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『闘う舞踊団』金森穣著:Noism(ノイズム)の新潟での奮闘を記録した本

海外で活躍後に日本に戻り、海外(ヨーロッパ)と日本の芸術文化の土壌や質の違いを強く意識しながら、それでも日本での意識や現状を変えたいと組織を立ち上げて困難の中でも活動を続けている人といえば、バレエではKバレエカンパニーの熊川哲也さん、そしてコンテンポラリーダンスではNoism Company Niigata(ノイズム)の金森穣さんが思い浮かぶ。

Noismは、りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館を拠点に活動する「日本初の公共劇場専属舞踊団」。金森さんは芸術監督を務める。

本書は、Noismの歩みが決して順風満帆ではなく、闘いは現在進行形であることを伝えている。とても貴重な記録、回顧録であるとともに未来を見据えた提案書となっており、出版されたことに拍手を送りたい。

以下、順番が適当で重複もあるが、本書から読み取れる金森さんの特徴を挙げる。

・日本の劇場や舞踊(ダンス)業界に失望しながらも諦めない。
・批判されても諦めない。
・自分の信念を持ち続けて行動をやめない。
・努力し続ける。
・手放し、やることはやって、あとは周囲の判断や流れに任せる。
・自分は運がいいと考える。
・苦境にあっても絶望しない。
・常にベストを尽くす。
・自分のためではなく100年後の未来を構想して動く。
・最後に自分だけが残っても踊りができると思うから、怖くない。
・打開策は講じるが妥協はしない。
・自分がしていることを的確に言語化できる。
・今に集中する。
・身体の鍛錬をやめない。

海外と日本の両方を知るからこそ、また舞踊家(ダンサー)や振付家や組織の代表者を兼任してきたからこその視点で、日本の劇場運営や文化施策・政策の問題点・課題の指摘、動こうとしない行政や財団にどう立ち向かい協力するか、環境が恵まれた海外(の一部の地域)ではなく日本、同じく恵まれた東京ではなく地方でこそ頑張る姿勢、生の舞台を全身で受け止める重要性などを語っている。

日本は美術館・博物館(ミュージアム)の運営や美術界にも大きな問題を抱えているが、劇場もそうであるということが、本書を読むとわかる。もちろん、異なる意見の人もいるだろうし、立場が違えば見え方も変わってくる。さまざまな視点からの意見交換や検討、議論が必要だろう。

「自分たちはそんなに困っていないから、自分たちが働いている間は無事に現状維持したい」というスタンスは変化の阻害になるのだが、そう考えてしまう人しか働けない待遇などの問題も当然あるだろう。意識改善・組織改革と待遇改善のどちらが先か、いや両方一緒にできれば、などの課題もある。

志と能力のある人の孤軍奮闘に頼るばかりでは未来は変わらない。そして、そうした人々の闘いは実際、周囲の人々を巻き込んでいく。遠くにいるように立場の人たちも、それを応援し、自分たちは何ができるのだろうかと考え行動していけたら、もっと変わっていけると思う。

今ここで行動しなければ、芸術文化がますます危機に陥ることも十分あり得る。金森さんが「日本では芸術について『有名であれば質が高いだろう』と思われる」などと危機感を語っていて、大いに同意する。

本書出版に関連して行われた日本記者クラブの会見の動画が公開されているので、視聴したい。

▼著者と語る『闘う舞踊団』演出振付家、舞踊家 金森穣さん 2023.7.18


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