「偉大」な双極性障害

僕は2年間うつ状態にあるのだが、たまにボーナスタイムのような時期があって、この時期に本をたくさん買ってしまう。躁状態かもしれないと言われた時に、俄然、双極性障害に興味が湧いてきて、双極性障害に関する本や双極性障害だったであろう偉人の本を買いまくった。ゲーテにゴッホ、ベートーヴェン、ヘミングウェイなどその他諸々の本を買い漁った。ただ、そのボーナスタイムが終わりを告げて、また深い鬱がやってきたときに、どうして彼らの本なんか買ってしまったんだろうと後悔することになる。どう見積もっても読みたいと思えないのだ。双極性障害に関する本を読んでいても参るだけだった。唯一の例外として、坂口恭平さんの『躁鬱大学』は参らなかったが、その他の医学書や体験談の本は読んでいると参ってきてしまう。また、偉人達の本も何だか小難しい感じがして読む気にならないのだ。

僕は一時、双極性障害だったであろう偉人達を調べていたことがあった。なぜそうしていたかというと、彼らに関する本を読むことで何かヒントがあるのではないかと思った。また、「僕も双極性障害であることで、何か特別な才能があるのかしら」と浮かれていた。もちろんそんなことはなかった。まあ結局偉人達の本は小難しい雰囲気が漂っていたので、鬱の時期には読めなかったのだが、読んだところで何のヒントにもならないだろう。こうした精神疾患を患っていたであろう偉人たちのことを、北杜夫さんは「偉大」な精神病者と呼んでいた。最近こういった、「偉大」な精神病者が現れないことを北杜夫さんは憂いていた(と思う)。

うつ病、双極性障害、統合失調症、発達障害を患う人の中には特殊な才能を発揮する人がたまにいるらしい。でもまあやはり、「たまに」なのだろう。いたとしてもごくわずかなのだ。大半は平凡な人間なのだ。ちなみに僕は坂口恭平さんは「偉大」な精神病者だと思っている。彼の本を読むとかなりこちら側に降りてきてくれている印象があるが、やはり彼は「偉大」だと思う。別になる必要はないのだけど、僕は彼のようにはなれないと思った。もちろん、坂口恭平さんのことは好きだ。本も面白い。参考になる点は参考にする。ただ、同じ双極性障害といっても、当たり前だが違うよな、と思ってしまう。それはそうで、双極性障害だからこういう人間だとか、こういう性格でとか、そんな定義はできないと思うのだ。双極性障害がどうあれ、人は一人一人違うのだ。だから自ら生き方を探っていかなくてはならない。

Youtubeなどで双極性障害に関する啓蒙活動を行っている人がいる。「啓蒙活動」という言葉が当てはまるのか分からないが、双極性障害に関することを熱心に発信されている方がいるのだ。その方のYoutubeをたまに見ることがある。それを見ていて、双極性障害の症状について、例えば、軽躁状態だとか混合状態だとか、うつ状態について少し過敏なのではないかと思ったが、まあそれはいいとして。その方が双極性障害を患う「普通」の人にインタビューしている動画がある。僕ら平凡な精神病者が参考にすべきなのは、「偉大」な精神病者ではなく、「普通」の精神病者なのだ。彼らがどのように病気を受け入れ、そして、社会と関わっているのかが一番重要なのだ。

また、そのYoutubeで双極性障害に関する啓蒙活動をしている人のTwitterを見たのだが、その方も双極性障害と診断されたときに、双極性障害を患っていたであろう偉人を参考にしたらしいが、参考にならなかったらしい。結局身近にいる「普通」の双極性障害を患った人をロールモデルにしたほうがいいと気づかれていた。これはその通りだと思う。だから彼は、インターネットを通じて双極性障害を患う「普通」の人にインタビューをしている。そう。身近に双極性障害を患う人を見つけるのは難しいのだ。だから実際に出会うのが難しい。

まあ、双極性障害を患っているからといって、上に書いたように皆同じような人間かというとそうではないのだろう。病気と認めていない人もいれば、薬を飲みたくない人もいる。また、コントロールの仕方も人によって異なる。それは自分で見つけていくしかないのだ。そりゃ僕だって、坂口恭平さんのように、絵を描いて、曲を作って、本を作って、それで鬱が治って食べていけるならそうしたい。ただ、僕にはそれが向いていないんだろう。平凡なあるいはそれ以下の人間なのだ。彼の本が好きで読むのだが、彼の本を読むと僕はサラリーマンに向いているなと思う。これをやるならサラリーマンをやっていたほうが楽じゃないかと思ってしまうのだ。だから僕は「偉大」になることをあきらめて、「普通」を取り戻すことにした。だから今は精神科のデイケアに通って、次に作業所に行こうと思っている。そして、作業所に慣れたら、アルバイトをするか就職活動をしようと思っている。こうした地道なコツコツとした努力が必要なのだ。これが「現実」なのだ。

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