっていく。
フランクはタッパがあり暗闇からぬっと現れるその巨体と不気味な風体から、夜道で出会うと間違いなく逃げ出したくなる。まるで、この世に生まれてきたことを呪うかのように、自身のリビドーを殺意として弱者にぶつける姿は見ていて恐怖と軽蔑、憐憫の念を抱かせる。
彼は襲った女性の頭の皮を額から剥ぎ取り、血だらけのカツラと被害者の服をマネキンに装着することで、死者を永遠の存在にしようとした。生者は魂を奪われることで、静なる物体と化し、所有物として支配されるのだ。Netflixで配信している、実在のシリアルキラー、ジェフリー・ダーマーの半生を描いたドラマ(「ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語」)でも同じような描写がある。ダーマーは不遇な子供時代を過ごし、他者に対して歪んだ愛情を求めるようになる。好意を抱いた人が自分から離れていくことに恐怖を覚えた彼は、他者をモノとして所有するために卑劣な行為を重ねる。奇妙な符合だが、ダーマーが凶行に及んだ時期(1978年から1991年まで)と、「マニアック」が製作された時期(1970年代後半)はほとんど同じなのだ。
「マニアック」の物語の最後で、フランクは母の墓前で特別な相手を襲うが、返り討ちに合う。負傷した彼は帰宅後、今まで魂を奪った被害者を摸したマネキンたちに襲われる(幻覚を見ているのかもしれない)。人形が人を襲う不気味な作品としては「デビルズ・ゾーン」(怪優チャック・コナーズが巨漢の異常者を演じる)の蝋人形や、ゲーム「リトルナイトメア2」でのマネキン(暗闇の中集団で襲ってくる)等がある。魂のない入れ物が非情に人を攻撃する描写が怖いのは、自身の恐れをその空の入れ物に投影するからだろう。その恐れとは、過去のトラウマや、他者を傷つけた罪悪感等、普通の人々が当たり前に持つ感情や思考なのかもしれない。