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障害もセクシュアリティも――頼り頼られる「理想社会」を描くドラマ『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』

原作漫画は1巻しか読んでいないが、おそらくこのテレビドラマ化作品の方がよくできていると思われる。2021年10~12月放送。

「助け合う社会」は絵に描いた餅なのか?

杉咲花演じる赤座ユキコ(あかざユキコ)は、弱視で白杖を使う高校3年生。道で偶然ユキコと出会ったのは、杉野遥亮演じる、見た目は悪そうな「不良」の黒川森生(くろかわもりお)だ。

2人を取り巻くのは、ユキコの父と姉、盲学校の同級生の友人たちと担任教師、行きつけのバーガーショップの店長と店員たち、ユキコの初恋の人や、森生のライバルや仲間たち、カフェで働く森生の幼なじみやそのおばなど。

全員が「いい人」で、主人公たちと時に誤解がもとで衝突しても、すぐにわかり合える。でも、単なるご都合主義のストーリーではない。

社会の「生きづらさ」、大切な人とつながったり、やりたいことを諦めたりしてしまうのは、「障害」のせいではない。「人に迷惑をかけてはいけない」「自力でできる範囲内でなるべく行動すべきだ」「自分にはできるわけがない」、そうした個々人の考え方、社会の捉え方が原因なのだ。

誰であっても、誰にも迷惑をかけずに生きていくことなどできない。大切な人の邪魔をしたくないと思って行動しても、その大切な人は喜ばない。むしろ、頼ってほしい。弱音を見せて、頼ってもいいし、頼られた方はうれしい。

そうしたことを、暖かく、優しく、楽しく伝えるドラマだ。現代の日本社会にはびこる「自己責任」の風潮に、穏やかに、しかし力強く対抗している。

毎回、「案内人」として、生まれつきほぼ目が見えない芸人の濱田祐太郎が登場し、視覚障害者についてお笑いを交えて「解説」する演出もよい。

「同性愛者」の関係の築き方は恋愛だけではない

同性愛の描き方も、これまで少なくとも日本のドラマではあまり見られなかった形なのではないか。

森生のライバルだった、鈴木伸之演じる金沢獅子王(かなざわししお)は、実は昔からずっと森生が好きだったが、そのことも、同性愛者であることも、誰にも言えずにいた。

ユキコの姉、イズミが、そのことを知らずに獅子王に恋をする。告白された獅子王は、同性愛者であることを打ち明ける。イズミは失恋し激しく悲しみながらも、獅子王が同性愛者であることは自然に受け止め、知った事実を誰にも言わない。

その後、イズミは獅子王を「推し」として見守り続けたいと告げ、獅子王もイズミを好ましく思い、秘密を打ち明けた相手として心を開き、頼りにするようになる。イズミは獅子王の思い人が誰かに思い当たるが、自分の心の内に秘め、獅子王への態度も森生への態度も変えない。

獅子王はついに森生に恋心を告白するが、すでに過去形だった。森生は「好き」という言葉を即座に恋愛の意味だと理解し、「ユキコさんがいるから」と断りながらも、拒絶したりしない。

獅子王はイズミが自分にとって「大切な人」で、「ずっと一緒にいたい」と気付き、そう伝える。イズミも同じ気持ちだと答え、2人はしっかりと愛情のこもったハグをする。

「これは恋愛感情ではないし、今後も女性にそうした気持ちを抱けるかはわからない」と率直に言い、「イズミさんがそれでもいいなら」とも述べる獅子王は、ずるいのだろうか?

いや、そうは思わない。正直に伝えているわけだし、将来、イズミが恋人を見つけ、獅子王が恋人に出会うこともあるかもしれないが、それは2人もわかっているのではないか。

そうなっても、2人は互いを「大切な人」と思い続け、時に一緒に過ごすかもしれない。将来の「保証」は何もないけれど、今は一緒にいたいから、いる。一緒にいること以外、互いに何も求めない。

恋愛か友情か、決めなくていいし、名付けなくていい。人と人が大切な相手と一緒にいたいと願うから、そうするだけ。

そういう関係性をさらっと描いているのが画期的だと思う。「同性愛者を登場させるからには恋愛(だけ)を描く」のではなく、一人の人として比較的多角的に描いているのではないか。

DVDが発売されたら記念に買っておきたいと少し思うくらい、「進んだ」ドラマだった。

これはフィクションの理想郷でしかないのだろうか?

私はそうは思っていない。諦めずに目指したい社会、人と人のつながり方だと思う。


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