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現実的に考える、とは

こんにちは、りさです。
最近こまめに書いているのは、修論のプレッシャーから逃げたいからかもしれません。

このあいだ初めてオランダの冬の風物詩、Olliebolを食べてみました。Olliebolとは、直訳すると「油玉」(すごい直球だな)。名前から想像できるように、甘い小麦粉ベースの生地を揚げたドーナツみたいなお菓子です。10月ごろから街のそこらにOlliebollenの屋台が出はじめます。これを食べながら街歩きをするのがオランダ流、なのかしら。

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食感は弾力があって、ふわふわのドーナツをイメージしていたわたしには驚きの味わいでした。もしかしたら揚げてしばらく経っていたからかも。でも、甘すぎずモチモチでおいしかったです。また食べてみたいな。

さて、話かわって、今回はある本を紹介したいと思います。

日本語版のタイトルは『Humankind 希望の歴史』。
いや~、これがおもしろかった。
この本に興味をもったのは、話題になっていたからというのもあるけど、何よりユヴァル・ノア・ハラリ(『サピエンス』の著者)とこの本を書いたルドガー・ブレグマンが対談をしていたことがきっかけです。

今を時めく二人の思想家の対談。先の見えない時代のなかで、彼らの世界の解き明かし方はわたしたちに新しい視点を与えてくれます。

ちなみに、ルトガーはオランダ人で、わたしが今学んでいるユトレヒト大学の卒業生なんですって。この前街でトークイベントにも出ていたし、なんだか身近に感じてしまいます。

この本は「現実に考える」こととはなんなのか、新しい気づきを与えてくれました。

たとえば、「現実的に考えなさい」って言われたら、それはどういうことを意味していると思いますか?たとえばあなたが人類は平和になれるとか、夢をかなえたいとか、そういうことを言ったときの誰かの返答かもしれません。「そんなこと無理だから、考え直しなさい」というようなニュアンスの、否定的な意味だと感じませんか。

こういう「皮肉な態度 "cynisim"」が「現実的 "realisitic"」の同義語になってしまっている現状に、著者は疑問を投げかけます。著者は繰りかえし、様々な(科学的なものを含む)データや例を用いて、人間は善いことをしたがる生き物であると言います。この主張は、「人間の本質は性悪であるが理性によって表層が繕われて体面を保っている」という現代では一般的な理論に、真っ向から勝負を挑んでいるのです。

彼は人間を"homo sapiens"のかわりに、"homo pappy(子犬みたいなヒト)"と形容します。身近な人への思いやりに溢れた人懐っこい生き物なのだ、と。一方で、身近な人を大切にするあまり、遠い存在の人への同情が欠けていたり、むしろ反目してしまう傾向があるといいます。これが対立や争いの原因にあるわけなのですが、あくまでこれが性善に起因していると主張します。つまり、うすっぺらい理性がはがれたときに人間の本質(性悪)が現れるのではなく、あくまで本質的にわたしたちは人懐こくもなりうるし、人々を不当に区別しうる、というわけです。

そんな人間の本来の性質に目を向けたとき、現実的であること、とは性悪説にもとづいて皮肉になること (cynicism)、なのでしょうか。

これに対して、著者ははっきりと、「皮肉な態度をとるのは、怠けているのと同じことだ "cynicism is just another word for laziness"(p. 395)」と言います。どうせ他の人はズルをしているんだから、という考え方で税金を支払わなかったり、寄付をすることをバカにしたりするようなことは、結局怠惰に飲み込まれて責任を放棄しているのと一緒だというわけです。

人間の本質は「善い」のである。この前提を踏まえたうえで、「現実的」になろう。ルトガーはそう語りかけます。勇気をもって、人を信じて、堂々といいことをしよう、と。最初のうちは未熟で世間知らずに見えるかもしれないけど、それは世間があなたに追いついていないから。

わたしたちは、偽善、自分に酔っている、といった言葉を前に縮こまりがちです。そんな「善いこと」をする勇気が足りないわたしたちに、この本はそっと背中を押してくれます。もちろん、善意のつもりで人を傷つけることもありますから、それには気をつけないといけないけど。

個人的に読んでよかったなと思うのは、サステナビリティの考え方について異なる視点を与えてくれた点です。以前から、持続可能な社会の実現は(自己中心的で破壊的な)人間の本質からして、トップダウン式の規制やルールが一定必要だという思いをもっていました。でも、この本はわたしのこの考え方にゆるくブレーキがかけました。Elinor Ostromのコモンリソースの共同管理の考え方ともリンクするのですが、よりよい「共同、協働」の可能性はもっとあるなと感じます。わたしの考え方含めて、いまの社会の成り立ちの多くは性悪説にもとづいています。この事実を客観的に眺める視点を手に入れた今、わたし(たち)はこれからどんな世界を築いていきたいか、この本は問うているような気がします。

ところで、本のタイトルの"Humankind(人類)"には、"kind"という言葉が含まれています。これは「種」という意味の"kind"ですが、ここには"kind"のもう一つの意味、「親切な」という意味を掛けているのかもしれません。

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ちなみに彼は富裕層への高い課税を強く主張していて、この件でFOXニュースのタッカー・カーソンとひと悶着していました。かなり大胆なルトガーの指摘とタッカーの怒り具合がすげーおもしろいです。

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となりのお家からかな、エレクトーンの音が聞こえる。じょうず。みんなどこかでつながっている。そう思わせる、日曜日の夜。


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