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悩ましきカーボンオフセット

こんにちは、りさです。

今週末にスペインに飛行機で行くため、先日カーボンオフセットをしました。

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はて、カーボンオフセットってなんでしょう。

カーボンオフセットとは、Carbon = 炭素 (CO2を指す)  + Offset = 相殺 という成り立ちが示唆するように、個人や企業が排出する二酸化炭素を、二酸化炭素排出を削減しうる別の活動を促すことで「なかったことにする」仕組みです。例えば、企業が植林や風力発電プロジェクトを支援して自身のCO2排出を相殺することは、カーボンオフセットの一例です。木は成長の過程でCO2を吸収し、風力発電は化石燃料発電よりCO2排出がずっと少ないため、これらの活動を支援することはCO2削減につながる、という考え方です。

この仕組みは、日本では2008年ごろににわかに注目されるようになったそうです。これは京都議定書の内容をうけて(2008年~2012年のCO2平均排出量を1990年比で6%減らすという目標)環境省や各企業が大きく動いたからでしょう。当時はカーボンオフセットつきの飲料やはがきが世に出回っていたそうです(*1)。そういえば「チーム・マイナス6%」という謳い文句もこのころによく耳にしていました。

さて、このカーボンオフセットという制度、

① わかりにくい
② いいこととは限らない

という側面があります。
①と②について、個人的なカーボンオフセットのリサーチと経験からわかったことを共有したいと思います。

① わかりにくい

横文字ってたいていとっつきにくいですよね。かっこいい感じするけど、実際よくわからんみたいな。カーボンオフセットについては、定義もなんかわかったようなわからないような感じなうえに、内容もちょっと複雑です。

よくわからん感じがする原因は、

(1)目に見えないCO2をそもそもどうやって測るの?
(2)ほんとうに「なかったことにする」ことなんてできるの?

といった疑問がわいてくるからじゃないでしょうか。それぞれ、簡単に説明したいと思います。

(1)測定の方法
基本的な計算式はシンプルで、「活動量 × 排出係数」です(*2)。活動量というのは使用した電力量や、電車で移動した距離、排出したごみの量などのこと。排出係数とは、単位量当たりの温室効果ガス排出量のことです。例えば自動車が1km走ると〇kgのCO2が排出されるということがわかっていれば、これを排出係数にして、では100km(活動量)走ったらどうなる、と計算ができるわけです。

この排出係数をどう定めるかによって計算結果が大きく変わるわけですが、じっさい算定ツールによる計算結果のギャップは大きいみたいです(*3)。自動車の例だと、車の燃費のよさや運転のしかたなども大きく排出量に左右されるので、完全に把握することは難しいのが実情です。

今ではたくさんのプロバイダー(オフセットプログラムを提供している企業・団体)が独自の算定ツールを無料で公開しています。

(2)「なかったことにする」とは何か
CO2は目に見えませんし、一度排出されると大気全体と混ざってしまい、排出した分のCO2を取り戻して汚染をなくすということは実質的に不可能です。じゃあどうするか、ということで考えられたのが「相殺する」というアイデアです。排出するのはどうにもならんとしても、その排出分(CO2はtやkgといった重さで測ることができます)を明らかにし、その分のCO2排出を減らせる他のプロジェクトを応援することで、出しちゃった分を「なかったことにする」というアイデアです。

例えば、ある製品を製造するのにかかるCO2を、同じ量のCO2削減が見込めるインドネシアでの植林事業に寄付することでオフセットします、とか。

どうでしょう。ちょっと胡散臭い?その直感は間違っていません。
オフセットはいうなれば苦肉の策で、最善の策はそもそもCO2を排出しないこと、もしくはその排出量を可能な限り低減することです。ですから、オフセットしたから排出しまくっていい、というのは間違いです。でも、「わたしたちはカーボンニュートラル(カーボン排出±ゼロ)です」なんて宣伝していたら、いい企業だと思っちゃいますよね。

植林や再生可能エネルギーを促進すること自体は全体のCO2削減に貢献するはずですが、そうした事業をどう運営するかが鍵になります。

②いいこととは限らない

あなたはカーボンオフセットをしました。あなたのお金でオフセットプログラムが支援されます。Voala! あなたのCO2排出量はきれいさっぱりなくなります!

なんてことは、残念ながらありません。ううん、もしかしたらあるかもしれないけど、かなりレアケースでしょう。

どのようにカーボンオフセットをするかが問題だと先に言いました。そうなのです、よかれと思ってカーボンオフセットしたところで、適切な方法で行わないとむしろ負の影響を及ぼすこともあるといわれています。

負の影響というのは例えばこんなものです(*4)。

1. 確実な排出削減につながらない
2. ダブルカウンティグ(CO2削減量を二重に数えること)の危険性がある3. 先進国国内の低炭素社会へのシフトが遅れる
4. カーボン・オフセットを目的とした事業により土地収奪、現地住民や先住民族の権利侵害等、環境社会影響や紛争が多数生じている
5. 温室効果ガス削減量が優先され、火力発電、ダム開発、炭素回収・貯留、単一植林、時に原子力発電まで対象事業となり、持続可能な開発に反する事業も多い
6.透明性、セーフガードが不十分で、排出権購入者もどこでどのように排出削減されたか確認しにくい 

1.については、カーボンオフセットが「CO2削減効果が見込めるプログラムを支援する」ことで排出をなかったことにするという仕組みであることから、避けて通れない批判です。
2.は少しテクニカルですが、プロバイダーや政府がどうCO2削減量を適切に管理していないと、削減量を多く見積もってしまうこともありえます。
3.は、「オフセットをしているからCO2を排出しても大丈夫」というロジックが成り立ちうることからです。
4.~6.はオフセットプログラムの質にかかわるもので、これを究極的に保証することは難しいでしょう。寄付したお金がちゃんと使われているか問題はどんな支援プログラムにもついて回る問題だと思いますが、オフセットプログラムの場合は特に、場合によっては環境や社会に悪影響を及ぼす可能性があるということです。

結局、オフセットした

わたし自身も、カーボンオフセットをするか否か、ちょっと悩みました。同行する友だちは制度に否定的で、わたしもネガティブな情報をすこし耳にしたことがあったからです。

でも結局わたしはオフセットをしました。リサーチの結果、「適切な団体の適切なプログラムを選べば、プラスになってもマイナスになることはないだろう」という結論にたどり着いたからです。

オフセットプログラムを提供しているプロバイダーはたくさんあります。航空会社がプロバイダーと提携している場合もあって、日本ではJALやANAが同様のサービスを提供しています。

オフセットについてのガーディアンの記事を読んで、どの団体が信頼できそうか調べました。

結果として、わたしは"Gold Standard"を選びました。環境NGOのWWFがバックアップしていて、検証済みのプロジェクトが提供されているからです。サイトが見やすいのもポイント。

Gold Standardは算定ツールをもっていないので、他のプロバイダー"Carbon Care"の算定ツールを使ってCO2排出量を計算しました(*5)。ちなみにこのプロバイダーを選ばなかったのは、プロジェクトが一つしか選べずちょっと信頼性に欠けると感じたからです。

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アムステルダムからバルセロナまで、3人分の往復で排出されるCO2はおよそ「1.16t」です。ちなみに同距離(およそ2500km)を列車で移動した場合の排出量は「0.26t」ですから、4倍以上の差があることがわかります。飛行機が環境に悪いといわれている所以です。

飛行機での移動以外にも、列車での移動や食事、滞在先でのエネルギー利用をふまえて、繰り上げして「2t」分を今回オフセットすることにしました。

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オフセットの手順はシンプルで、オンラインショッピングをするみたいに、興味のあるプロジェクトをカートに入れて決済します。わたしは1tずつ2つのプロジェクトを選びました。1つは、複数のプロジェクトから支援組織がポートフォリオを組んで支援金を分配するもの。もう1つは、インドの女性のために燃費効率のよいキッチンオーブンを提供するもの。

プロジェクトによって支援金額が変わるのですが、今回は合計30$でした。高すぎず、安すぎず。こういうのって、懐がちょっと痛むくらいの金額が適正だと思います。

そんなわけで無事冒頭の証明書を手に入れたわけですが、これらのプロジェクトが最後まで適正に遂行されるか、はたまたわたしのCO2排出を「なかったことに」してくれるのかはわかりません。引き続きプロジェクトの進捗などはサイトでのぞいてみますが、効果が出るのは数年、もしかしたら数十年後になるでしょう。2t分の削減効果があるかも不透明です。ただ、おそらくプラスの影響をもたらすだろうという希望があるだけです。

ところで、こう思った人もいるでしょう。

「CO2排出が多いことを知っているのに、なんで列車じゃなくて飛行機にしたの?」

いい質問です。
結局、わたしは利便性を優先したのです。飛行機は2時間、たったの40€で移動できます。列車だと1日がかりの移動となり、値段も3倍ほどに膨れます。こうした金銭的、時間的な理由があっても、サステナビリティを勉強する身で明らかに環境に悪いことをするのはとても矛盾していると感じます。

悩ましきカーボンオフセット

時間をかけていろいろ考えた末にカーボンオフセットをした今、やっぱり最適解は飛行機に乗らないことだと改めて思います。おそらく排出したCO2を100%オフセットすることはできないでしょうし、そうした点でモラルの面で葛藤を感じずにはいられないし、なにより面倒だし。

とはいえ、これからも飛行機に乗るという選択肢を選ぶことはあるでしょう。そんなとき、「しょうがない」と目をつぶるのではなく、できることを探して最善の選択をするようにしたいと思います。オフセットプログラムは最善の方法ではありませんし、開き直るための材料でもありませんが、何もしないよりはいいとと思います。

みなさんも次に飛行機に乗る時、ちょっと考えてみてください。

注釈
*1 出典: itmedia, 2008, https://www.itmedia.co.jp/bizid/articles/0807/18/news062.html
*2 出典: 環境省, 2018, https://www.env.go.jp/earth/ondanka/mechanism/carbon_offset/guideline/20190228guideline3.pdf
*3 出典: Guardian, 2019, https://www.theguardian.com/travel/2019/aug/02/offsetting-carbon-emissions-how-to-travel-options
*4 出典: FoE Japan, n.d., https://www.foejapan.org/climate/carbonoffset/index.html
*5 Climate Care, https://www.climatecare.org/calculator/


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