施設という所3

続きです。

さて、残りのA職員の話です。
A職員という人は、
一見穏やかで、怒鳴ったりはしません。
どちらかというと、にこにこして
人あたりも良さげに見えます。
担当としては、事務所にいて
いろんなことをする人、とでもいうのか、
園長先生の娘と結婚していたので、
たぶん偉い位置にいた人なのだと思います。

A職員の噂は、子供たちの間に
流れていました。
どうも、ひどい暴力をふるうと。
K職員などとは比べ物にならないほどの
暴力を振るう、と。
A職員は、にこにこと笑いながら
嫌味を言ったり、人を馬鹿にすることを
言ったりします。
きっとモラハラな人間だったのでしょう。
けれど、一見外面がいいので、
誰も表立っては何も言いませんでした。

ある朝、草むしりの作業がありました。
学校へ行く前にみんなで作業します。
私の班はみんな近くで
作業していました。
小学生の子もいたので、声掛けなどを
しながら作業していました。
するとA職員がやって来て、
「無駄話をするな。」と
低い声で言いました。
いつものウソ笑顔はなく、
不機嫌そうでした。
私は返事をせず、そのまま作業を続けました。
隣で作業していた小学生が
話かけてきました。
私は「しーっ」と小学生に
話さないように言いました。

その時

髪の毛を突然つかまれて、
「しゃべるなって言っただろ。」と
A職員が私に言いました。
「しゃべっていない。」と
私が言うと、髪の毛を掴んだまま
その場から私を引きづって
連れて行こうとしました。
近くにいた保母さんが
「やめてください。」と
止めてくれたのですが、A職員は
「はあ?」と言うと
私の髪の毛をひっぱって、
女子部屋まで乱暴に連れていかれました。

部屋に入って、髪の毛を掴んだまま、
私は転ばされました。
顔を上げると、両頬が連続して
熱く痛くなりました。
往復びんたをされたのです。
何度も何度も
往復びんたをされて、倒れこんで
横目でA職員を見たとき、
A職員は、ニタニタと笑っていました。
「こいつ、やばい奴だ。」と気づきました。

「お前、前から思ってたけど、
生意気だよな。いつ締めようかと思ってたんだよ」
とA職員は言いながら、
倒れている私のお腹に蹴りを入れました。
何度も何度も、ビンタしたり
お腹を蹴ったり、もうボコボコに
されました。
こういう異常な奴に逆らうと
言うことをきかせようと、さらに
暴力がひどくなるので、
気がおさまるように、サンドバックに
なりました。
頭の中でぼーっと
「父親に殴られ慣れておいて良かった。」
と思いました。
自然と受け身というか、
被害を最小にする自分の庇い方というか
身についていたのですから。

時間にして20分くらいでしょうか、
A職員が腕時計を見ると
「もう時間か」と言って、
私に「余計なことは言うなよ」と
言い残すと、部屋からいなくなりました。
倒れてほっとしていると
保母さんがすぐに部屋に入ってきました。
保母さんは泣いていて、
「止められなくてごめんね」と
言いながら、手当てをしてくれました。
思ったよりも頬が腫れあがっていたので、
その日は学校を休むことになりました。

一番質の悪いのは、このA職員でした。
良い人のふりをした、サディストなのですから。

その後、数年して私は施設を出ることに
なるのですが、だいぶ後にA職員は
その施設の園長になりました。
そして、ネットのニュースでしか知りませんが、
施設を私物化したらしく、
保母さんたちの反乱に合い、
園長の座を追われたそうです。
現在、あの施設はどうなったのでしょう。
今もあることは知っていますが、
知っている人が誰もいなくなってしまったので、
少しでも環境が良くなっているのか、
またはそうでないのか、
知るすべはありません。

施設に入る子供たちは、
入りたくて入るわけではありません。
皆、責任を取らなければならない大人が
その責任を放棄したため、
本人の意思に関係なく、
施設に入れられてしまうのです。
決められたことに抗うことも、
かといって一人で生き抜くことも
できない弱い子供たちが
集まってくるのです。
施設は、そういった子供たちの
心身の健全な成長を助ける場です。
規則やしつけもあるでしょう。
決して、幼い女の子にいたずらしたり、
サディストの欲求を満たすところではないはずです。

それでなくても不条理な目に合ってしまっている
子供たちが、
安心して大人になれる場所。
そういった場所になってほしい、心から
そう願います。

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