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演劇『ジェーン・エア』英国ナショナル・シアター(映像)

シャーロット・ブロンテの長編小説を英国ナショナル・シアターが舞台化した『ジェーン・エア(Jane Eyre)』の公演映像が、オンラインで期間限定で無料公開された。

剥き出しの木材を組み合わせた簡素なセットに、広くはない舞台。正面手前に奈落があり、劇中で亡くなった者はそこを降りていくという重要な役目を果たす。歌や曲の音楽も挿入され、演奏家や歌手も舞台に出て俳優と同じように存在する。

俳優の人数は少なく、1人何役もこなす。犬の役までこなす(!)。映画やドラマなら子ども時代は子役が演じるが、この舞台では大人の俳優が主人公ジェーンの10歳の子ども時代も演じる。それどころか、赤ん坊だったときの泣き声まで演じるのだ!これが演劇のリアリティー。

ジェーンは舞台上で服を着替え、髪形を変えることで、成長や状況の変化を象徴的に表現する。祝福されて生まれた赤ん坊から、親戚の家で疎まれて育つ孤児になり、寄宿学校にやられて、そこで教師となり、ある屋敷の子どもの家庭教師になる、その家の主人の花嫁となるはずが・・・というように。

ジェーンが移動するシーンでは、ジェーンとほかの俳優たちがその場駆け足をして表現する。簡素な額縁のような小道具を窓に見立てたり、俳優たちが風を起こして服をはためかせたりする演出も面白い。

ジェーンの葛藤する心の声を、ほかの複数の俳優たちが代弁するかのように掛け合いで話して表現するのも効果的だった。

音楽もよい。違和感はあるはずなのに、物語に溶け込んでもいる。

出ずっぱりのジェーン役も、くるくると目まぐるしくさまざまな役を演じるほかの俳優たちも、演技力にはすごいの一言。本当にすごい。これがイギリスの、本場仕込みの演技か、という言葉しか思い付かない。性格はもちろん、年齢、性別、身分、地域のアクセント(発音)の違いもすべてお手のもの、という感がある。

シリアスなはずの場面でも観客からは笑いが漏れていた。そういうふうに「演技」「演出」しているわけで、本当に舌を巻く。ユーモアの散らし方も、演出的に実に巧みだ。

原作の小説『ジェーン・エア』は日本語版を高校生くらいのときに読んで、「イタイ」し、ラストに納得できない、と思った覚えがある。しかしなんと、この舞台を見て、ラストが思っていたのと違った!

よくよく思い返してみると、小説の途中を結末だと勘違いしていたような節が・・・。でもこのラストも記憶にはあるように思うので、とにかく原作を読み直した方がいいだろう。昔読んだときは身につまされるという感じだったが、今回の演出で見ると、むしろ強烈なハッピーエンドに思える。

演劇の面白さを見せつけてくれる、イギリスのナショナル・シアターの素晴らしい舞台だった。

作品情報

Jane Eyre
A co-production with Bristol Old Vic
based on the novel by Charlotte Brontë
devised by the original company
26 September to 21 October 2017
Running Time: 3 hours inc interval


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