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PSO2の自キャラが出てくる日常系コメディSS-1「守護輝士の幻創体」

このSSはPSO2の二次創作です。©SEGAだ。他作品をモチーフとしたキャラもいる。タノシンデネ!

 11月のアークスシップは、未だハロウィンの名残が残っていた。アタシ……小凪葉まゆは、いつもどおり惑星ナベリウスのブドウ農場に向かう任務を受けていた。

アタシは小凪葉まゆ。倉庫管理と惑星調査を任されている女性アークスで、クラスはファントム。ミーハーなのでファッションも髪型もよく変える。カワイイっていいよね!

 キャンプシップ発着場にたどり着くまでは順調だった。だけど、そこからが妙に混んでいる。渋滞の先頭を見ると、見知った顔が居た。
 「ですから、いくら守護輝士といえど、無理なものは無理ですよう」
 「むー」少女の雰囲気をまとった少年は、頬を膨らませている。

この子はらん豚。髪の上の方を猫耳に、垂れた部分を三編みにしている。服装はコロコロ変わる。滅茶苦茶カワイイし、冗談みたいに強い。クラスはファントム。そしてなんと、この次元での守護輝士。プレイヤーの数だけ守護輝士は居るってことにしておいてください。

 ごめんどいてと渋滞をかき分け、先頭にたどり着いた。膝を折り、目線を合わせる。
 「ランちゃん、何があったの?」
 「許可証なしで出撃しようとしたんですよ。いくら守護輝士といえど、越権に過ぎます」
 「ああ、それはやっちゃダメなやつ……」
 「というか、今、らん豚さんは、極限訓練に出撃しているはずなんですよね。どうしてここに居るのかという問題が……」
 「ええ……?」状況が掴めていない。

 「失礼失礼。では、出撃中の彼とは連絡を取れないのですか?」
 後方から、また別のアークスが渋滞をかき分けてやってきた。白と赤のベースウェアに、水色のラインが入った白いアウターを羽織っている、凛とした女性だ。

彼女はピュリファイア。クラスはハンター。肩まで届くであろうセミロングの銀髪は、後ろでくるくるとまとめられている。同性愛者を公言していて、女性アークスを夜な夜な食い散らかしている……らしい。というかアタシもやられかけた。正直苦手。黒の民をいたぶるのが生きがい。付いたあだ名はヨーカイスレイヤー、それとアンチトラップ。

 「げっ」
 「『げっ』とはなんですか、マユ。別に今取って食おうというわけでもあるまいし」
 「貴女は素行が問題なの! ……で、担当官さん。彼のステータスはどうなってるの?」
 担当官は少々お待ちをと言い、端末を操作し始めた。ピュリファイアはらん豚を訝しむような目で見る。
 「それにしても、妙ですね。普段の貴方からは不浄の香りがするのですが、今は感じられない」
 「不浄?」
 「そう。ウーダンや黒の民から漂うような、強い香りです」
 「貴女の感覚はよく分からないわ……」
 「まどろっこしいので単刀直入に言うと、この守護輝士、多分女になってます」
 「……は?」
 理由はわからないが、ピュリファイアの嗅覚は割と信頼できる。信頼できるがゆえに、この後のセリフも予想できてしまう。
 「ですから、このゴタゴタが終わった後、私の部屋に来ていただけると……」
 表情はもはや捕食者のそれであった。らん豚は本能的に恐れをなしたのか、アタシの服の端を掴んで、後ろに隠れた。
 「やっぱり取って食うつもりじゃない……ダメよ。というか貴女、こんな子供もなんて見境なさすぎない?」
 「マユも可愛いのは好きですよね?」
 「そういう問題ではなくて……」

 「……えーと、よろしいですか?」担当官の確認が終わったようだ。
 「それで、どうでした?」
 「守護輝士は問題なく訓練を周回していますね。じゃあこの子が誰かってことになりますが……」
 一呼吸置く。
 「多分幻創体です。ただ、守護輝士の幻創体ということで保有エーテル量が尋常でないため、今回はスキップ・センサード博士の処置を受けることになるかと」
 厄日である。幻創体絡みの手続きは非常にめんどくさいのだ。
 「それで、博士のラボに向かうにあたって、この子が道に迷うのも良くないので、引率をお願いしようかと」
 「分かりました。ではピュリファ……」
 居ない。面倒を察知して逃げやがった。
 「……アタシが行きます」
 「お手数ですが、よろしくおねがいしますね」
 「よろしく、おねえちゃん」
 まあでも、カワイイからいいか……。約得役得。

◆◆◆

 アークスシップ、ラボ049番。エーテル絡みの研究を行うこのラボは、博士ですらも幻創体だという。
 応接室内に入るやいなや、机と椅子が具現化され、奥のドアからポットと人数分のカップ、そしてスティック状の何かをお盆に載せた男性のキャストが現れた。銅と金を織り交ぜたような色がまばゆい。

彼はユアンスウ肆式。キャストなので、要はロボ! パッと見た感じとは裏腹に、実は繊細なシルエット。登録上のクラスはバウンサーだけど、戦闘はからきしらしい。専らスキップ・センサード博士の助手をしている。博士から贈られた旗を大事にしていて、いつも左肩のパーツに固定しているみたい。

 「ようこそ、ラボ049へ。お話は伺っていますよ」
 「はじめまし……ってユアンスウさんじゃない。今は何代目?」
 「このボディは四代目ですね。エーテルとフォトンを混合したものを動力源としています。今は生活試験中です」
 博士のわがままには困ったものですよ、と苦笑する。
 「まあ、座ってください。実はこの部屋自体が検査室兼処置室になっています。処置が済んだら博士も姿を見せるはずです」
 助手は、真っ黒な液体を手際よくカップに注ぐ。甘い芳醇な香りがした。
 「地球との貿易で得られた珈琲です。そのままだと苦いので、隣の油脂と砂糖でまろやかにすると飲みやすくなります。封を切ってカップに流し込んでください」
 「ありがと」「ありがと!」

 らん豚(の幻創体)は素直にカップへ糖を流し込む。アタシは……
 「噂で聞いたことがあるんだけど」
 「なんですか?」
 「地球人ってこの珈琲を黒いままのむらしいって」
 助手は感心したようだ。
 「ええ、ええ。確かに何も入れなければ苦いですが、これがかえって目覚ましに役立つらしいのですよ。地球人は睡眠が必要な種族ですから、起き抜けに脳をシャキッとさせたいと」
 アタシも試していいかな? と一言ことわると、冒険家ですねえ、と返ってきた。
 意を決して口に含んだ瞬間、舌が苦味の暴力に蹂躙され、勢いよく吹き出してしまった。
 珈琲まみれになるユアンスウ。言わんこっちゃないと頭を抱えるらん豚。
 ラボ管理ポッドから這い出てきたスキップ博士は言った。
 「モップとタオルは具現化しておいたから、掃除よろしく」
 そしてポッドの中に帰っていった。

スキップ・センサード博士。登録上は女性のヒューマンだけど、ほとんどいつもペストマスクを装着しており、素顔を見た者はいないため、もしかしたら別の種族かもしれない。ベルトまみれのウェアを着ており、大抵は薬品と珈琲の香りのどちらかを漂わせている。想像から生まれた幻創体で、どこかの財団に監禁されていたという設定らしいものの、直接の元ネタを見ても彼女との性格的な共通点はあまり見いだせなかった。幻創体って複雑。

◆◆◆

 珈琲を拭き終えたあたりで、また管理ポッドから博士が這い出た。
 「ご苦労さま、ユアンスウ。私が引き継いで説明するよ」
 助手は「御意」と言い、後ろのドアに消える。
 博士は立て板に水めいて説明を始めた。専門的なことは分からなかったが、要はこうだ。

 「この幻創体は性別で言えば完全に女性」
 「放っておけばエーテルを放出しきって二週間から一月で消滅する」
 「ただ、検査した結果、本人が長く生きたいと望んでいることが分かったため、エーテル放出量の緩和および食事でのエーテル供給を行えるようにした。つまり消滅しない」
 「可愛さは100%継承」

 博士は一度黒い珈琲を啜ってから、まとめた。
 「とまあ、タネを明かせばなんの変哲もない幻創化現象だよ。ただ、エーテルの量が大きいとシップに及ぼす影響も大きくなる。だから、ちょっと回路を絞らせてもらったよ。後付の確認だけど、良かったかな?」
 「うん、力が抜けていく感じがなくなってる!」
 「そりゃ良かった」
 このあたりで、一つ疑問が浮かび上がる。
 「にしても博士、今回の幻創体は誰が生み出したんです?」
 「そこなんだよ。ツテに当たってみたが、守護輝士は知名度が大きすぎて絞り込めないのよ」
 「ニンジャの彼らはどうです?」

ニンジャ。彼らも幻創体。原典では生身で銃弾を掴んだり、素手で敵の首をへし折ったりできる。幻創体になっても、物理的な運動能力で言えばそのくらいは出来ると結論付けられた。正直エネミーにこんな動きをされていたら負けていたとすら思う。ただ、こと対ダーカー戦となると重要なのはフォトン適正の方で、これは個人差がかなり出ているらしい。

 「今回はシロだよ。全員に聞いた。勿論私達も違う。一番有り得そうなマトイさんも心当たりがないって証言している」
 「じゃあ誰が……」
 「……まあ、一人だけ聞いてないのが居るね。……ほら、おいでなさったよ」
 入口側ドアが開く。そこには――

 らん豚が居た。

◆◆◆

 「管理官から『ラボ049に来たら面白いものが見られる』って聞いて来たんだけど」
 一呼吸置く。
 「ぼくが二人ってどういうこと……?」
 「すごい! オリジナルだ! わたしよりカワイイ!」
 オリジナルは、幻創体からワシャワシャとしっぽを弄られながら説明を受けている。幻創体は幻創体で、後ろ手に髪の毛を撫でられている。微笑ましいのでこっそり写真を撮った。
 「ああ、でも幻創体なら心当たりはあるよ。訓練中、なんとなーく女の子になった自分がどんな姿か見てみたいって思ったら、本当に生まれてた感じ……だね?」
 「観測データも出た。多分それで間違いないよ」
 「あはは……」要は事故だ。オラクルではこういうことがよく起こる。
 「まあ、それはそうと、この子の名前は決めてやらなきゃいけないね」
 「名前か……」
 助手がやってきて、何冊か辞書を置いた。博士は幻創体が文字を読めることを確認して、管理ポッドに戻ってしまった。
 「名前、自分で決めていいの?」
 「いいぞ!」
 「じゃあ……オリジナルの名前をこの言語に置き換えて……」

 今日この時をもって、マヤーレ・インフリアが誕生した。

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