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『喜べ、幸いなる魂よ』佐藤亜紀著

18世紀ベルギー、フランドル地方を舞台に、商人の一家らの物語を紡ぐ小説。独身女性たちが集い働くベギン会が、その歴史を踏まえて扱われている。

ヤネケが魅力的。きょうだいのように育ったヤンを科学実験をするようにセックスに誘い、妊娠して出産後は子どもを他人に預けて、ベギン会に入り、研究に没頭して、双子の弟やヤンの名を借りて研究書を出版し、研究者らと手紙のやりとりをする。

好きな時期に好きなようにセックスをし、子育てはせず、家の商売を円滑にするために、二度も相手を決めてヤンに結婚を促し、自分は好きな研究の仕事を思う存分するヤネケ。そんな彼女は身勝手とも見えるが、実はそれは多くの男性が長い歴史の中で女性(妻や娘など)に対して行ってきたことなのでは?(ヤネケは子どもを産んではいる・・・。家の商売に助言も協力もしている)

セックスをしても、その相手の子どもを産んでも、その相手である男性の思いどおりにはならない(いわば「ものにできない」というか)ヤネケの生き方はすがすがしく小気味よい。

ヤンは60歳になってもヤネケをいとおしく思い、ヤネケもヤンを大切に思っていて、きっと感謝もしている。結婚はせず同志のような二人の関係性もいい。

当時のフランドルの生活の様子やフランス革命などの歴史的出来事をフィクションの形ではあるが生き生きとした描写で知ることができるのも面白い。


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