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スロウハイツの神様。

最近私は新しいバイトを始めた。

理由は簡単で、元々やっていたホテルのアルバイトに飽きたから(そこも全然続けているけどね)

新しく始めたバイトは雑貨屋の店番のアルバイト。街の中にポツンと佇むその店で土日だけ、店番をする日々を今月から始めた。

最近はインバウンドで海外のお客さんも多いから忙しいけれど、十分暇な時間も多い有難いバ先。

暇な時間は本を読んで過ごしている。
採用試験が目の前で騒がしくなっている心が、その時間だけゆっくり流れていく。

⭐︎

「スロウハイツの神様」を読んだ。

本を読む時、私は大抵好きな場面、好きな言葉に出会ったらページの角に折り目をつける。スロウハイツの神様がどんな本だったかと簡単にいうと、その折り目をつける回数が多い本だったということだ。

ほんとはね、折り目とかつけるもんじゃないけどね!
記録のため!

脚本家、赤羽環がオーナーを務めるアパート「スロウハイツ」。そこで共同生活を送る、夢を追う友人たちの話。そのうちの1人は、人気作家のチヨダ・コーキ。彼は、昔自分が書いた小説で人が死んでしまうという事件に直面していた。そんな彼らの好きなことに没頭し、刺激し合う6人の物語。

というのが、私的あらすじ。

バイト中に本を読むという決して良しとはされないことをしながら、私はこの本を息をすることも忘れるくらいのめり込んで読んだ。そして、何度も確信つく言葉と、言葉の解像度に鼻の上の方がツンと痛くなった。

読書をして一つのnoteにまとめることはないけど、自分の記録として。
お付き合いくださいませ。


楽しみを全部断って自分を追い込む自己演出なんかしてるのは、贅沢で馬鹿な悩みだよ。

誰か他人のために頑張ってるっていう言いかたはこれから先もしないでね。狩野はそうじゃないよ。勝手に自分に酔ってるだけで、可愛い姪っ子の気持ちは、そこでは全部ないがしろだよ。きちんと生きてる他人とぶつかれ。

赤羽環

これは、住人の1人である漫画家を志す狩野に対して環が返した言葉。

漫画家で成果を上げるまでは実家に帰らないと啖呵を切った狩野に対して放った一言。

自分を追い込むことが美学だと思ってた自分(もう過去)にグサグサきた。

人間は弱い生き物です。
優劣感に浸りたい、誰かのせいにしたい。
人間同士が一番盛り上がる話題って、誰かの共通の敵の悪口だっていうし。
そういう彼らの欲を満たすところまで含めてバイトの仕事なのかもしれないね。
どうしよもなく嫌気が差すけど。

だけど、仕方ないよ。
自分で決めたんだもん。
そうそう、私、これで楽になったんだ。

赤羽環

これは、住人の1人であるバイトが長続きしない森永すみれにかけた一言。

きついことも、嫌なことも自分で決めたことと繋がってる。自分が決めたことならそれは、仕方がないんだ。この言葉で私の肩の荷もだいぶ降りたような気がした。

私は、不幸なんかじゃないよ!!

森永すみれ

この物語の途中ですみれと環は大喧嘩をする。
その仲直りの時にすみれが放った言葉。

誰かに縋っていないと生きていけない。その誰かが自分の夢である画家への関心を向けなくても、どうでも良くなってしまうすみれに、夢も自分もしっかり持つ環は苛立ってしまう。

この場面の既視感は半端じゃなかった。
自分が去年親友(彼女とは今はほぼ疎遠になってしまった)と喧嘩した日から、その言葉に噛み付くように生きてきたから。

私は、不幸じゃない。ちゃんと自分で幸せだし、自分の足で立ってる。他人に羨望の眼差しばかり向けて何もしていない人間なんかじゃない!と。

私も、すみれみたいに夢に向きあって、自分で歩いてる姿を本当は、彼女に一番見てほしいんだと思った。

未練たらしいカップルの彼女みたいでしんどいけど。本当に大切な友達だったから。だ。

いいことも悪いことも、ずっとは続かないんです。
いつか、終わりが来て、それが来ない場合には、きっと形が形容していく。
悪いことがそうな分、その見返りとしていいことの方もそうでなければ摂理に反するし、何より続き続けることは、必ずしもいいことばかりではない限り、望むと望まざるとにかかわらず、絶対にそうなるんです。
僕、結構知ってます。

チヨダ・コーキ

採用試験の日程は決まっていて、いつか終わるのに、「ずっと今の状況が続くわけじゃない」って言って欲しかった。

この言葉が本を読んで今の私に、すごく残ったので。

最後に。

大人になるのを支える文学。
それで構わないんです。
その時期が抜ければ、それに頼らないでも自分自身の恋や、家族や、人生の楽しみが見つかって生きていける。それでの繋ぎの、現実逃避の文学だと言われても、それでも構いません。
自分の仕事に誇りを持っています。
だから逃げません。

チヨダ・コーキ


これは、環に言ったセリフだけど、私にも力強く響いた。

思い返せば、辛い時、現実から目を背けたい時大抵私は本のページを捲っていた。

本にはちゃんと見方をしてくれる言葉があるし、その世界に入ってる時だけ、自分の頭の中の現実の濃度が少し薄くなった。

本が原因で起きた事件のせいで、自分の仕事への価値に疑問を抱いていたチヨダコーキのこの一言の頼もしさ。

縋った文学が原因で、現実から逃避しても、それが間違っていたと学べる文学であればいい。

その子が少しでも辛い現実から目を背けられる文学ならそれはそれでいい。

そんな意味がこめられていて、

なんて、優しい言葉なんだろうと思った。


⭐︎

言葉だけ並べたけど、話の構成が巧みすぎてため息が出るから是非。

多分、あなたの人生の教科書になります。


東野圭吾から有川浩。江國香織に山本文緒、吉本ばななに、村上春樹。伊坂幸太郎にハマってきたけど、辻村ブームが到来しそう。



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