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2PAC〜THUG LIFEの真意〜

 「THUG」という言葉をご存知だろうか?

 THUG(サグ)とは、「悪党」や「チンピラ」のことを指す言葉である。「不良の音楽」や「不良の表現方法」と形容されがちなHip Hop界にとっては非常に身近な言葉である。

 このTHUGという言葉で一際有名なのが、伝説的ラップ・アーティスト 2Pac※1の腹部に刻まれた「THUG LIFE」というタトゥーであろう。

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 直訳すると「生涯チンピラ」という意味になるのだが、このTHUG LIFEはそのような意味では使われていない。このTHUG LIFEは「The Hate U(You) Give Little Infants Fucks Everybody」の頭字語なのである※2。

 これは「子供たちへの憎しみが皆を蝕む」という意味になる※3。そして、このTHUG LIFEには生前2Pacが楽曲や数々のインタビューで度々訴えていたアメリカという国家社会体制の腐敗に対する批判が込められている。「Words of Wisdom」という楽曲内の以下のような一節はその例である。


麻薬には「NO」と言っているが、

政府が我々のコミュニティーに麻薬を氾濫させ、結束を潰している。

悪夢。それが俺だ。

アメリカの悪夢。

アメリカという国が俺を作り出した。

アメリカが我々に与えた憎しみと悪によって。

<Words of Wisdom / 2Pac>

 2Pacをはじめ、Hip Hop界(主にラップやグラフィティ)においてアメリカという超大国は度々批判の的となっている。その数々の理由の中でも最も有名で極悪な事件が「CIAによる戦争資金源調達」である。

 上述した2Pacの歌詞の例でも、「政府によって麻薬がアメリカに氾濫された」という一文を紹介したが、アメリカでは陰謀論ではなく公然の事実として認知されている(アメリカ政府は否定しているが)。

 レーガン政権の80年代以降コカインがアメリカ都心部に蔓延したのだが、その麻薬売買の親玉がアメリカ政府そのものだったのである。

 この背景には、1980年代にニカラグア国内で勃発した「コントラ戦争」が主な要因となっている。

 コントラ戦争とは、ニカラグア反政府軍(コントラ)と、当時ニカラグア政権を独裁していた政府間の内戦である。ただし、反政府軍をアメリカが支援(組織)、ニカラグア政府をソ連が支援していたため、冷戦時代における米ソ間の代理戦争なのである。

 この戦争のための資金が必要だったアメリカ政府は、CIA(中央情報局)とDEA(麻薬取締局)を介して、ニカラグア反政府軍からアメリカのギャングに麻薬を売買していたのである。

 この事件の全貌は、Hip Hopドキュメンタリー映画の「Letter to the President」の中で詳細に描かれている。

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 映画内では、この事件を解明・暴露したゲイリー・ウェッブ※4のインタビューも含まれており、信憑性の高い作品となっている。

 同映画によると、ニカラグアから麻薬を調達したアメリカ政府は、麻薬を素早く売買でき、警察の目を盗める場として、スラムに目をつけた。スラムでは人殺しさえ黙認され、麻薬の売買も騒がれないからである。つまり、スラムの住民である黒人をはじめとした有色人種が格好の顧客となったわけである。

 この映画内で、Hip Hop界の生ける伝説Jay-Zはこのように語っている。

政府にとってバレるとヤバイことを音楽で語りかける。子供達に聴いてもらいたいことだ

 日本でのラップ・ブームは非常に嬉しいことであり、非常にラップ技術が高くリリカルなラップ・アーティストも見聞きする機会が増えた。一方で、メインストリーム向けの「セル・アウト」的楽曲など、内容の陳腐な楽曲で溢れはじめていることもまた事実である。

 20年前、Shing02というバイリンガル・ラップ・アーティストが「緑黄色人種」というアルバムをリリースした。彼のリリックによって描かれた社会描写、独特の世界観は未だに色褪せることはない。

 今日においてもShing02のような、教養深く、知的なリリックを放つ若者のラップを聴いてみたいものである。

(筆者が最近のラップ事情の勉強不足なのかもしれないが。。。悪しからず)

※1:アメリカ西海岸を代表する伝説的ラップ・アーティスト。ニューヨークの伝説的ラップ・アーティストNotorious B.I.G.との激しいラップ論争(ビーフ)を経たのち、1996年に銃殺された。伝説的且つ有名すぎるのでもはや説明は不要であろう。

※2:Hip Hopにおける頭字語文化は、以下を参照。

※3:Infantは幼児を指す語だが、LIFEという言葉とかけるためにも、Infantを用い、広い意味での子供を指しているのであろう。

※4:ゲイリー・ウェッブが暴露したCIAの麻薬取引関与については「Kill the Messenger」という実話に基づいた映画もあり、一見の価値がある。また、ゲイリーは2004年に頭を銃で打ち抜き自殺したのであるが、他殺説もある。(これだけの事件を暴露したからには、政府から狙われても疑いようがない)

【同記事はアメブロに投稿した記事の再投稿である】

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