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とあるJKの日常譚 #1

Case1 おちこぼれ

 新生活という名の地獄が始まって、早4か月。地域で1番の進学校に入学し、きらきらのJKを謳歌するものと思っていた。でも現実はそんなに甘くなくて。あっという間におちこぼれ街道まっしぐら。これまでは普通よりは出来る方だったから、結構堪えた。自分はそんなにだめだったのかって。返ってきたテストの点数を見る度、落ち込んで落ち込んで、泣いた。頑張らなきゃいけないのは自分が1番よく分かってるし、このままじゃだめなのもよく理解してる。
 何でもいいから、頑張る理由が欲しかった。『将来のため』って言う漠然としたものじゃ、あまりに柔らかくて、弱くて。
 すべてが変わったのは、夏休み明け。ひとりの教育実習生がやってきた。とても頭のいい大学の学生さん。たまたま私のクラスにつくことになった。わたし達の高校の卒業生で、私の所属している放送部出身。   その人はやすひろさんといった。他の生徒からはやっさん先生と呼ばれ、親しまれていた。明るく優しくて面白い、国語の先生。やっさん先生の授業は楽しくて、今まで以上に国語に興味を持った。
 やっさん先生の声を聞いていると、心臓がきゅっとなる。私もこの人みたいになりたいと思った。そのとき、私に目標が出来た。やっさん先生と同じ大学に行く。これは、私の中で揺るぎない決意に変わっていった。
 やっさん先生がいたのはたった三週間。その短い間に、私は変わった。いや、変えられたというのが正しいかもしれない。やっさん先生はもういないけれど、あの声を思い出すと心臓がきゅっとする。あのときとおなじように。
 この想いの名前は、『憧れ』ということにしておく。
またいつか会えたら、この気持ちの本当の名前を、あなたに告げたい。
 それまで私は、努力を続ける。


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