湯浅永麻 × 大平貴之『 n o w h e r e 』コロナ禍の星空の下で生きる:ダンス × プラネタリウム
大平貴之氏によるプラネタリウム空間に、舞台上のスクリーンには映像が映され、セットのない舞台で、出演の湯浅永麻氏と柿崎麻莉子氏が踊る。Dance New Air 2020の上演作品。
自由席で、開演1時間前から開場し、スクリーンで映像が流されていたようだ。上演直前には、楽屋にいるふうの湯浅氏と柿崎氏が映り、湯浅氏がカメラに向かって語り掛ける。友人と星空を見て、命について思いを巡らせた話。
湯浅氏と柿崎氏が別々に踊り、コロナ禍(ロックダウン、緊急事態宣言)中に撮った自身のダンスの映像と一緒に、踊る。でも、同じように動いても、そのときの踊りはそのときだけのもの、というナレーションが入る。貴重な、今しかない「今」。
柿崎氏は妊娠中の大きなおなかで、妊娠発覚後の変化を語る。映像の中の妊娠前の姿と比べると、体の違いは顕著であるし、踊り方も少し違ってくる。
湯浅氏も柿崎氏も、ダンスとともに、英語の単語を声で羅列するなどして状況や感情を伝えようとする。
プラネタリウムで星が瞬くと、客席の客の体にも星が下りてきて、手を見ると星がきらめいている。
アフタートークでは、脳科学者で、大学院で芸術を研究中という中野信子氏も登場。シュテファン・ツヴァイク著『人類の星の時間』(何かが決まって、決めて動き出す時)の話や、わからなくてもいいからわからないまま存在を認める、考えるよりも感じる、以前はパンデミックには宗教に救いを求めたが今はアートに求める傾向があるのではないか、など。
パフォーマンスが劇場だけでなくいろいろな場所でいろいろなあり方で行われることがより認知されるようになった。ダンサーでなくても人として踊りはある。ダンスに興味がない人でも、ダンスに日常の延長としての何かを感じることはあり得る。ダンスには感覚を柔らかくする働きがあり、なんでもありのダンスの動きはそれが人間本来の姿であるのではないかと思わせられる。今の時代(特に2020年)、アーティストだけでなく一般の人も感受性が敏感になっているのでは。人類はあと数百年で滅亡するという説が濃厚。地球上の資源の枯渇などにより。今の人間の体は失われるが、シリコンチップやAIに脳の働きを移植して生き延びようと考える人たちもいる。銀河系でほかの知的生命体に出会えたら、人間はもう一段階「進化」するのかもしれない。
といった話も出た。
こうした少し哲学的(?)な話は、先が見えない現在の状況下で私たちが飢えているものかもしれない。
目の前で同じ空間で踊る身体の輝きと、すぐそこで広がっていく思索のうごめきを感じられる、行ってよかったと思えるパフォーマンスだった。
湯浅氏はダンスもすごいけれど、今回の作品のコンセプトや演出なども、変にこねくり回すことなく真摯というか、直接すーっと入ってくるものがあるというか、おかしなことが多い世の中だけど、こうしたものが世界に存在するならまだ世界も私も大丈夫と思えるというか、パフォーマンスに興奮しつつも心が安定するような感覚がある。映像の使い方も、凝り過ぎていなくて素直に生の舞台とつなげているところがよかった。
作品情報
パフォーマンス
2020年
12月24日(木) 18:30 door open 19:30 performance start
25日(金) 18:30 door open 19:30 performance start
26日(土) 14:00 door open 15:00 performance start
27日(日) 14:00 door open 15:00 performance start
※メガスター空間はパフォーマンスが始まる1時間前からご覧いただけます。
アフタートーク
12月26日(土)
湯浅永麻、大平貴之、柿崎麻莉子
ゲスト:中野信子(脳科学者/医学博士/認知科学者)
会場:スパイラルホール(スパイラル3F) 東京都港区南青山5-6-23
演出・出演:湯浅永麻
出演:柿崎麻莉子
空間プロデュース:大平貴之
映像:湯浅永麻、遠藤豊(LUFTZUG)、大平貴之
メガスターオペレート(大平技研):田中遥香、福島由幸
舞台監督:原口佳子
演出部:小野哲史
照明:田代弘明(DOTWORKS)
音響:浮岳厚(株式会社ストーリー・レーン)
映像技術:岸本智也
宣伝美術:太田博久
ウェブサイト:大須賀政宏
記録撮影:ユーリア・スコーゴレワ
記録映像:山城大督
Dance New Air
チーフプロデューサー:宮久保真紀
プロデューサー:平岡久美
スーパーバイザー:小林裕幸(スパイラル)、小野晋司
制作:岩中可南子、藤田恵利
当日運営:山口麻里菜、山下桃子、向坊衣代