英国ロイヤル・バレエ団『眠れる森の美女』プティパ振付、チャイコフスキー音楽
チャイコフスキーが作曲し、プティパが振付をしたロシアの「三大バレエ」の一つ、『眠れる森の美女（The Sleeping Beauty）』。（あとの2つは『白鳥の湖』と『くるみ割り人形』）
英国ロイヤル・バレエ団の前身となるバレエ団が、第2次世界大戦後の初公演として1946年に公演したのがこの作品で、主演のオーロラ姫はマーゴ・フォンテインだった。（幕間の話によると、物資不足の中、舞台芸術や衣装に工夫を凝らし、袖口のレースは「紙ナプキン」で代用したらしい）大成功を収めたこの公演を、ロイヤル・バレエが団が2006年に復刻。
その2006年版が2020年1月に再演され、そのとき世界中の映画館で生中継された映像の録画が、日本の映画館で上映されている。
中継当日に、主演のオーロラ姫を踊るはずだったダンサーがけがで降板し、急遽、リラの精を踊るはずだったファースト・ソリストの金子扶生（かねこ ふみ、日本出身）が代役を務めた。
以前に踊ったことがある役とはいえ、当日、しかも生中継の日に代役で踊ることになるとは、すごいプレッシャー。想像するだけで、見ているこちらが緊張で心臓がバクバクし（成功したと知っているのに）、ローズ・アダージオを踊り切ったところで涙が出て、拍手してしまった（録画映像なのに）。
やはり、プロは常に最高の状態で踊れるようにしておくものなのか！それにしてもすごい。細かいところは、事前にリハーサルできていればもっと調整できたかもしれないが、高度なテクニックを見事、堂々とこなしていた。背が高く、腕が長いので、舞台で映える。
王子役のフェデリコ・ボネッリも、テクニックがすごくて、とても安定している。まさに「甘いマスク」（死語？）な顔は特に好みではないが、第3幕の主演2人のグラン・パ・ド・ドゥの男性によるヴァリアシオンは、これまで見た『眠り』の中で最高だったと思う。
主演の2人と、フロリナ姫（ヤスミン・ナグディ）と青い鳥（マシュー・ボール）のカップルはもちろん、ほかのソロとかで踊るダンサーたちもみんな超絶技巧ではないか！というくらい、これでもかこれでもかと、高度な技が連続で登場。笑っちゃうくらい難しそうで、それをこなすダンサーを多数抱えているというバレエ団のアピールになっている。
プティパって、天才だが、「鬼」だ～。チャイコフスキーも、やっぱり天才！そして、指揮者と演奏者のオーケストラにとっても大変な演目のよう。
悪役のカラボス（クリステン・マクナリー）も、とてもかっこよかった。急遽、リラの精を踊ったジーナ・ストーム＝ジェンセンは、ちょっと物足りない感じもしたが、バレエ団全体で危機を乗り越えたということで、よかったのだろう。
『眠り』はクラシックバレエの代表的な作品だが、結構、変な構成かもしれない。プロローグで、主役が赤ちゃんのときに、大変で決定的な出来事が起こる。第1幕で初登場する主役のオーロラ姫は、その後は登場しない求婚者の王子たち4人と踊った後、呪いで眠らされてしまう。第2幕でやっと登場する主演の王子は、リラの精と旅をし、幻想の中（？）でオーロラ姫と踊り、最後に眠っているオーロラ姫にキスをして目覚めさせる。そして、第3幕でやっと主役が「現実」に一緒に結婚式で踊る。
「愛をはぐくむ」感じはあまりなくて、とにかく強靭なテクニックが次々と繰り出される印象。オーロラ姫の誕生祝いや16歳の誕生日祝い、そして結婚式で、宮廷の客や妖精やおとぎ話の登場人物たちが続々と踊り、華やか。
パーティーざんまいなバレエだ。プリンセスは愛らしく、プリンスはチャーミング。豪勢な夢の世界。
作品情報
【振付】マリウス・プティパ
【追加振付】フレデリック・アシュトン、アンソニー・ダウエル、クリストファー・ウィールドン
【プロダクション】モニカ・メイソン（ニネット・ド・ヴァロワとニコライ・セルゲイエフに基づく）
【美術】オリバー・メッセル
【デザイン追加】ピーター・ファーマー
【音楽】ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
【指揮】サイモン・ヒューイット
【出演】
オーロラ姫：金子扶生
フロリムント王子：フェデリコ・ボネッリ
国王フロレスタン24世： クリストファー・サウンダーズ
お妃： エリザベス・マクゴリアン
カタラビュット：トーマス・ホワイトヘッド
カラボス：クリステン・マクナリー
英国の王子：ギャリー・エイヴィス
フランスの王子：ニコル・エドモンズ
インドの王子：デヴィッド・ドネリー
ロシアの王子：トーマス・モック
伯爵夫人：クリスティーナ・アレスティス
フロレスタン：ジェームズ・ヘイ
フロレスタンの姉妹：マヤラ・マグリ、アナ・ローズ・オサリヴァン
長靴を履いた猫：ポール・ケイ
白猫：レティシア・ストック
フロリナ姫：ヤスミン・ナグディ
青い鳥：マシュー・ボール
赤ずきん：ロマニー・パイダク
狼：ニコル・エドモンズ ～プロローグ～
澄んだ泉の精： ロマニー・パイダク
お付きの騎士：アクリ瑠嘉
魔法の庭の精： マヤラ・マグリ
お付きの騎士： ヴァレンティノ・ズケッティ
森の草地の精： クレア・カルヴァート
お付きの騎士：カルヴィン・リチャードソン
歌鳥の精： アナ・ローズ・オサリヴァン
お付きの騎士： ジェームズ・ヘイ
黄金のつる草の精： 崔 由姫
お付きの騎士： セザール・コラレス
リラの精：ジーナ・ストーム＝ジェンセン
リラの精のお付きの騎士：ニコル・エドモンズ
【上映時間】3時間22分
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