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たまたま読んだ本26:「世界が分かる資源の話」資源の多い国はどこ? 牛、アボカド、半導体に共通するのは? 日本に多い資源は?


世界がわかる資源の話

IT技術により世の中はますます便利になっていく。
でも、電気がなければ何も動かない。
そう、人の生活には様々な資源が必要だ。

同書では、電気代の高騰、石油不足、世界的な半導体不足、ロシアのウクライナ侵攻と天然ガスの関係、レアメタルの争奪戦、SDGsにエコテロリストなどなど、現在進行中の世界を正しく理解するため、そのカギとなる資源の話を進める。

まず、生きて行くために必ず必要な水の話。
水を満足に手に入れられない人々は世界には10億人もいる。彼らが1日に消費する水の量は5ℓに過ぎない。日本人は300ℓで実に60倍にもなる。
水が豊富な日本でウォーターサーバーが売れている。
水道水を飲み水としている日本人は43.9%。ミネラルウォーターが33.9%、浄水器利用が28%という。

世界的には人口増加で、2050年には年間3800k㎥、すなわち地球上の全淡水量の水が必要になると予測され、水紛争はこの20年間で676件も発生した。特にイスラエル、ヨルダン、レバノンの中東、なかでもガザ地区は特に深刻だという。

雨水や海水の利用も進み、海水を淡水化する施設は世界に約1万6000か所が存在しているが、余った濃い塩水の処理に課題がある。

今後は、エアコンや洗濯機などの電化製品からでる排水の再利用など、水の供給だけでなく排出も考える必要がある。
仮にラーメンの残り汁(一人前200ml)をそのまま流した場合、魚が住めるような水にするためには浴槽3.3杯分(990ℓ)の水で薄める必要がある。
下水処理場の重要性が分かる。因みに原発処理水って放射性物質を取り除いた後、何倍に薄めているのだろう?

人間が生きるには酸素がいる。
その酸素は森林が作り出している。植物による光合成の60%は熱帯で行われ、世界最大の熱帯雨林、アマゾンでは、大気中の酸素の20%も供給し、地球の肺と呼ばれている。でも異常気象や干ばつ、火災、森林伐採、焼畑農業などで4分の3以上の範囲で現状回復力が弱まっている。
地球温暖化を防ぐために二酸化炭素をこれ以上増やせない。森林は二酸化炭素を取り込み酸素を供給してくれる。各国は森林を増やす政策を取り、特に技術開発して砂漠に植林できれば黄砂もなくなるだろうに。

気候変動については、気温が2℃以上昇すると、サンゴ礁は死滅し、海面は10cm上昇し、1.5℃上昇時より1000万人以上が洪水の影響を受けるという。
気温と相対湿度を組み合わせた湿球温度が35℃を超えると人間は数時間で死に至る。インドが世界初めて35℃を超える場所になると予想されている。

身近な牛丼。1杯につき、約540ℓの水と約1㎡もの農地が必要で、1㎏の牛肉を生産するためにおおよそ11㎏の穀物が消費される。牛はトウモロコシを食べないが、食べられるようにする抗生物質で効果的に栄養を摂取させられるようになり、5年かけて育てっていた牛が今や生後14~16カ月で出荷されている。トウモロコシは化学肥料や大量の除草剤で作られている。牛肉はとにかく手間とコストがかかる。牛のゲップも温暖化の原因だ。

ついでにアボカド。
アボカド1Kgの栽培には2000ℓもの水が必要。同量のトマトを栽培するのに必要な水の10倍にあたる。人間一人の最低限度の生活に必要な水は50ℓなので、アボカド1個で8人分の水になる。栽培地のメキシコでは小川や井戸から水が汲み上げられ深刻な干ばつが起こった。これじゃ、アボカドを食べるのにも気を遣う。

エネルギー革命にも功罪がある。
①火の利用。火を通した食べのもは消化しやすく多くの栄養が取れ、人類の脳は大きく発達した。
②太陽エネルギー。定住して農耕生活。人類は1万年の間に約100倍に膨らむ。
③蒸気機関車の産業革命。コークスの発明。熱エネルギーから運動エネルギーへの変換。油田の発見。CO2の排出、温暖化へつながる。
④発電機による電力エネルギー。これがないと現代社会は成り立たない。
⑤大気の約80%を占める窒素から人工肥料をつくり出す。人口の爆発的増加。20世紀初頭16億人がいまや80億人を越えている。昔はペルーの鳥のフンの争奪戦があった。今は人口肥料の使い過ぎが土壌と環境を悪化させている。自然農法への回帰が始まっている。

この他のエネルギーは、後40年でなくなると言われる石油よりCO2排出が少なく発熱量の多い 天然ガス。CO2排出が少ない凍った氷のメタンハイドレートは採算性のため大規模開発の試験中。石炭は132年分の埋蔵量があるが、中国、インドの産業需要が増大している。原子力は放射性廃棄物の処理問題でトイレなきマンションといわれている。

さて資源外交に使われる問題の鉱物資源。
飛びぬけて多いのが鉄の鉄鉱石。さびて自然に帰り、溶かしてリサイクルもできる地球にやさしい資源。

これから普及する電気自動車(EV)。その価格の1/3はバッテリーの価格という。リチウム、コバルトなど必要なレアメタルの産出には環境汚染が問題となっている。
半導体不足で工業製品の生産の遅れが問題となったが、半導体生産には大量の水を使う。台湾では干ばつを起こしたほどだ。その半導体工場が日本にやってくると地元では大歓迎だ。

資源は、中国やロシアが強いのだが、日本の資源は石灰石にヨード、それと都市鉱山と呼ばれる工業製品から回収されるインジウムは世界3位である。
産業のビタミンといわれるレアアースは5~9割が中国に集中している。天然ガスはロシアの埋蔵量が1位だ。ウクライナ侵攻により孤立したロシアから中国が非常に有利な条件で輸入しているという。

年間4000トン算出される金の80%は宝飾品に加工される。プラチナは60%が工業製品に加工されるが年間200トンしか算出されない。南アフリカやロシアの限られたところでしか産出しない。

リチウムイオン電池の原料、リチウムは南米ボリビアの鏡のように映るウニュ塩湖で産出する。中国のEV電池生産企業が現地の企業と契約し開発権を取られたと話題になった。
バッテリーに必要なコバルトも埋蔵量が710万トンで、30年以内に枯渇する計算となる。コバルトに頼らない電池の開発が急務となっている。

未来の資源として、宇宙で太陽光発電し、マイクロ波で地球に贈る研究もされている。
またジオエンジニアリング技術により地球環境を変える研究もなされている。
などなど、同書には、資源だけでなく、SDGs問題などに関することも記載されている。

資源問題と気候温暖化なども広く浅く掲載されいるので、資源問題を深く読んでみたい人には物足りないが、世界の資源争奪に関する動きなどを知る手助けにはなるだろう。

世界がわかる資源の話

出版社:大和書房
発売日:2023/6/10
ページ:176ページ
定 価:1,760円

著者プロフィール
鎌田浩毅 (かまた・ひろき)
1955年生まれ。筑波大学付属駒場高校卒業。東京大学理学部地学科卒業。1979年通産省(現・経済産業省)入省。 通産省主任研究官、米国内務省カスケード火山観測所上級研究員を歴任。1997年より京都大学大学院人間・環境学研究科教授。理学博士(東京大学)。2021年4月より京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授、京都大学名誉教授。「世界一受けたい授業」「情熱大陸」「ようこそ先輩 課外授業」「グレートネイチャー」などに出演。著書も多数。

トップ写真;イチョウ

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